10-1
12月初旬、冬の入口を過ぎた頃に僕と緋空ちゃんの2人暮らしは終わりを迎えた。
「ねーねー、彩陽ちゃーん。今日は家行っちゃダメー?」
「別にいいけど……ライブ近いんじゃないの?」
「まだ1週間あるし、だからこそ伸び伸び練習したいじゃん」
「僕の家……スタジオじゃないんだけど」
そんなことを気にせず指でVサインを僕に見せつけて、よろしくねの意思を伝えてきた。
「でもその代わりに優秀な先生いるよ」
「お金取ろうかな……」
まぁまぁそんなこと言わずに。と両手で肩を揺すって駄々をこねてる花蓮ちゃん。
仕方ないと溜め息混じりに、僕は家に上げてしまう。
毎日というわけじゃないけど、そんな日常が年を越して3学期の終わりまで続いていた。
あの冬を超えてもう春になろうとしている。
ここ最近はかなりの頻度で僕の部屋にやってくる。
バンドでやっているという曲の運指とか、ソロのアレンジとか……。
本格的にお金取った方が良くないかなこれ。
そんな感じで、また僕の部屋であらかたレクチャーすると花蓮ちゃんは一息ついてそう言った
「先輩の卒業ライブだし盛り上げなきゃね。もし良かったらゲストで彩陽ちゃんも……」
「僕は出ないよ」
一言で拒否すると、彼女はカタカタ笑い出した。
「やっぱそっかー! まぁ有名ネットアーティストだし、仕方ないね」
仕方ないというか、絶対嫌だ。
そもそもあの日から動画も更新していない。
佐藤さんと話してもどうにもならなくて、2人で泣きながらまた会おうと約束したあの日。
あの冬を超えてもう春になろうとしてるのに、僕の胸の中ではまだ冷たい風が吹いている。
「それでさ、まだ曲は作れないの?」
楽しみにしてるのになー。と言わんばかりに花蓮ちゃんは椅子から足を投げ出す。
僕はまた曲が作れなくなった。
「まだ……そう言う気分じゃない」
動画の更新をしていないのも、新しい曲が思いつかないからだった。
既存の楽曲をコピーする気すらも起きない。
即興でセッションしてみようなんて提案されたこともあったし、試したけど……曲に出来るようなフレーズは一個もない。
その上、どこか指も追いついてこない。
ギターを弾くこと自体になにか良くないノイズが生まれている気分。
「また流行りの曲のアレンジすればいいじゃん。聴きたいなー、ソロギターってかっこいいし」
「それやったら2度と曲が作れなくなりそうだから……ごめんね」
楽譜の売り上げと既に配信してる曲のサブスク収入で生活はなんとかなってる。
ただ、そろそろ立ち直らないとまずい。
「いやいや! 別に構いませんとも! ただのファンのわがままということにしてくだせえ」
「なにその喋り方。というか、そういうところは配慮するんだね」
ふっと自然と笑いが漏れた。
花蓮ちゃんのこういう気楽さにたまに助けられる。
深く考えすぎて死にたかった時と同じマインドになりそうでも、花蓮ちゃんの言葉と緋空ちゃんとの思い出が僕を現世に繋ぎ止めてくれる。
「意外と配慮は出来るつもりなんだけどなー。流石に3ヶ月も凹んでたらあれこれ言うのも飽きると言うか」
「出来てないよ。配慮」
「ありゃ?」
彼女は「えへへっ」となぜか照れるように笑う。
わざとなのかわざとじゃないのか。
結局のところ花蓮ちゃんは花蓮ちゃんだし。
「まっ、でもいきなりよく分かんない叔父さんの家に家族連れて行かれたらやだよねー」
ジャン。とCコードを短く弾いてそうまとめる。
「いつか会うって約束したから。それでいい」
「いいのだったら〜♪ そんな凹んでないでしょ〜♪ あっ! これ面白くない?」
今度はさらにメロディをつけて歌い出した。
「言ってることは面白くないけど」
「んーでもさ、そんなに緋空ちゃんのことが気がかりなら会いにいけばいいじゃん。住所とか聞いてないの?」
もう3月だよ? 3ヶ月以上だよ? とダメ押しのように花蓮ちゃんは口にした。
「聞いてない。送り迎えするとは言ってたし遠いんじゃないかな……」
「聞けないの?」
「揉めたし無理な気がする……だから小学校にも行ってないわけだし」
「早く新しい動画見たいのにな〜」
あくまで花蓮ちゃんの興味は緋空ちゃんと僕というより、僕の弾く曲のようだった。
何も、どうしたらいいのか




