第44話 運命の行方(4)
次の日、私は一人で校長室にやって来た。もちろん、茶話部で問題行為があったどうかの報告の為にである。
先生達は前回と変わらない顔ぶれで、入室した瞬間から何とも言えない重苦しい空気が部屋中を満たしている。
それはそうだろう。まさに今から、茶話部の廃部か、停学か、何かしらの処分をすることが確定していると《《彼らは思っている》》のだから。
心を読んだところ、彼らの中で私を本当に疑っているのは教頭先生と学年主任の先生だけで。校長先生と茶話部顧問の先生は、通報自体を疑問視しているようだ。
とは言え、彼らが何を思っていたとしても私の進路とは全く関係が無い。私の読みと直感が正しければ、転校は避けられないのだから。
私にとっての茶話部は、この半年の高校生活の全てだ。かけがえがなくて、無くしたくない。
本心では今までと同じように、太陽君の淹れた美味しい紅茶を飲みながら、好きな部員達とワイワイしたかった。本当に楽しくなるのはこれからだったのに。
私は嘘つきな通報者を許していない。許せる訳が無いのだけど、犯人を辿る術は皆無で。今はこれ以上犯人探しをしても仕方が無い。
だから昨日の夜、ずっと考えて一つの結論を出した。いや、結論を出すというよりは、今自分が取れる選択肢の中で、より納得出来るのはどれかを選んだだけなのかもしれない。
とにかく、私が何とか納得出来る結論が一つだけあった。残されていた。
太陽君の言う通り、どの道このまま学校に残れないのなら、いっそのことUOONの学校に転校した上で犯人を見つければ良いし。
茶話部と秋見先輩達か、太陽君。どちらかを選ばないといけないなら、私は太陽君を選ぶことにしたし。
UOONに従うのは癪だけれど、転校しないのは余りにリスクが大きすぎるから、もう転校するしかないと思えてきたし。
三花ちゃんは「結姫が転校するなら一緒に行く」と言ってくれたから、彼女のことは気にしなくても良いし。
太陽君はお義父さんにこの件について聞いてくれたけれど、ノーコメントだったし。
これまでのことを全て踏まえて、私は自分の進路と茶話部の未来を決めてここに来た。
その結論は、こうだ。
――転校はする。でも、茶話部は学年末までは続ける。廃部にはさせない。
廃部して下さいと言われて、「はい、そうですか」と認める私では無い。言いなりには絶対にならない。なりたくない。
私はあくまで自分の運命は自分で決める。誰かに指図されるなんて真っ平ごめん。
転校するという判断をしたけれど、「運命に抗いたい」という意思を曲げた訳ではない。私の気持ちは、口を開けば炎が出そうなほどにメラメラと体内で燃え上がっている。
校長室で先生達と私の四対一。誰も話し出さないでいると、校長先生がようやく口を開く。
「企比乃さん、早速ですが答えを聞かせてもらいますね。短刀直入に、茶話部で問題行為はあったのでしょうか?」
私は、確信を持って言う。
「いいえ、絶対にありませんでした」
「……そうですか。それでは仕方ありません。茶話部は廃部として、部長である企比乃さんを停学一ヶ月とします」
本当に酷いこの茶番が、全てシナリオ通りであることは心を読めば分かる。校長先生は、教育委員会から指示された通りの処分を下した。それだけのこと。
――でも、そんな処分、私は受けませんから。
それに校長先生からしても本意では無いのですよね。分かりますよ。
「その処分は、受けません。絶対に」
「いつまでわがままを言うのですか。この期に及んで、受け入れなさい!」
金魚の糞みたいな教頭先生が騒ぐ。ようやく口を開いたと思えば、大きな声で吠えることしかできない。そういう人間は嫌いだから無視。
「校長先生、私から言いたいことがあります」
「言ってご覧なさい」
「私は四月からそちらへ転校します。ですから、茶話部は三月末まで続けます。その旨を教育委員会への回答として下さい。そうすれば、今回の匿名通報は取り消されると思います」
私は目線で焦がすつもりで、目の焦点を校長先生にじっと合わせる。
――言われた通りにしないと、今の私は何を仕出かすか分からないですよ。
「……分かりました。何か考えがあるのですね。まずはそうしてみましょう」
「校長先生、そんな対応ではダメでしょう。今日中に最終的な処分を決めなければ」
「いいえ、教頭先生。理由はありませんが、私はこの対応で良いと思います。それに厳密な回答期限は明日でしょう。それまでは我々も待ってみましょう」
「校長先生、ありがとうございます。進展があれば教えてください。転校の手続きも、よろしくお願いします。それでは」
言いたいことだけをきっちり伝えて、私は足早に校長室を去った。
「ふぅ……」
今日付けで茶話部が廃部となることは、何とか避けることが出来た。私の読みが当たっていれば、これでもう少しだけ茶話部を続けることが出来るはずだ。
…
翌日、驚くほど早く、教育委員会からの回答があった。その結果、匿名通報は誤りだったとして、あっけなく撤回された。
――うん。予想通り。
私を転校させる為に茶話部を潰そうとしたとすると、私が転校すると宣言したことで茶話部を潰す意味が無くなる。だから、教育委員会もといUOONは、通報を撤回したのだ。
太陽君の言う通り、UOONには良い人もいるのだろうね。私は太陽君の言葉を信じて、この選択をした部分もある。とにかく、撤回してくれるだけの情がUOONにあって良かった。同時に、UOONが黒幕と確定したことにもなるのだけど……。
先生達からの謝罪を受けても、気分は晴れない。教育委員会からの謝罪文書は、一瞥してからそのまま職員室のシュレッダーでビリビリに破いてやった。
もういい。決まったことは、忘れよう。それよりも考えるべきことがある。
私が意地でも残した茶話部。終業式までの残り一ヶ月をどう楽しんで、どう終わらせるか。
これからはそれだけを考えて、楽しく生きよう。太陽君にも強く当たってしまったし。まずは「ごめんなさい」を言うところからかな。
私はスマホを取り出して、茶話部活動再開の連絡を部員みんなと、三花ちゃんと香取さんに送った。太陽君には個別で「昨日は強く当たってごめんなさい、次の活動日は絶対に来てね」と伝えた。
「んーー!」
大きく背伸びをする。
肩の荷が降りて、スッキリした気分だ。
二月になってしばらく経つから、そろそろバレンタインデーが近い。柄では無いけれど、お詫びも兼ねて太陽君にチョコを渡したいな。どんなのが欲しいのだろう。
問題が解決したのに、今度はチョコでまた悩まないといけないのね……。
そうだ!
部長権限で、次の活動日はバレンタインデーにしてしまえ笑
今日からはバレンタインチョコをどうするか考えながら、気持ちを切り替えよう。
■
――あ“あ“あ“あ“ーー!!!!!!
こんなの、生き恥を晒しているのも同然だ。
バレンタインデー当日。太陽君への本命チョコを携えて学校へ向かっている。ただ単に本命チョコを持っていくだけなら、こんなに恥ずかしい思いはしていない。
太陽君が欲しいと思っているチョコが大きすぎて、トートバッグから明らかに《《はみ出ている》》。これでも家にあった一番大きなトートなのに。
バレンタインデーにチョコを渡すなら本当に欲しいものを渡したかった。そこで私は、数日前に太陽君の心をこっそり読んで、どんなチョコが欲しいのかこっそり心を読んでみた。
『バレンタインにチョコって欲しい?』
『うん。大きなハートがいいな』
伝わって来るイメージは、抱えきれないくらい大きな致死量のチョコに、太陽君が潰されている様子で……。
――即座に却下。
そこでアイデアだけ頂戴して、持ち運べるレベルで出来るだけ大きなチョコを渡すことにした。
チョコレート屋のネットショップで買った、紅茶に合いそうな大きなオレンジ味の板チョコは、三十センチ四方で厚さが一センチもある。
それを出来るだけ体積が最大となるようなハート型を目指してコンパスで紙に作図して、それ通りに慣れない包丁でザクザク削っていく。ハート型の定義は調べても見つからなかったので、形はなんとなくだ。
この削った部分は秋見先輩達のエサ…じゃなくてオヤツにするから無駄はない。
――私ってかなり優しいと思う。
そのせいで、登校中の今、こんなに恥ずかしい思いをしている訳なのだけど。
こんなに大きなチョコを学校に持ってくる人が私だけってことは、これまで本命どころか義理チョコすら渡したことがなくても分かる。
とにかく、やるならちゃんとやりたかった。
太陽君に強く当たってしまった贖罪の気持ちも少しはあって。そう言う意味では、このチョコは私にとっての十字架なのかもしれない……。
周囲からの目線をひしひしと感じながらも、何とか教室に到着した。後は割れないように保管して、太陽君の喜ぶ顔を見るだけだ。
結姫ちゃんは転校を受け入れた代わりに、何も処分を受けずに済みました。
太陽君と一緒に転校するので、お別れもしないですよ!!
(ちなみに、匿名通報の犯人は47話で出て来ます)
とにかく、これで進路と匿名通報の問題は結論が出たので、後は香取さんの問題です。
そして、太陽君のために、約三十センチ四方の特大本命チョコを持って登校する結姫ちゃん。
次回、バレンタインデーの茶話部です。
これからは明るくいきます!!




