持ってくる聖火
俺の目の前に座る仮面をつけたその人からは異様な空気を感じる。
この人が集落の中で長であることはそのオーラと姫と呼ばれていたことから一瞬で分かった。
姫は仮面越しからでもわかる程に俺の目を凝視していた。
何とも言えない緊張感に、俺から先に喋ることは出来ないと悟る。
少しして姫の方から口を開いた。
「あなたは何でこんな所に来たの?」
そう言われると説明が難しい。
普通の人は異世界転生の話なんてそもそも知らないだろう。
俺はある程度大雑把に答える。
「鬼についての調査を命じられまして。」
「鬼について…それは災難だったわね。」
あれはまさしく災難という言葉が似合う。
この島の鬼は強さのレベルが違った。
基本的には集団でいた方が生物というのは強い。
それでも、適わなくて結果的に誰かを犠牲にするという方法を取らざるを得なかった。
そして一人になった後もことごとく追い詰められていった。
「鬼はどいつもあんなに強いものなんですか?」
俺は大真面目に問いかける。
全個体があんな強さだったらひとたまりもない。
「あなたがどんな鬼と当たったか私には分からない。
けど、もっと強い奴がうじゃうじゃいると考えた方がいいわ。
もちろん、弱い子供や女の鬼もいたりするけど。
逆に集団で襲い掛かってくるなんてパターンもあるわね。」
もう逃げ出したくなってしまう。
そもそもあの時別れてしまった選択は正しかったのだろうか。
他の二人は無事だといいけど。
姫は俺の頭に手を乗せる。
「なんだか、不安そうな顔をしてる。
ここにいる分は安全だから、大丈夫。」
「ここは何で安全といえるんですか。」
「私がいるから、ここにいる人たちは皆私が守るもの。」
理由なんかよくわからない。
それでも、凄く安心して急に疲れが押し寄せた。
多分、気絶するように眠ってしまったのだろう。
その後のことは全く覚えていない。
ただ、仲間たちが心配で他の仲間たちにも会いたいと思ったことは唯一覚えている。
寝言で仲間たちの名前を何度も呼んでしまっていたらしい。
「そっか。」
気づいた時には、俺は布団の上にいた。
集落のメンバーの男性が様子を見ていてくれたらしい。
目を覚ました俺に気付いてくれたようだった。
「おお、ゆっくり休んでくれていいんだよ。」
「すいません、いつの間にか寝てしまったみたいで。」
「いや、全然いいんだよ。
俺も一人で鬼に襲われたら凄く疲労するだろうしね。」
俺は、もう大丈夫と外に出てみる。
すると、また別の人が俺の元に駆け寄ってる。
「コウイチ君、ちょうどよかった。
来てもらってもいいかい。」
「はい、何でしょうか。」
俺は、訳の分からないままついて行ってみる。
見覚えのある、つまり姫がいたところまでもう一度やってくる。
中へ入るよう促され、入ってみればそこにはグラハさんとフィーロさんがいた。
かすり傷や汚れは多少目立つが、それ以外に傷はなかったようだ。
お互い顔を見あって、急に涙が零れ落ちる。
「二人とも!」
「ああ、コウイチ君。
生きていたんだね、本当に良かった。」
「僕も逃げるのに必死で君を助けられなかった。」
そんなことはもういいと三人で抱きしめあい、お互いの生存を喜び合った。
それを姫は優しい目で見つめている。
二人は姫に向かって深々と頭を下げた。
「本当に助けて頂いてありがとうございます。」
「まあ、何かの縁という奴だからお礼ならコウイチ君にでも言って。」
どうやら、姫が助けてくれたようだった。
そして姫は視線を俺たち全員に戻す。
「さて、君たちは誰かの指示でここに来たと言っていたが戻りなさい。
調査をするにしたって君たちにはまだ足りていないことばかりだよ。
一応、何か成果が欲しいのなら私が答えれる範囲で答えるから。」
それは、俺たちが一番理解していた。
それでも質問に答えてくれるところに姫の優しさを感じてしまう。
俺も、そこに敬意をもって少ない質問で終わらせる。
「もし、ギルティについて何か知っていることがあれば教えてください。」
「ほお、久しぶりに聞く名前ね。
申し訳ないけれど、この島に関与のある生物はいないと断言できるわ。
この島を出入りした話なんて私くらいしか聞いたことないわ。」
「分かりました、答えて頂いてありがとうございます。」
関与がないと分かったならここに滞在する必要はない、ここから出ることにする。
そういえば、もう一つ。
「姫の名前を聞いてもいいですか。」
「それはまだ、あなたたちが知らなくてもいいことよ。
また会えるのを、楽しみにしておくわ。」
そうして、俺たちはあまりにも少ない滞在時間で大鬼の島を出る。
それは、もちろん用がなくなったという事が理由ではあるが俺たちの実力不足もあった。
グラハさんですら、全く歯が立たない敵がこんなにも簡単に存在する。
俺は島をでる船の中で、あることを考えていた。




