乱闘だった(中②)
岩が吹き飛び地が割れる。
剣戟が飛び交い空気をも切り裂く。
鉄製の矢尻同士がぶつかり合い地に落ちる。
魔法というファンタジー世界において、己の肉体のみで魔法の域に差迫らんとするが如き戦闘が村の3箇所で行われていた。
勿論、従業員はもとより関係者は避難済なので被害は精々家屋の倒壊程度だ。その被害総額を算出するのも億劫になるほどの激戦だが。
「タクミ、貴様の家族は人間の範疇に収まらんな…まだ貴様のほうが常識の範疇に収まっていると言えるレベルだ。」
中佐はそう言いながら3箇所の戦闘を俯瞰的に眺めていた。
恐らく【唯一ノ魔法】を持っているにも関わらず徒手や武器に拘って闘う魔人4体。
中佐が言うには魔法を極地まで極め過ぎ、別の楽しみ方を模索した変わり者の悪魔…それが血染姉妹だそうで、最早人間の生み出した【悪魔召喚】の楔には囚われない存在らしい。
それを知らなかったリアンヌ…ダンクには誤算だっただろうが、こと雷鬼たちにとっては嬉しい誤算だった。
あそこまでの戦闘能力に【唯一ノ魔法】まで加わられたら正直打つ手はなかったと雷鬼は考えていた。今だ【唯一ノ魔法】に関しては知らないことが多いが、ダンクの【調律者】でも直接攻撃系ではないのにも関わらず苦戦したのだ。
それが幾千年にも及ぶ研鑽を積んだ悪魔なら考えるまでもない。
と、そんなことを考えていたら手前に見える飲食店が文字通り吹き飛んだ。正確には拳鬼に吹き飛ばされた幼女メイドが飲食店に突っ込み、その余波で吹き飛んだ。
「…自分達の村って覚えてるかな?」
「このまま行けば30分もしないうちに廃村になるな。」
そんな吹き飛ばされた幼女メイドは高笑いしながら瓦礫を吹き飛ばしながら飛び出し、再び拳鬼へと突っ込んでいく。
相変わらず傷らしい傷は見えないが、最早メイド服はボロ布と化している。幸い体型が幼女なので思うところはないが、アチラはそうはいかない。
「はははははははっ!!」
「ふふふふふふっ!!」
手元がブレて残像が見える速度で刀で切り結ぶ美女と美少女(尚、斬鬼は仮面のため顔は見えないが)。その衣服は刀傷が至るところに入っているし、かなり際どい部分が多い。しかも立体的な機動で立ち回っているためこれが目のやり場に困る。しかし幸か不幸かそれを気にする者はいない。
こちらも戦闘の余波が酷く、あまりにも速い剣速でソニックムーブが発生。それが副次的に飛ぶ斬撃となり周りの家屋を巻き込んでいる。
「あー、家が結構細切れにされてるなぁ…またラムリスさんに住宅の建設お願いしなきゃな。」
「あと15分くらいで廃村確定だな。」
「おい、さっきより村の寿命が減ってる…おわっ!?」
中佐のあんまりな言葉にツッコミを入れようとしたとき正面から矢が飛来してきた為咄嗟に避ける。
「…タクミ、矢で岩盤が爆散したんだがあれは何だ?」
雷鬼の避けた矢が後方の岩盤に突き刺さり亀裂が入ったかと思ったら爆散し弾け飛んだ。魔力の残渣は感じ取れなかったのだろう、故に雷鬼に聞いてくる。
「あー多分、射鬼の【螺散鳳仙】だろ。打つ動作に捻りと気を込める技だった筈だ。」
「…俺はあの3人が魔人と言われても信じるぞ。」
「それには若干同意しかけるところだが…今はそれよりもこっちが問題だ。」
拳鬼、斬鬼、射鬼が魔人の相手をしている間に雷鬼と中佐は別の問題を解決しなければならない。それは未だに微動だにせず静止したままのリアンヌ…いや、ダンクだ。
「…ダンク、か。」
紅髪メイドの【遅延覚】という魔法により何故か微動だにしないダンク。こちらも放置できる問題ではない。
自身の娘と思っていたはずが、まさか人格そのものは昔自身が処断した人間のものと分かったときの中佐の心境は相当なものだ。しかし今はそんなものはおくびにも出さず、ダンクを見ている。
「時間凍結か精神凍結か、仕組みは分からんが好都合だ。」
そう言うと中佐は手に持っていた拳銃に一発の弾丸をゆっくりと込めた。何時もならば【次元庫】を用いてノーモーションで弾丸を込める中佐が、あえてそうする心境とは…せめて一思いに、ということであろうが。
「待て、中佐。」
「…何故だ?」
雷鬼がそれに待ったをかける。雷鬼には先程のダンクと幼女メイドの会話がどうにも引っ掛かっていた。
『だが…なんじゃお主は?気持ち悪いヘドロのような魂じゃなぁ?中の魂は純粋無垢、外はヘドロとはの。』
『っ!?…とにかくあの二人を早く片付けてくれないかな?僕もこれからの予定が詰まってるんでね。』
幼女メイドは確かに魂を中と外、と表現した。つまり二分しているのだ。ダンクは物心つく前にリアンヌに憑依したため人格は存在しないと言っていたが、果たしてそうか?
ダンクの幼女メイドの問いに対する息の飲み方も不可思議である。あれは不意に核心に迫られたときの反応。であるならば…
「…リアンヌはまだ生きている可能性が高い。」
「何だと…?」
中佐は怪訝そうに雷鬼の方を向く。
「ダンクは魂の状態で生まれて間もないリアンヌに憑依している。確かに自我や人格はその後、育まれていくものだ。だけど魂というものは何処でその身に宿る?俺はそういったことに詳しくはないが、先程の悪魔の受肉体のように最初からゼロの身体でもない限り生きてる人間に憑依するということは魂が同居するってことじゃないか?故のさっきの幼女メイドの言葉だ。」
中の魂は純粋無垢、外はヘドロ…とはつまり中はリアンヌの魂、そして外をダンクの魂で囲っていると考えるならば。
完全に魂が置き換わっているならばそんな表現をしないであろう。そして幼女メイドがあそこで嘘を付くメリットも皆無。
「つまり…リアンヌ自身は生きている?」
「ああ、その可能性が高い。【調律者】も魂経由で間借りしていると考えれば辻褄は……」
「いやー、ご明察だよ。」
「「!?」」
場に似合わない可愛らしい声。それが聞こえた場所に雷鬼と中佐が視線を向けると、大粒の汗を掻きながらも余裕の表情で手を叩くダンクの姿があった。
ダンクの憔悴具合から、どうやら何かしらの手段で無理やり魔法を破ったことがわかる。
「まさかあの悪魔の一言でそこまで的確に推察されるとは恐れ入るね。その通りさ、この身体の主であるリアンヌの魂はまだ生きている。いやー、最早殺す以外に手段は無いと思わせて娘を殺めた父親の絶望を拝んでみたかったんだけどねぇ?」
どこまでも悪辣、どこまでも非道な考え方だ。
「しかも切り札の一つとして用意しておいた魔人共も直に離反、お先真っ暗さ。だからもう早々に決めてしまおうかな?」
そう言いながらダンクが手を挙げると、いきなり雷鬼達にから半径100メートル範囲に気配が現れた。
「っ!どうしてここまで気付かなかったんだ?」
「大方、ダンクの魔法だろうな。」
その気配も十や二十ではない。百、二百…それ以上、最早数えるのも億劫になるレベルだった。
「君達はここで潰しておかないと後々厄介だからね。勿論あのお仲間も。王国兵は魔獣兵で十分だし、ならば残りの操者全てで油断なく君達を潰そう。もうちょっと遊んでいたい気持ちもなくはないが、これで終わりだよロイ。」
第2ラウンドが今、始まろうとしていた。




