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ユニークスキル《釣り》が面白そうだったので、今日も俺は釣りをする  作者: メラ
第一エリア《シーモンクシヴェリオン》
20/24

20.通学路<リアルワールド>

3連休が明け、近所さんが飼ってる鶏の鳴き声が退屈な学校の始まりを告げる。外は晴れ。暑苦しい夏が過ぎ、涼しい風が吹くようになってからのことだった。



「ふああ~おはよう、さく……美咲」



起きて階段を下りるとリビングのソファーに座って美咲は朝のニュースを見ていた。思わず美咲を桜と言いそうになってしまうが、慌てて言い直す。寝ぼけているのもあるはずなのだが、最近、美咲の呼び方はこっちの方が多い気がする。



「おはようお兄ちゃん。ゲームしすぎなんじゃない?昨日ちゃんと寝た?」

「一緒にログアウトしただろ?それにしても、今日はやけに早起きだな」



美咲は既に登校の準備を済ませているようだ。時計は6時半。中学生が登校するにしても少し早そうな時間である。確か、この家から美咲の中学校まで歩いて10分もかからなかったはずだが。



「うん。まあ、早めに行って勉強でもしようかなって。早起きは三文の徳っていうでしょ?」

「そうか。頑張り屋で結構なことだな」



食卓に目を移すと、一人分の朝食が置いてあった。パンとコーンスープに温めた豆乳。オーソドックスな朝食だった。キッチンを見ると食器が片づけられている。美咲はもう食べ終えているようだった。



「あ、そこに置いてあるのお兄ちゃんのだからね。食べたら自分で洗ってよ」

「へいへい、ってもう出るのか?」

「うん。じゃないと早起きの意味ないしね」



リュックサックとスクールバッグを抱え、美咲は立ち上がる。



「じゃ、行ってきまーす!」

「行ってらっしゃい」



バタン、と玄関の閉まる音と共に部屋に一人残される。



「……親父がいてくれたらなあ」



フランクで気さくな親父のことを思い出す。親父は仕事の都合で今は家を空けている。単身赴任中なのだが、何の気遣いなのか俺と美咲はここに残した。ここは一軒家だし、美咲もしっかりしているからお金さえあれば何とかやっていけると思ったのかもしれない。



または、友達と離れさせるのをかわいそうに思ったためか。友達と別れるより父親と離れる方が数倍寂しいはずなのだが、親父は優しさが空回りするタイプの人間だった。



「……ごちそうさまでした。じゃ、準備するか」



食器を片付けて、制服を着たり教材をバッグに詰めたり。そうこうしているうちに7時20分ごろを過ぎた。登校するにはちょうどいい時間帯だ。



「お母さん、行ってきます」



写真に向かって手を合わせる。家を出て鍵をかけ、学校まで歩き始めた。俺の高校まではここから歩いて30分ほど。十分間に合うだろう。



「おはよう、駿斗君」

「おはようございます」



近所のおじさんに挨拶を返す。ここらへんは小学生の通学路にもなっているので、見回りに来ている大人の人も多いのだ。だが、ある交差点を左に曲がると狭い道に入り、途端に人通りは少なくなる。



―――――――瞬間、俺の背後から凶刃が迫った。



「……おはよう、俊斗君」

「ああ、おはよう」



俺の耳元で、クラスメート……杉原野乃花の声が音を奏でる。その右手には、サバイバルナイフ。それが容赦なく俺の脇腹を掠めていた。ナイフは俺の脇腹で挟まれるように固定されている。突き出されたナイフを見切って脇腹に挟み込んだのだ。



「……昨日のご飯、何食べた?」

「ああ、ミートソーススパゲッティだった」

「へえ……おいしそう」



俺の脇腹からナイフを抜き取り、野乃花は尚も凶刃を振るってくる。それを見切り躱し逸らしながら、ごく普通の会話を続けていた。



「お前は何を食べた?」

「……ハンバーグ。おいしかった」

「それはよかっ、たなっ!」

「あ……」



突き出されたナイフの柄を掴み、野乃花の手首を捻って零れ落ちたナイフを宙で掴み、柄を野乃花の首元に当てる。



「今日も俺の勝ちだ」

「むむぅ……約束。そのナイフはあげる」

「ありがとよ」



苦笑を浮かべながらナイフをリュックサックに入れる。『毎朝の殺し合い(一方的)に負けたらナイフを譲る』。このクラスメート、野乃花の謎ルールだ。



すっきりしたのか、野乃花は無言ですすっと俺の横に並ぶ。朝の攻防が終われば、こいつは途端に無口なクラスメートに戻る。



「あのさ、もうやめる気はないのか?」

「……何を?」

「いや、毎朝の襲撃をだよ」

「……ダメ」

「だよなぁ……」



野乃花は学校の通学路で毎朝ナイフを持って俺を殺しにくる。女子であることと野乃花自体ナイフ術に詳しくないことが救いではあるが、そのナイフの振りに迷いはない。なぜこいつがナイフで人を殺そうとするのかはわからない。初めは人を殺すことがどういうことかわかってないんじゃないか、と思っていたがそういうわけでもなさそうだった。



こいつが、俗にいうサイコパスなのだろうと俺は思っている。今は俺が狙われているが、俺が相手にしなくなったら野乃花はほかの人間を狙い始めるかもしれない。だから俺はわざわざ人通りの少ない道を選んで通学しているし、学校のある毎朝相手をしている。



朝の攻防さえ終われば野乃花は途端に無口な少女に成り替わる。それらの理由もあって、俺は律儀に野乃花の相手をしているのだ。



「……昨日、何してた?」

「ん?ああ、ゲームだよ」

「……昨日、メールをした。でも、出なかった」

「あ、そうなの?夢中で気が付かなかった」



と同時に、野乃花は俺の特に仲のいい友達でもある。そもそも携帯を触ることが少ないから、気が付かなかったな。

野乃花は頬を膨らませる。



「……俊斗君が夢中になるゲーム。教えて」

「【オンリースタイルオンライン】」

「……あのVRゲーム?」

「ああ。三連休の初めにやり始めてな。普通にハマったわ」

「……私もやってみようかな」

「……ふーん、意外だな」



野乃花はインドア派ではあるが、ゲームとかはそこまで興味がないタイプだったはずだ。



「……よし、私も今日からやる」

「まじか」



ただし、決断は早いタイプ。『善は急げ』な性格なのだった。



「ハードとかも買わないといけないし、時間がかかるだろ。いつ集合にする?」

「……7時にはログインする」

「オッケー」



野乃花も俺も帰宅部だ。5時ぐらいには学校は終わるから、野乃花が来るまで2時間くらいは時間があるな。



「じゃあ、【アンドセル】っていう最初の街の喫茶店で集合な。入って一番近いとこにあるはずだから」

「わかった」



前方に学校が見えてくる。その鬱屈とは別に、友達とゲームを共にできるワクワクを俺は相反的に感じていた。

読んでいただきありがとうございます。

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