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ユニークスキル《釣り》が面白そうだったので、今日も俺は釣りをする  作者: メラ
第一エリア《シーモンクシヴェリオン》
21/24

21.待ち合わせの最中

時刻は7時の半分を過ぎている。


二時間前、俺はログインしてすぐに≪オロボゲ沼地≫の巨大な【ウェットスライム】に変化がないか、再び洞窟に潜った。結果的にいえば、【ウェットスライム】は綺麗にその場から消えていた。他のギミックが発動した可能性もあるが、にゃん助に連れられた洞窟のボスを大剣で真っ二つにした時に、ボスと同化したあのスライム。恐らくあれがここにいた【ウェットスライム】なんじゃないかと思う。



同化したボスのネームが【ウェットスライム:ワイフ】から、【ウェットスライム:ワイフ:ハズバントエイト】に変わっていたが、おそらくそいつがその(ハズバンド)だったのだろう。



その奥には黒く細長いオブジェがあり、既に破壊されていた。そのあと、にゃん助に案内された洞窟へ行ってみると水のベールが消えていた。



ちなみに、桜が街をぶっ壊したことで発生したあのクエストの鉱石だが、何もないと思っていたあの洞窟の分かれ道の先はNPCに聞いたところ、実は採掘ポイントで、《採掘》スキルを持っていないとダメらしい。おかげでまた10溜まっていたスキルポイントを《採掘》スキルにつぎ込む羽目になった。一体いつになったら俺の欲しいスキルを習得できるのだろうか。



そうして無事にNPCのクエストを終え、現在、俺は野乃花を待っている。



「……退屈だな」

「……退屈なのじゃ」



ログイン地点付近の喫茶店の窓から外の景色を眺め、俺はぽつりと呟いた。同じく机に頬杖を突くティアもうなずく。



今は秋。その季節にしては珍しく(そもそもゲーム内で季節があるのかわからないが)、外では雨が降っている。VRゲームで、『雨』という気候状況は完全に再現されているわけではない。感覚で言えば体をミミズが伝っているような不快感をプレイヤーに与えている。室内に入ればその不快感はすぐ消えるのが救いだが、逆にいえばその不快感は室内に入らなければ収まることはない。



昨日は騒がしかったプレイヤーたちの喧騒もまばらになっている。おそらく、ログインしている人数自体少ないのではないか。



「《アブラバ豚の生姜焼き》とライスのセット、《ザテビ草のシーザーサラダ》です」

「どーも」

「どーもなのじゃ」



店員NPCが運んできた料理と飲み物が机に置かれ、俺は《アブラバ豚の生姜焼き》とライス、ティアは《ザテビ草のシーザーサラダ》に手を付け始める。



「んぐ……うまいな」

「美味なのじゃ」



脂の乗った肉を噛み締めると、ぶわっと溢れた肉汁がよくわからない調味料で作られた狐色のタレと絡み合う。自分の欲するままにライスを口の中へ掻き込み、それを数度繰り返して完食。好物は一気に食べることでより味わえるという自分の流儀だ。



一方、前に目を向けるとティアはシーザーサラダの具材一つ一つをフォークで突き刺し、細々と口に運んでいた。ティアはそのサラダ以外に何も頼んではいない。炭水化物や、肉の類の料理は一切注文しないのだ。ダイエット中なのだろうか。



すると、ティアは食事の手を止めてジロリとこちらを睨んでくる。



「レディに体重の話とは失礼とは思わんのか、ご主人様?」

「いや……その、すまん」

「そもそも!妾のこの肉体こそ天性の黄金律、最高の肉体美とは思わんのか!?」

「思う奴は変態だろ」

「なんでじゃ!?」



立ち上がり、ドヤ顔で胸を張るティアから目を逸らしつつ、ため息を一つ。最近、人から見られることが多くなった気がする。【情報屋】であるにゃん助から『ロリコン』で有名とか言われたが、それが関係しているんじゃ。



「もう、いっそのこと認めてしまったらどうじゃ?そうしたら、何の気兼ねもなく妾とイチャイチャできるぞ?」

「あのなあ……」



認めてしまったらゲーム内でその悪名が大きくついて回る。そういう部分で言えば、ある意味ネットの方が恐ろしい面もあるのだ。『ロリコン』と噂され、陰口を叩かれる日々(想像)。そうなれば俺はゲーム自体を楽しめなくなってしまう。俺に何のメリットがあるというのだろうか。



「妾はそういうことを言っているのではなく……」

「じゃ、どういうことだよ?」

「……もう、別にいいのじゃ」



眉間に皺を寄せてため息を吐き、おとなしく席に座るティア。何か怒らせることを言っただろうか?……まあ、いいや。



「あんまり女の子を怒らせるような真似はよくないと思うにゃ」

「へいへいわかりましたよってうお!?」

「にゃー」



突如耳に入った聞き覚えのある声の方向を見ると、そこにはストローを使ってウーロン茶を飲んでいるにゃん助の姿があった。それ俺の……。



「何の用だ?」

「昨日のボスのドロップアイテムを確認させてほしいにゃん。リストをこっちに送ってくれにゃ。【情報屋】として、礼はきっちりさせてもらうにゃん」

「ん?でもドロップアイテムはにゃん助も貰ったはずだろ?なんでだ?」

「……まあ、もしかしたらにゃーが持ってないアイテムをおみゃーが持ってない可能性もあるにゃん。いいからさっさと見せるにゃん!」

「……お、おう」



急かされるようにウィンドウからアイテムのリストを呼び出し、昨日の【ウェットスライム:ワイフ:ハズバンドエイト】から落ちたドロップアイテムだけを抽出してリストに書きこんでいく。



初めはじーっと見つめていただけのにゃん助だったが、【女王の証】を書き込んだあたりでウィンドウにメモを取りはじめた。



「……なるほど……二つ目はここ、となるともう全て揃って……」

「おーい、にゃん助さん?」



もはやウィンドウにすら目もくれなくなったにゃん助。この【女王の証】がどうかしたのだろうか。イベントアイテムって書いてあったし、重要なものだったのかもしれない。



「さ、これがお代にゃん」

「っ!……これは、貰いすぎじゃないか?」



にゃん助に情報の対価として提示された金額を見て、思わず目を見開く。そこには、俺がにゃん助の情報を買ったときの金額の二倍以上の額が提示されていた。



「この情報の価値を考えれば、この金額は妥当にゃん。それに、この情報でまたこっちも稼がせてもらうからいいのにゃん」



聞いてみると、俺以外にもあのダンジョンの情報を買っているプレイヤーたちがいたらしいが、いずれも攻略には至らなかったらしい。あの時俺に提示された金額がかなりのものだったから、同じように荒稼ぎしていたんだろう。アコギな商売である。



「俊斗君?」



発された声に振り向くと、そこには黒いローブに身を包んだ少女の姿があった。背丈は桜より少し大きいくらい。顔は目深にかぶったフードで隠されている。



「えー……野乃花か?」

「正解」



一瞬誰か分からなかったが、このタイミング、この呼び方で尋ねてくるとしたら野乃花ぐらいだ。そろそろだとは思ったけどログインしてきたのか。



「……忘れてたでしょ」

「いや、ちょっと分からなかっただけだ」

「……それを忘れてるっていうの」



むぅ、と野乃花が唇を尖らせる。



「にゃ、待ち合わせがいたにゃんか。悪いにゃんね」



そういってにゃん助が席から立ち上がると野乃花を見て、続いてこちらをジト目で見つめ始めた。



「にしても、周りに女の子多すぎにゃん?そんなハーレムプレイできるにゃんて若いっていいにゃんね~。もしかして、女に見えて実はリアルでは男とか」

「ないない」



にゃん助の言葉に首を振る。そもそも友達が少ないし。精霊に妹に友達(1人)だしな。そう言葉を残して、にゃん助は出口の方へ立ち去っていく。



「まあ、にゃーはこういうゴシップ系に興味はないにゃんから、ほかの奴に任せるとするにゃん」

「ん?」



他の奴?



「にゃん助以外にも【情報屋】がいるのか?」

「ああ、言ってなかったにゃんね」



出口の前の立ち止まり、にゃん助は振り返った。



「【情報屋】ギルド、【伝書鳩(ヴィリフ・タウヴァ)】を今後もごひいきに、にゃん」



黒い鳩の描かれた名刺をこちらに投げて、にゃん助は店を去っていく。……名刺を取り損ねたのは、かっこ悪いので秘密である。

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