魔女のいる世界
もしかすると割と痛い所を突いてしまったのではないかと思いながら、私はしばらく機械越しにアンソニーの罵声を聞いていた。
(まぁ、作戦失敗で部隊は壊滅だもの……法王庁内でのその後の立場は推して知るべしなのかもしれない)
魔女を管理下に置き時に敵対勢力と交戦させるなどという、それこそ神をも恐れぬ業務が、いつどのようにして生じたのかは分からないが、恐らくはそれは法王庁の総意ではない。現に庭園管理局そのものを廃止しようとする法王も過去にはいたし、反対派との対立も常に起こっているようだった。
(そう考えれば、これくらいは我慢してあげてもいいか……)
ここまで傲岸不遜な『庭師』はさすがにいなかったが、態度の大きい聖職者なんていくらでもいる。
なんだかんだで、不本意ながら年齢は私の方がずっと上なのだ。
ここは聞き流してやるのが年上の余裕というものだと思い直し、私はノートパソコンをへし折ろうとする手から力を抜く。
「で、現在の状況はどうなってるの?」
「お前達を使うと判断した時点で芳しくないというのは分るだろうが」
唸るようにして男は答えた。
「大戦後のトゥーレ協会なんてイカレた金持ちか、オカルト好きのイカレたオタクか、まぁそんな感じの田舎のサークルみたいなしょぼい集まりにまで弱体化していたんだ……それが急に、つい最近だ」
アンソニーは苦々しげに吐き捨てる。
「元に戻りやがった……80年前のあの時にな……」
なんという事だろう。
私は天井を仰いだ。
これだけ技術が進歩しているというのに、世界は、まだ魔女を必要としているのだ。