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長年見慣れたはずの殺風景極まりない地下室でも、自分以外の誰かがいると、いつもと違う光景に見えるものだ。

 水溜りに蝶が舞うように、石垣に花が咲くように、命あるものの気配はその場の空気をも一変させる。

 それが子供なら、なおさら----。


「あぁ……びっくりした……」


 メリッサを浴室から締め出して、私はようやくひとり湯船に浸かり、深呼吸する。


(私の顔をしているのに私じゃないって、すごく変な感じだ……)


 今日は朝から他人の事ばかりを考えていたな、などと思いながら浴槽に身を任せ、ふと鼻の下までお湯に浸かってブクブクと息を吐いてみた。

 我ながら子供っぽいが、水面で弾ける気泡を見ていると、昔の自分に戻っていくような気分になる。


(懐かしいな……あの頃はよくマヌエルと一緒にお風呂で遊んだっけ……)


 時は経ち、私だけが生き残り、それを忘れさせまいとするかのように、胸元には一筋の深い傷が刻まれている。


 私の時は、止まったままなのだ。


 私は、子供でもなく、大人にもなれないままの、宙ぶらりんの存在なのだ。


(……あれ……? 何だろう……お風呂って、こんなしょっぱい味がしたっけ……?)


 私は両膝を抱えて頭の天辺まで一度湯船に沈み、思いっ切り息を吐いた。

 吐いた息は、気泡の連なりとなって上っていく。

 

 私は、久し振りに----本当に久しぶりに泣いた。

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