浴室にて
湯気で煙った浴室の真ん中で、たっぷりと湯を張った浴槽の縁に身を預けるようにして、少女はその白い背中を私に向けている。
「お湯、どう?」
「うん、ちょうどいい……」
結い上げた黒髪の下から伸びる項はずいぶんと細くて、私は改めて少女の華奢さに驚いていた。
(上(法王庁)はこの子を何らかの作戦に投入するつもりなんだろうけど……こんな子供で、筋力もあるようには見えないのに……)
「心配?」
壁を向いたまま、メリッサが不意に尋ねる。
「こんなちっちゃい子でちゃんと戦えるんだろうかって、今考えてたでしょ?」
「あ……えぇと……」
裸の相手に見透かされるというのは、そうでない時よりも動揺する。
ましてや相手は、元女主人のクローンなのだ。
「そうね……少し、心配してるわ」
「あっ、やっぱり子供扱いしてるんでしょ?」
どうも少女にとって、自身の姿には劣等感に近い感情があるようだ。
心からそうなのか、それとも単なる『振り』をしているのかは、分からないが。
「そういう訳じゃないのよ……ただ、ほら、私はほぼ膂力のみで戦うようなスタイルだから、どうしても魔力の有無とかよりもそっちの方が気になって……」
「へぇ……アイリスは、私の身体が、気になるんだ……?」
そう言うと、ザバァッと水音を立てて、少女はいきなり私に向き直った。




