モルガナ
アンソニーの言葉は、まだ耳に残っていた。
「そうだ、アレが幼い少女の姿をしている理由か?」
問答の末、司祭枢機卿はやっと私の問いを思い出したようだった。
「……そもそもアレは初めは元の姿で再生したんだ」
「え……?」
意外な答えに、私は危うくノートパソコンを取り落すところだった。
「元の姿って、あの……モルガナの……? ブロンドで、目が緑の……?」
動悸が早まるのを覚えながら、私は馬鹿みたいな確認をせずにはいられなかった。
それほどまでに、メリッサの姿はモルガナからかけ離れているのだ。
そう、よく考えてみれば不自然なまでに、かけ離れ過ぎていた----。
「再生自体は完璧だった……まさに科学力の大勝利ってやつだった」
「それなら、どうして……?」
尚更訳が分からない。
嫌な胸騒ぎがして私はアンソニーが続けるのを待った。
気が付けば、掌がじっとりと濡れている。
「アレが培養槽から出て、最初にやった事は何だと思う?」
私は首を振り、それから彼に見えてない事に気付いて「分からない」と答えた。
分かる訳がない。
モルガナは、いつも魔女達の回復を助けるだけだった。
ただ黙って微笑みながら戦闘を見守っていただけだった。
これまで出撃した全ての戦闘において、はじまりの魔女は初めから終わりまで、剣を持つ私の傍らで、美しい彫像のように立っていただけだ。
「一体……何があったの……?」
長い沈黙の後、痰でも絡んだかのような声で、アンソニーは答えた。
「ラボにいた研究員を、全員吹き飛ばした……彼らの世界から、『モルガナの世界』に」




