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fragment 3
こんなはずじゃなかったんだ。
僕は、ただ----魔女を一目見たくて、ただそれだけでこの森に入っただけなんだ。
なのに、どうして姉上はこんなに血を流しているんだろう?
どうしてどんどん冷たくなっていくんだろう?
硬い土の上で僕は同じ問いを何度も繰り返している。
まるで、そうしている間は時間を止める事ができているかのように。
「……ね、魔女なんて……いなかったでしょ……?」
姉上が、囁くように言う。
僕を嗜める、いつもの優しく穏やかな、声だ。
いや、違う。
今の姉上の声は、ヒューヒューと空気が漏れるような音の間から、辛うじて聞こえている。
「分かったなら、もう……早く……父上が、心配……して……」
返事ができないまま、僕は茫然としていた。
僕でも分かる。
姉上は、もう死ぬ----。
闇は姉上の声を吸い、土は、姉上の血を吸い続ける。
魔女の森が、姉上を雁字搦めにして貪っている。
僕の大好きな姉上の、温もりを全て----吸い続ける。