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二つのトランク

 贖宥符などというものは、実際には使う側の精神安定のために存在するものであって、私達法王庁の地下に棲んでいる魔女の類には、多分、効果はない。


 聖水もそうだ。

 この温室を取り囲むようにして小さな噴水が幾つも芝生の上に配置されている。

 噴水が吹き上げているのは全て聖水で、重要な封印の一部として庭師達が大事に手入れをしているようだが、なんの事はないただの水だ。朝早く見に行けば雀が気持ち良さげに水浴びをしていた事すらある。


 魔法や魔術、信仰などというものは、所詮はそんなものなのだ。


 『贖宥符』 

 『聖水』 

 『封印』


 これらの言葉は、人間達が魔女にかける呪い(まじない)なのだ。


 呪い(まじない)をかける事で、自分達と魔女を隔てられると思い込み、安心しようとしている。

 ありもしない魔法や魔術から身を守れると、頑なに、信じている。


「こんなにべったり張って……トランクが痛んじゃうじゃない」


 魔女に渡す荷物、温室に運び込む荷物、それら全てに幾重にもかけられた呪い(まじない)は、

 苛立たしくも、どこか滑稽で----。


「うっ、重い……」

 トランクの取っ手を持ったメリッサは、あっさりと諦めた。

 確かに自分の背丈ほどもあるトランクを運べとは言えないが、もう少しやる気を見せてくれてもいいのではないかなどと思いながら、私は新品の羊皮紙の匂いを胸いっぱいに吸い込みながら贖宥符を一枚残らず剥ぎ取った。


「これ、開けていいのよね?」

 一応はトランクの受け取り主に確認し、私は真鍮の金具を外す。

 棺のような音がして開いたトランクの中には、少女用と一目で分かる服がぎっしりと詰まっていた。

「……こっちも、開けるわよ」

 もう一つのトランクは更に重たい。


 ガチャリ。


「何よ、これ……?」


 私の目に飛び込んで来たのは、黒々とした尻尾を身体に巻き付けた、銀色の不思議な装置だった。

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