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廃教会

 私の危惧は最悪の形で早くも的中する事になった。


「グルルル……! ガウゥゥ……!」


 暗闇の中、廃教会の礼拝所に現れたジェヴォーダンの獣は、確かに狼とも人ともつかない醜悪な姿をしていた。


 伝承のそれは子牛ほどの大きさだったというが、今メリッサを追い回しているのは、熊ほどもあろうかという、剛毛に覆われた巨大生物だ。


「グルルルル……ッ……フゥゥゥッ!」

 折素早い動きを交えながら二足歩行で少女を追う様子は、悪夢じみている。

 尖った口吻から突き出された長い舌は、唾液の糸を引きながら蛞蝓のようにぐにゅぐにゅと蠢き、少女は必死にそこから逃れようと走り回っているのだ。


「やだぁっ! なんで私ばっかり追い掛けるのよ……!?」


 獣人の狙いは、少女にのみ絞られているようだった。

 毛むくじゃらの腕を伸ばし、鋭い爪で一撃を加えようと何度も何度も追い詰めては、あと少しの所ですり抜けられる事を繰り返している。

 私はと言えば、祭壇の残骸の上でその様子を見ているだけだ。


『メリッサ! 攻撃許可は出てるんでしょ!? 早く攻撃しなさいって!』

『でも、だって……っ、まだ、準備できてないんだもん……っ!』


 息を切らしながらそう応える少女は、早くもバテ始めている。


「もう……ッ、や……っ! こっち来るな……ッ!」


 かつては美しかったであろうモザイクタイルの残骸の上を、ランドセルを背負った少女は今にも躓きそうになりながら、逃げ回る。


 それはそうだ。

 重たそうなランドセルに、大人の持つような蝙蝠傘。

 それと、サイズの合っていないコート。


(準備って……その前にあの子、もう捕まるんじゃ……?)


 命令がない限りは待機という指示を守るつもりではいたが、これはもう、ハラハラするなと言う方が無理な光景である。

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