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鶯の声は死神と共に  作者: lazilywalker
6/12

第一章 6, 桐谷家に入る日

『鶯の声は死神と共に』をお読みいただき、ありがとうございます。


本作は、五年前に起きた少年の失踪事件をめぐるミステリーです。


完結まで、毎日3話ずつ投稿する予定です。

最後までお付き合いいただければ幸いです。

第六章 桐谷家に入る日


直人は、沙織に息子がいることを知った上で付き合い始めた。


そのことを避けようとは思わなかった。


沙織にとって悠真は、何より大切な存在だった。


その事実を受け入れられなければ、沙織との未来もない。


そう考えていた。


悠真という少年に初めて会った時、直人は少し緊張していた。


子供との接し方に慣れていたわけではない。


しかし、悠真は年齢の割に落ち着いた少年だった。


「母さん、この人?」


短い言葉。


けれど、そこには子供らしい警戒心と、相手を見極めようとする雰囲気があった。


「直人さん」


沙織が紹介すると、悠真は軽く頭を下げた。


「よろしくお願いします」


礼儀正しい挨拶だった。


直人は少し驚いた。


もっと子供らしい反応を想像していたからだ。


その後、三人で何度か食事をした。


ただ、悠真が積極的に直人との時間を求めることはなかった。


休日に一緒に出掛けたいと言うこともない。


それは冷たい態度ではなかった。


悠真には、悠真なりの距離感があった。


直人に対して失礼な態度を取ることはない。


しかし、簡単に甘えることもしなかった。


食事の席では学校の話をする。


聞かれれば答える。


それ以上でも、それ以下でもない。


直人は、その距離を無理に縮めようとはしなかった。


時間をかければいい。


一緒に暮らすようになれば、少しずつ変わっていく。


そう思っていた。


直人の心の中心にあったのは、沙織との未来だった。


この人と一緒に暮らしたい。


この人と家庭を作りたい。


それが一番大きな願いだった。


悠真を大切に思っていないわけではない。


ただ、まだ父親になるという実感はなかった。


それは、これから時間をかけて作っていくものだと思っていた。


ある日、沙織から桐谷家の話を聞いた。


「結婚するなら、家に入ってもらうことになると思う」


直人は少し驚いた。


普通なら迷う人もいる話だった。


しかし、直人の答えは早かった。


「いいよ」


沙織は少し驚いた顔をした。


「本当に?」


「うん。沙織が安心できるなら」


直人にとって大切なのは、名字や形ではなかった。


初めて、自分にも帰る場所ができること。


それが何より嬉しかった。


桐谷家へ挨拶に向かった日。


直人は緊張していた。


古くから続く家。


広い庭。


長い時間が積み重なった空気。


しかし、和子は穏やかに迎えた。


「これからよろしくお願いします」


その言葉を聞いた時、直人は胸の奥が温かくなるのを感じた。


ここにいていい。


初めて、そう思えた。


結婚の日。


春はまだ始まったばかりだった。


朝の空気には冬の名残があった。


庭には、新しい季節の気配があった。


直人は未来を思い描いた。


沙織と暮らす日々。


悠真との新しい関係。


そして、自分が守る家庭。


これからは違う人生になる。


そう信じていた。


誰も悪意を持っていなかった。


誰も、その先に起こる出来事を知らなかった。


春を告げる鳥の声だけが、静かに新しい季節を知らせていた。

※本作はフィクションです。登場する人物・団体・地名・心理描写は架空のものであり、実在の人物や事件について、その動機や内面を説明するものではありません。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


物語は、五年前の失踪事件を追いながら、少しずつ真相へ近づいていきます。


続きは明日、3話投稿予定です。

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