エピローグ【最後の土下座の先に】
「ついにこの日ですわね」
「ああ」
「来ちゃったか」
あの王室会議から一年後。
王宮にある礼拝堂、そこで俺達の結婚式が行われていた。
出席しているのは陛下《父上》、ペテル、デメルジス宰相、レーナなど数えれば30人もいないであろう。
かなり簡素なものだが、温かさははっきりと感じる。
「俺は、これから二人を一生幸せにすると誓います」
白い軍服に身を包みながら、参列者に対して宣言する。
続いて指輪を手にして二人の前へ。
「わたくしも、殿下と共に歩むことを誓いますわ」
ユリアナ嬢は純白に近い優美なドレスに身を包んでいる。
そんな彼女の薬指に一つ目の指輪をはめていく。
「私も殿下の側にいられることを、幸せに思います」
クレア嬢は柔らかい淡い色のドレスを着こなしていた。
続いて二つ目の指輪を彼女の薬指へ。
「レオポルド、誓ったからには、必ず二人を幸せにするように。これからが大変だからな」
父上は静かに頷いて、短い祝福の言葉を述べていった。
会場は拍手に包まれていく。
「盛大な式じゃなくても、十分ですわね」
式が終わって、俺達はゆっくりと庭園を歩いていく。
庭園の花々も祝福してくれるようだった。
軍服やドレス姿のままだが。
「ええ。私も、こうして三人でいられるだけで、隣に立てるだけでもう十分だと思えます」
俺は二人の手を握って、静かに笑った。
「これでいいんだ。完璧じゃなくても、俺達は三人で生きていく」
小さな式ではあったが、その選択はすでに王国中に広まり、誰もがこの結婚を見守っていた。
「まだ慣れませんわね、この席」
執務室には俺とユリアナ嬢とクレア嬢の三人で公務をしていた。
ユリアナ嬢が少しだけ愚痴を。
「お疲れ様ですわ」
それでも彼女は微笑みながら、作成を手伝っていった。
「ありがとう」
感謝を伝えながら、次の書類の作成を。
「これは、どう思うんだ?」
「そうですわね」
意見を求めると、ユリアナ嬢は彼女の考えを述べていった。
それを聞きながら、公務に活かす。
「クレア様、頑張っていますね」
資料を持ってきながら、クレア嬢がにっこりとしていた。
続いて作成が終わった書類を片付けていく。
「貴女もね」
ユリアナ嬢が彼女を見つめながら、優しい笑みを。
クレア嬢はいつものように肩を揉んでいく。
「丁度良いな」
固まっていた肩のコリがほぐれていく。
気持ちよくて、表情がゆるんでいく。
ちょっとみっともないが。
「いえ、やはり殿下の肩は凝りがちですね」
「まあな」
それを見てユリアナ嬢が頬を膨らませる。
「殿下、クレア嬢にばかり甘いんですの?」
「そんなことはないって」
焦りながら、彼女の嫉妬に対して否定する。
二人いるからこそ、こんな事はよく起こる。
「ではユリアナ様の肩も揉んであげますから」
続いてクレア嬢は彼女の肩を揉んでいった。
はにかみながら、優しく丁寧に。
「正嫡が生まれるんですから、気を張り詰めすぎないように」
クレア嬢は気遣うように言葉を。
ユリアナ嬢は当分先であるが、最初の子供を身籠もっている。
産まれたら、三人で支えていくんだろうな。
「そうですわね」
優しい笑みで窓の外を見つめる。
そんな様子をレーナが紅茶を差し出しながら、楽しそうに眺めていた。
「兄さん、調子はどう?」
ペテルが執務室に入ってきた。
前よりも大きくなっていて、より活発になっていた。
「順調だよ」
「良かったよ」
軽く返事をして、ペテルは頷いている。
徐々に王子として、別の視点から様々な事を学んでいく。
「オリエッタ様、最近は領地が忙しいらしいって」
「そうなのか。そっちも大変だな」
色々と事情があるんだろうな。
オリエッタ嬢に関して、最近は様子を知るだけだが。
「こっちも頑張るから、三人も頑張って」
「ああ」
ペテルはそう言いながら、執務室を出ていった。
彼のエールに俺達は、にっこりと返事を。
そして出ていった後、公務を続けていく。
「俺は二人を選んで、本当に良かったと思っている」
夜の庭園。
淡い光が花々を照らしている。
空を見上げると星が輝いていて、雲は遮っていなかった。
「わたくしも、これからは三人で、完璧じゃなくてもいい道を歩みましょう」
ゆっくりと小径を歩きながら、ユリアナ嬢は空を見上げた後、俺とクレア嬢を見る。
柔らかい笑みに包まれていた。
「私も、こうして側にいられて幸せです」
クレア嬢も微笑み、俺達を見つめていた。
ただ軽く息を吐く。
「私、やっぱり欲張りですね」
それから苦笑いしていた。
俺はゆっくりと二人を抱き寄せた。
静かな夜。
この幸せを守るために、王としての責任からも逃げない。
「完璧じゃなくていい」
誰が言ったのかは分からなかった。
けれど、その言葉だけは、三人とも同じように頷いていた。




