晴れ時々火のついた油
クライスクリームの手の中からレイヴンはすでに消えていた。いくら辺りを見渡してもあの細い身体は見えない。当然である。レイヴンは既に懐に回り込んでいた。本来ありえない速度で近づいてきたためか足元など見ることを忘れていたのである。
鎌を振りかぶるような隙もない。だがレイヴンは鎌をしっかり握って今にも攻撃を仕掛けようとしている。無理だ。当たるはずがない。たとえ当たったとしてもさほどダメージを与えられる見込みもない、大鎌のリーチという最大の利点を捨ててまで近づいた理由があったというわけでもない。咄嗟の判断だった。こうするしかないと直感した。理由など考えるまもなく瞬間的に身体は動いていた。ただ、「詰めろ」と光流に言われたから、光流の指示が的確であると信頼していたから。自然と身体は動いていた。
試合開始から約45秒。
クライスクリームは地面に倒れた。
両足を落とされ、バランスを保てない。
一体何が起こったのか?レイヴンの鎌の刀身部分は反っている側にも刃が付いている。そして運送のことも配慮されているためか折り畳んでおけるようになっている。レイヴンはその使用を利用し、さながら斧のような使い方で足を砕いたのだ。それもスライディングをしながら。
フィールドの地面はほとんどがアスファルトで固められている。激しく火花も散った。そして何よりレイヴンの装甲は削れて剥がれ落ちていた。
「何が起きた…?何をされたんだ?」倉瀬は地面を見つめながら今ひとつ状況をつかめずにいた。
観客からは歓声が起こっていた。「何喜んでやがる…違うだろ?テメェらがするのはブーイングだろうが。……負けたのか…?いや、違う。まだ戦えるはずだ。」突然地面しか映っていなかった画面に光が映った。
突如煙を上げて炎上し始めた。漏れ出た油圧動作油に火花が引火したのだ。会場全体から歓声に交じって悲鳴も聞こえた。しかし倉瀬はこれを好機ととらえたのだ。
うつ向きに倒れたクライスクリームたが、ほかの部位に比べ腕は頑丈に、そしてより油圧や電力の出力が高いようになっている。腕だけで立ち上がるどころかその状態で歩行することすら可能である。
燃え上がりながらも立ち上がったクライスクリームがはじめにとった行動は、レイヴンに攻撃するでもなく、火を消すでもなく、火のついた自らの脚部を振り上げたのだ。油が空中に散り、そしてそれは火の雨のように振り注いだ。
レイヴンもダメージはあるがまだ問題なく戦える。ただ、静かに燃える巨人を眺めていた。




