孤高との対峙
ブザーが鳴ったあとしばらく沈黙が続いた。鉄の巨人が睨み合い、探り合う。しかしなぜだろうか、立ち会う2人はこれっぽっちも緊張していない。
倉瀬は動揺しつつもなんとか平静を保っていた。
「どうした、なぜ動かない…見てる、俺を見てやがる。何か話してんのか?分からん。奴の機体は超軽量のスピード特化ってところか。恐ろしいのはあの鎌だ。今までの奴らは皆で狩られてる。途轍もねぇ反応速度と対応力だってある、下手に動けばカウンターで殺られる。」迷いつつも前へ出る。目の前の機体の動きを伺いながらゆっくりと足を進める。
「ちょっと?攻撃してこないんだけど。」美娘は不貞腐れた声で光流に不満を散らす。「相手も待ってるのかな…」「知らないわよ。それでどうするの?このままじゃ時間の無駄よ。」「焦ったら相手の思うがままにされるよ。」「…それは…相手も同じってわけね」「そ。だから待つ。焦って突撃なんてしたっていいことないからね。」
「ひとまず何も悟らせないことが大事だ。アイツは何を望んでいる?勿論俺が攻撃をすることだ。一撃でも当てればいい、動きを封じれば勝機は俺にある。だから焦るな、演じるんだ。」ゆっくりと、ただ着実に間合いを詰める。「まだだ、あと少しだけ、あと少しだけ。…ここだっ!」
クライスクリーム、今大会で倉瀬が使用する機体。重量機体だが一番の特徴はギミックにある。なんと、腕が伸びるのだ。つまり一瞬で間合いを制することができるということだ。更には掌からは特殊なインクが仕込んである。カメラにでも付着させれば相手の視界は当然なくなる。だが相手が悪かった。レイヴン含め光流の手がけた機体には露出したカメラは存在しないのだ。頭部は無機質で角張ったデザインになっている。これは特殊加工された透過素材を使用しているからであり、その素材は金属のように固く、曲げることはできず熱するとその特性を失ってしまうのだ。つまり中のセンサー類さえ残っていればインクをつけられようがテープを巻かれようが汚れた部分ごと取り除けば簡単に視界を確保できるのだ。
「え?!なになになになに?!前見えないんですけど?!」「美娘!自分の頭を殴れ!」「はぁ?わ、わかった!」レイヴンは頭をつかまれ、インクを吹きかけられている。本来、衝撃にはつよいはずの頭部パーツ。だが弱点として点での衝撃には弱いのだ。クライスクリームの爪は鋭くできている。そしてその鋭い爪はレイヴンの頭を鷲掴みにしている。爪を立ててしっかり掴んでいる、力がかかっている。そこに瞬発的に大きな力を与えたならば、当然頭部のカバーパーツは割れる。
「コイツっ…なぜ自分を殴るんだ?!」倉瀬は現状を把握しきってはいなかった。倉瀬の目には視界を奪われたことによるパニック症状を起こしたように見えた。




