第34話「ヨハンデューラ地下進行戦」
34.「ヨハンデューラ地下進行戦」ズオ・ファズ・ライ軍曹
ヨハンデューラ(イピリュナーズ星系、グローニア銀河)
属
アグルファ・シエルトUE0709‐221
(以下、略)星系
属
ラルハル・サスノスAB3525‐624
(以下、略)銀河
属
ギューザン・ローケスAR0300‐001
(以下、略)宇宙
属
ローケス・ユーヤナAQ007‐235
(以下、略)インペリオーム
『全部隊、こちらHQ。サニスの拠点にはフロアドネス系統の特殊装備がある可能性がある。十分に留意せよ。なお、本作戦はサニスに対する同時攻勢作戦の一つである。ぬかるな』
真昼だが暗視装置なしでは歩くこともままならない、大都市ツァトゲスの地下。
本来ならシールドで覆われているはずの工事現場を、武装した四名の隊員らが進んでいく。全ての照明は消えている。立ち入り禁止の掲示板も例外ではない。足元はひび割れており、水が染み出ている。
「何も聞こえない。周囲はクリア」
「ログドゥアでサニスの相手をしている方が絶対楽だぜ」
「ああ全く。いつも俺達は楽しい任務だよなぁ?」
ライはディオーズ(オオカミ系ヒューマノイド)の男性。階級は軍曹。彼とともに前衛を務めているのはハウズ(ツキノワグマ系エイリアン)の男性、フオーバ軍曹。
「そういうな。各員、ジャマーを起動。サラク・デュオ通りを南進する」
指揮官のバストラン(カマキリ系ヒューマノイド)である、クアント准尉は二人の愚痴を抑えつつ、目標地点への移動を命じた。彼女の後ろにはゼドー(サメ系ヒューマノイド)の女性隊員、ザッタス伍長が続く。
サニス側に動きを悟られないよう、ヨハンデューラの駐留部隊は動いておらず、また、特に通信妨害も行わない、完全に相手の不意を突く極秘作戦だ。
多くの人にとっては、いつもと変わらない一日かもしれないが、この日はグローニア銀河における、軍の本格的な対サニス作戦開始日なのだ。
「生体スキャナーに反応はありません」
「あてにはするな。微弱なノイズが走っている。連中はアンストローナやアンスケルの監視をすり抜け、ここまで組織を拡大してきた。軍のデバイスに干渉する何らかの技術を開発したんだ」
「最高だ。俺らの“感覚”が頼りってか」
「こういうの好きだぜ、俺は」
彼ら“アグベイア独立遊撃隊”は帝国地上軍が誇る特殊部隊。地上軍所属でありながら宇宙空間での各種戦闘を含め、人質救助、爆発物処理、潜水、空挺降下、空中機動戦といった非常に幅広い専門技能を持つ。宇宙軍のヴァラッジ特殊作戦グループと並んで、帝国軍を代表する非アンストローナ最精鋭部隊である。どちらかといえばヴァラッジよりも局地的かつ攻撃的な任務を担当。他に情報局と共同で侵攻前の敵地長期偵察を行うこともある。
「そもそもサニスの目的はなんだ? 本気で国を転覆させようと思っているのか?」
空気の湿り気具合、風の流れを肌で感じつつ、フオーバは歩を進める。彼の持つSGK‐50アサルト・ショットガンは実体弾射撃・エネルギー弾射撃の両方に対応し、自在に射撃モード切り替えができる。実体弾なら高い制圧力と衝撃力、エネルギー弾ならスティグレイでも致命的になりうる高火力だ。
「自分だけがこの世界で特別だとでも思い込んでいるんだろう」
「ミアギも解放したんだろ? いかれてやがる」
「そいつは偶発的な事故らしい。サニス側もミアギの存在は想定外で、ミアギ脱獄による軍全体の即応態勢移行は痛手のはずだ。正直、サニスよりミアギの方が恐ろしいね」
ライの持つ銃はCMG‐303軽量レーザーマシンガン。ライフル並みの取り回しを実現しつつ、強化冷却バレル、高精度マズル、そして大容量パワーセルを採用。敵を圧倒する激しい弾幕を張ることが可能となっている。本来は制圧射撃を目的とした歩兵用支援火器なのだが、ライの場合、彼の強靭な筋肉と驚異的な射撃スキルにより、極めて高い命中精度を誇る。
「皇帝陛下が対応されておられる。我々が心配することではない……待て、姿勢を下げろ。一時の方向、中段の連絡通路だ」
クアントは姿勢を低くするように指示を出す。幾層もの通路が張り巡らされている地下空間。まるで立体迷路のような場所、彼らは武装した歩兵二人を見た。
「連中、何者だ? ずいぶんと質のいいアーマースーツだ」
「奴らを甘くみるな。ルガ卿の私兵部隊アレイザーだ。ライ、お前の出番だぞ。フオーバ、ライと行け。慎重にな」
「了解」
「任せな」
黒と赤を基調とした戦闘用身体強化スーツを着ているルガの私兵。人間種族のようだが、外見から詳細は分からない。フルフェイスのヘルメットには特徴的なスリット型のセンサー・アイが赤く光っている。
─聞いたか、少尉の話。
─ああ。ラクシアータは軍に制圧されたようだ。想定よりも軍の動きが早い。
音を立てずに移動し、己の存在を悟られぬよう、細心の注意を払うライ。鋭い嗅覚と聴覚を使い、他の敵兵がいないかを調べつつ、同時に彼らがどこの通路から来たのかも探っていた。
─油断しないようにしないとな。ここも直にばれるだろ、うっ……
素早く敵の背後へ迫り、ライは敵の首を強力な腕力により締め上げ、相手が抵抗するよりも前に息の根を止めた。
その隣、もう一人はフオーバのナイフによって息を引き取った。
「こっちだ」
「あーあ、生活局におこられるぜ」
「遺体の処理はあとでアンストローナにでもやらせよう。我々は先を行くぞ。この先は地下浄水場だ」
ツァトゲス地下浄水場。立ち入り禁止の防護扉はすでに開けられ、ハッキングによるものなのか、監視装置は稼働していても、全く異常を検知していない。極めてまずい状況だった。
「奴ら、完全に監視装置を無力化している。警戒しろ」
「正面、話し声が響いてくる。かなりの数」
「ライ、先行しろ」
「了解」
─各員、CLコンテナの取り扱いには十分注意せよ。
─3‐7、こっちを手伝ってくれ。予定より遅れている。
─了解。
─目撃者はいないな?
─ああ、ここにいるので全員だ。数は数えてある。
─情報ではログドゥアの工作チームがやられたようだ。作業を急げ。
ライの耳に反響してくる多数の声。それらを正確に聞き分け、人数や位置を割り出す。
この時、ザッタスが液体に溶け込む血の匂いを敏感に感じ取った。次にライが鼻の奥に張り付く異臭を認識した。
「おいおい、こいつは……」
物陰に隠れ、二段ほど下層を見る。
ルガの私兵部隊アレイザーとともに多数のソム・スティグレイが活動しており、従業員のものと思われる衣服があちこちに散らばっていた。まだ生きている従業員もいるにはいたが、すでに息絶え絶え。動くことも、口を開くこともできない。抵抗できない彼らの頭部へソム・スティグレイは容赦なく触手を突き刺した。
─どうせ、下っ端の従業員に大した情報はない。“取る”だけ無駄だ。
アレイザー隊員に声をかけられたソム・スティグレイが先ほどよりも勢いよく従業員の身体を侵蝕していき、新たなソム・スティグレイ個体が分裂した。
後でライ達が知ることとなるが、ここでの犠牲者は五百を超え、遺体は一つも残っていなかったという。
─担当者はCLコンテナを指定された位置まで運び、外装の点検を実施せよ。異常があった場合は速やかに報告するように。
浄水処理場の最終部分にあたる浄水池。本来、飲用可能となった安全な処理済みの水を一時的に貯めておく池である。しかし、アレイザー隊員の手によって、怪しいコンテナが浄水池の中、水面、外縁に次々と置かれていった。
─濃度が薄すぎると浸潤性に支障が出るため、希釈限界を超えないよう、細心の注意を払い、担当者はタンク開放弁及び放出設定の確認作業に移れ。
コンテナの外装が外され、半透明の円筒形タンクが姿を現す。中は何らかの液体で満たれていた。
「あれの中身を確かめる必要がある」
クアントのジェスチャーを見て、ライとフオーバが先行しつつ、クアントとザッタスも下層へ続く階段を下りる。
「指揮官とタンクの作業員を優先して狙う。ターゲットをマーク」
誰がどの標的を優先して狙うべきかのマーキング表示が視覚に映し出された。
「いつでも撃てる」
「こっちもOKだ」
「合図を待ちます」
ライ、フオーバ、ザッタスは銃を構え、標的の頭を追いかける。
「スリーカウントでいく。3……2……1……」
クアントも合わせて、四人の隊員はそれぞれ最初の標的を射抜き、即座に別の標的を撃ち抜く。迅速で正確な射撃。
─敵襲だ! 軍曹がやられた、援護しろ!
─回り込め!
だが、さすがのアレイザー。突然の奇襲にも関わらず、状況を理解。反撃に出る。
「敵が左翼から接近!」
アレイザー隊員はザッタスへ集中砲火を浴びせる。
「援護する」
ライの俊敏な動きがアレイザー隊員の想定を超えていた。腰だめで放たれた強力なレーザーマシンガンによって、次々とアレイザー隊員はなぎ倒されていった。
「行くぜ!」
クアントの援護射撃を受けつつ、フオーバが敵部隊を一人、またひとりと片付けていく。
─くそっ! こちらシオーラ3‐9だ。敵の攻撃を受けている! 増援をよこしてくれ!
─だめだ! 軍の襲撃を受け、どの隊も余裕がない!
─ちくしょう。
「お別れは済んだか?」
フオーバはためらわず引き金を引き、タンクのそばにいた最後の敵を始末した。
ザッタス、クアント、ライはタンクへ近づきつつ、残っているソム・スティグレイを撃っていく。
「ここにいた従業員の数に対し、スティグレイの数が少なすぎる。まだ連中は何か企んでいそうだ。ザッタス、敵の通信端末を探せ。フオーバ、お前はタンクからサンプルを回収しろ。ライは私とともに二人の援護だ」
ソム・スティグレイがより攻撃的な存在へと変わっていく。剣や鎌のような武器を形成する個体、四足歩行になる個体、アレイザーの死体を取り込む個体、様々だ。少なくともこのまま大人しく帰してくれるつもりはなさそうだ。




