迷宮第十二層ユワントワン
リリアは、眼をさます。
封印扉の前にいる。
扉によりかかっているため、とりあえず、伸びをして、立ちあがる。
体操してみる。
青い丈の長めなワンピースに、
上にピンクカーディガンを羽織っているため、
軽めな運動になる。
ここは第十二層の扉のはずだ。
扉には、妖精の名前が描かれている。
あと、二つクリアすると、ここの封印空間から解放されるはずだ。
スキルは、もう少しでフルチャージになる。
「もう、進むしかないよね」
バックから、回復アイテムを飲み、一応バックの中身をたしかめる。
足を進める。
景色が変わる。
「ここは」
フロア一面の壁や仕切りに、絵が並んでいる空間だ。
「わぁ。絵画だよね!」
ビルの一室だろうか。
照明もつき、フロアは明るい。
少し歩きまわると、見渡すかぎり、仕切りには、たくさんの絵がありテーマもさまざまだ。
「自然、建物、抽象的なもの」
「すごいなぁ」
少し進んだ先に、ベンチが置いてあり、
そこに妖精の姿がみえた。
封印魔法使いユワントワンは、白銀の短い髪に、薄いピンクのひとみ、背は高い。
短いズボンに、白いシャツ姿、
上着に、ローブのようなものを羽織っている。
「リリア。よくきたね。ユワントワンというよ」
「ここ、すごいわね。まるで、美術館」
「そうだね。みんな、挑戦にきた者たちに、描いてもらったから、もう何枚になるだろう」
いくつか、ベンチや机、点々と椅子がおいてあるが、それ以外に観えるのは、とにかく絵ばかりだ。
「わたしは、ここで何をしたらいいの」
「ひとつは、絵を描くこと。もうひとつは、希望する絵をみつけること」
「描くこと、とみつけることね」
「そうだね」
椅子から立ちあがると、
「案内しようか?」
と聴いてきた。
「ええ。それじゃ」
ユワントワンに案内されながら、仕切られている通路を歩く。
「こんなにたくさんの絵、あなたがすべて管理しているの?」
「ときどき、緑羽鳥たちにも手伝ってもらうけど、時間は果てしなくあるからね」
「そう」
サインがあるものと、ないものがあり、写真のように詳細のもあれば、記号のようで、どう観ればいいのか、わからないのもある。
ある程度ぐるっと観終わると
「描きたいものは決まった?」
「うーん」
「まぁ、時間はあるからね」
「リンヤの絵もあるのね?」
「もちろん。でも、サインはなかったかも」
「そう」
角の部屋のようになっている部分に、画材が乱雑に置かれている。
「自由に使っていいよ」
「わかりました」
椅子に座り、机にキャンバスをとりあえず置く。
「邪魔になりそうだから、さっきのベンチにいるね」
「はい」
しばらくは、空白のままだったが、
筆や水などを準備して、もう一度キャンバスに向かったときには、題材は決まっていた。
そのままの勢いで、描き進めていく。
サァー
パシャ
シュシュ
「ふぅ」
少し汗をかく。
腕の袖でぬぐうと、少し色がついてしまう。
「あっ。服、色がついてもいいのに、すればよかった」
「はぁ」
そこで、はじめて
服装を気にする。
仕方ない。
ここで着替えよう。
転送で、レイラからもらった動きやすい服装を手元にだす。
ショートパンツに、短いスカート。
上は色つきの妖精マークのシャツ。
いちおうの軽めなジャケット。
ブーツも軽めなブーツに履きかえる。
ユワントワンは、見ていないよね。
また、続きを描いていく。
二時間以上はかけていただろうか。
「できた」
ユワントワンは、寝ていたのか、あくびをしながら、近づいてきた。
「お、すごいね」
「あまり、うまくなくて」
「そうかな。よくできてるよ」
そこに、描かれているのは、丘の絵だ。
たくさんの色のなか、風や花の妖精たちが、楽しそうに、遊んでいる。
絵の真ん中には、ベンチが置かれていた。
「これをどこに、置くか。次はそれだね」
「置く場所も自分で決めるんですね」
「そう」
歩き回ると、ひとつの絵が目につく。
きっと、リンヤの絵だろう。
教会でみたやつにも、似ている。
そっと、手を近づける。
"願いは "
と声が聴こえてきた。
「わたし、ここの正面に置きます」
「わかった。場所をつくるね」
ユワントワンは、ゆっくりとした足とりで、ひとつひとつの絵を動かして、準備をしてくれる。
「タイトルは決めたの?」
「妖精の再会の丘」
「うん。いいね」
すると、絵に魔法がかかったように、
一瞬、そのなかに引き込まれてしまった。
「リンヤの願いをかなえてあげてね」
「うん」
ユワントワンから、アイテムを渡される。
いま描いた絵を写して小さくしたアクセサリーチャームだ。
入口ふきんに、転移の陣ができて、リリアを呼んでいる。
「きみの」
「えっ」
「転生魔法使いリリアの願い、たしかに、ここの空間に、預かるね」
「はい」
リリアは、転移陣に吸い込まれていく。




