迷宮第十層ノワジラーミル
リリアは、目を覚ますと、封印扉の空間にいた。
扉の前で寝転がっていたようだ。
起きあがって、のびをする。
「このまま、寝ていたい。そして床かたい」
いや、そんなわけにはいかない。
体力が、だいぶ減っているのかもしれない。
バックから、まだ少し余りのある回復アイテムをつかう。
魔力は回復するが、身体の疲れは、まだ残る。
「ふぅ」
扉をみると、おそらく名前だろう、
旧妖精文字で、ノワジラーミル
と読める気がする。
さぁ、もう少し。
迷宮はもう少しだ。
「いくよ。リリア」
自分に声をかけて、歩きだす。
景色が変わった。
少し薄暗く、でも、どこかで見たことがある。
「そっか。ヒトが遊んだりする、公園ってところだ」
みると、遊具のブランコやすべり台、ジャングルジムといったものが、あちらこちらに設置されていた。
「あのぉーー」
返事はない。
誰もいないのか。
電灯のようなひかりに、薄く照らされて、晴れているのはわかる。
「た、試しに乗るくらいいいよね」
リリアは、すべり台で遊んだ。
リリアは、ジャングルジムで遊んだ。
リリアは、砂場を歩いた。
リリアは、ブランコで遊んだ。
「ふふっ。ふふっ」
「て、ちがーーう!」
「なんか、遊んじゃったじゃん。」
すると、薄暗いベンチで、なにか動いた。
「えっ」
ベンチで寝ていたらしい、その妖精は、くすくす笑っていた。
「おはよ、リリア」
「も、もしかして、見てた?」
「みてない、みてない、楽しそ」
「みてたじゃん、うわぁ」
リリアは、ブランコに座った状態のまま、顔を隠す。
きっと、真っ赤だろう。
「あの。遊んで、みたかったのです」
「うん。そうだね。楽しそうだった」
「うわぁ」
少しして、とりあえず気持ちを落ち着けた。
「それで、試練はどうしましょう」
「名前もきかずに」
「あ、そうでした」
「ノワジラーミル。ここの封印魔法使いだよ」
「はい」
その妖精は
緑の短い髪、黒いひとみに、黒の短パンに、半袖、
上着は、赤い薄いシャツ。
まるで、遊び盛りの青年のような姿だ。
「あの。なぜヒトの空間である公園に、封印を」
「なぜ。おもしろいね」
「えっ」
「ここの空間は、魔力が強くてね。ときどきあるんだけど、ヒトの空間にありながら、魔力があって、いろんなものを惹きつける」
「はい」
「そうしたところでは、ヒトは困ったことになるからね。そういうのを管理したりも封印魔法使いの任務かな」
「そうなんですね」
「それで」
「あ、試練です」
「そう。困ったことでね」
「はい」
「指輪を探してほしい」
「指輪」
どんなのだろう。
ノワジラーミルは、ブランコのそばにきて、妖精ノートに、デザインを描いていく。
「こんな模様が入っていて、青い石がはめ込まれているよ」
「青い石。この指輪」
「うん」
「どこの位置でとか、わかりませんか?」
「緑羽鳥がね。ここの公園に持ってきてくれたのは、いいんだけど」
「うん」
「着地する前に、くちばしから、はずれてしまったんだ」
「あっ」
「それで、すぐに探したけど、もうわからなくてね」
「魔力探知は」
「してみたけど、指輪にも制限がかかっているんだろう。地道に探してみるしかない」
「それで、疲れて寝てたんですか」
「それもある」
「ふぅ。わかりました」
リリアは、探す方法を考えてみる。
水の魔法に、花を探す魔法。
他にもこれまで、アイテムをみつけたり、
試練の過程でここの迷宮たちの相手の仕方がわかった。
そう。
気まぐれなのだ。
「よし」
アイテムの指輪をここの公園から探してみる。
でも、ただ歩き回るのでは、きっとみつからない。
なにか。
探しもの
指輪
青
公園
リリアはブランコを漕いで、足で勢いをつけながら、考える。
となりで、ノワジラーミルもブランコにのり、こちらは、あまり勢いなく、少し動かしているだけ。
ストンと、ブランコから降りると、
まだ、リリアの後ろで、ブランコが音をたてつつ、いったり来たりしている。
「リンヤは探しもの」
「リンヤのときには、別のだったかな」
「そう」
「リンヤは、いつも楽しそうなのに、どこか寂しそう。この公園のように」
「公園は、やっぱり遊んでる子がいないと」
ノワジラーミルは話す。
「わたしは、好きだよ。静かな公園」
「リンヤは、寂しがりで、それでいて強がりなんだよ。トランプでもそう」
「そっかぁ」
「花の魔法」
リリアは、ブランコの前に立ったまま、自身の妖精ノートに、新しいスキルを追加していく。
「水」
「風」
「青い色」
ノワジラーミルが、後ろで笑う。
「リリア。どこまで進化するの?」
「リンヤのいるところまで!」
走っていく。
公園にある蛇口をひらく。
水が、サーと流れていく。
「水」
水の粒子が、空中に舞いだし少しずつ湿度を高める。
「風」
風が、ゆっくりと起きはじめて、空中の水分を上空に集めて、小さな雲ができはじめる。
リリアは走って、すべり台をさわる。
「青」
すべり台の青い色が、一部溶け出し、上空にある雲に合流していく。
「花の魔法を青い色に」
リリアは、その場で妖精ノートを開くと、
青い色をいくつか想い浮かべていく。
「指輪」
公園の上空に、青い雲ができていき、それが雨となって、公園の地面に落ちていく。
リリアとノワジラーミルの周りにも、それは落ちてくる。
「青い雨だ」
その青い雨は、似たような青い色をした、ベンチや手すり、すべり台に当たると、小さく閃光を放つ。
いくつもの青い閃光が、雨と一緒に空中に光ると、一か所、ジャングルジムの下方が、より強く光っているのがわかる。
「あれね!」
リリアは、雨に濡れるのを気にしないで、ジャングルジムに近づくと、手を伸ばして、それを拾う。
「ラピスラズリだわ」
指輪に、青い石ラピスラズリが雨に濡れてひかりをだしていた。
リリアは、妖精ノートをとりだして、魔法をとめる。
空中にあった雲は、霧となり、だんだんと薄くなる。
雨はやみ、上空が晴れてくる。
地面が、すぐに乾いてくる。
リリアは、水道のところまで走っていき、蛇口をとめた。
「まだ空気中に、青が残っているね」
それは、青い閃光となり空気中で、きらめいていた。
「キレイだよ。リリア」
リリアは近づいて、手にして指輪を渡す。
「はい。これですね」
「ありがとう」
まだ青い明るい上空に、指輪をかざして、ノワジラーミルはたしかめる。
「ねえ、リリア」
「はい」
「きみは、もしかしたら、クイーンの次くらいに、妖精の魔法が使えているのかも」
「そう」
すると、ノワジラーミルは、立ちあがり指輪を手にはめて、ひとつの魔法を使う。
「この魔法とアイテムを君にあげるよ」
「えっ」
「妖精ノートをみて」
「はい」
リリアの妖精ノートに、
スキルが新しく追加されていく。
「迷宮は、もう残り少ない。でも第十三で、誰しもが、自身の存在を疑い、あきらめ、ある者は捕らわれてしまう」
「はい」
「この魔法が、ひとつでも手助けになればいいけど」
「指輪」
「えっ」
「大切にしてください」
「あ、うん。わかった。ラピスラズリ、キレイだ」
公園の上空に、転移の陣ができる。
青い粒子は、徐々に少なくなり、また周囲は暗くなっていく。
「じゃ」
「濡れたままで大丈夫かい?」
「えぇ。まだ服はあるし、それにこの風で、もう乾きます」
上空に吸い込まれていくリリア。
「風の妖精リリア。きみが十三番の呪いにかからないように、願っているよ」
リリアが、頷く。
手には青い花。




