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迷宮第七層ヒキャンティア

 リリアは、扉の前によりかかって、座っていた。

 眼をあけると、封印扉の空間だ。



 よりかかっていた扉をみると、教会の絵と文字が描いてある。

 文字はたぶん次の封印魔法使いの名前ヒキャンティアだろう。


 リリアはたちあがった。


「何系の魔法使いなんだろ」



 一度着ている服装を点検する。

 前の層で着替えたばかりだから、濡れてはいないし、破ったりもないはず。

 バッグをみると、回復アイテムがたくさん入っていた。


「緑羽鳥に、助けてもらったから、今度いいご飯あげなきゃだ」


 一、二度屈伸したり、痛いところがないか確認する。

 しっかり回復できているようだ。

 またここから移動すると、迷宮のなかに入るだろう。


 覚悟を決める。



 扉の前の空間から、一歩進めると、風景が変わる。


「えと」


 部屋の扉ふきんから、進んだようだが、

 壁には窓が多数ついていて、ベンチが横に並んでいる。

 正面の壁には、十字架のようなものがかかり、教壇らしきところには、本が複数置かれている。


 さらに壁には、たくさんのアイテムが飾りつけられている。


「教会だぁ」


 上を見ると、天井が高く吹き抜けで、日差しが入ってきている。

 外の声も聴こえてくると、妖精言葉で話しているから、外は普通の街なかかもしれない。


「少し旧いから、いまはあまり使ってないのかな」


 すると、一番前のベンチに座っていたのか、妖精影が動いて、立ちあがった。


「あなたは」

「ああ、きましたか。リリア」

「あなたがヒキャンティアなのね」


 ヒキャンティアは、グレーの髪で赤い瞳、

 地味めな薄いブルーの上下を着ていて、うしろにマントをしている。


「そうです。リリア。さぁ一緒に祈りましょう」

「えぇ、なにを祈るのかしら」

「この妖精界の安定と女王の健康と、女王への愛と、魔法の均衡(きんこう)と」

「やっぱりいいです」

「ふふっ。冗談です。信仰は自由だし、わたしが祈っているのも、女王への感謝くらいですから」

「そう。それで、あの迷宮と試練は、その」

「ああ、ではいきましょうか」



 教会の外のざわめきが聞こえるなか、リリアはたずねる。


「えと、外にでるの?」

「いいえ、地下室にいきましょう。」


 するりと歩きだしたヒキャンティアは、教壇のうしろに回ると、なにか仕掛けを動かしたようだ。



 ゴコン


 なにか音がすると、

 十字架のようなものが飾ってある右下に通路ができていた。


 さっさとヒキャンティアはいってしまう。


「あ、待って」


 一度、教会のなかを確かめて見回すと、壁に飾ってある絵に目がいった。


「キレイ。妖精の丘かな」


 絵の右したあたりに、サインがしてある。

 飾り文字になっていて、しっかりとは読めないが、なんとなくリンヤと描いてある気がする。


 少しだけ枠に触れると、瞬間、何かの風景と、


 "願いは"


 という声が聴こえた。



 そのあとリリアは、地下室に続くらしい通路に入り、奥にある階段に入っていく。

 うしろで、通路の扉がしまる音がする。

 ヒキャンティアが別の通路で閉じる操作をしたのだろう。


「わぁ!  妖精教会都市の下に、地下が広がっているのね」


 階段のなか、リリアの声が響く。

 少し下っていくと、途中の踊り場に扉があり、プレートで、レジーカと描いてある。

 さらに進むと、レイラの名前が二つある。


 どの扉も鍵がしまっていて開かないようだ。


「この地下室が迷宮なのかな」


 ずっと下っていくと、ミパティス、タンタジラートとある。

 鍵はかかっている。



 途中空き部屋もあり、入ると回復アイテムが、用意してあり、それをカバンに入れる。


「倉庫なのかな。部屋で住んではいないよね」


 そのまま地下七層になると、ようやくヒキャンティアと描かれているだろう部屋をみつけた。

 扉を叩いてみる。


「魔力こめると開くよ」

「魔力をこめるのね」


 集中して、手をかけている扉に、魔力を流していく。

 三十秒ほどすると、扉から音がして、開くようになった。


「ふう。これが試練かな」


 扉を開けると、やはり造りは倉庫のようだが、キッチンがありくつろぐ部屋もあり、ひとつの家のようだ。


「あの、試練は」

「あ、そこの止めて」

「はい」

「あ、食器だすね」

「はい」

「飲みもの、なにがいい?」

「レモンティーありますか?」

「それね」

「あの」

「できた。チョコとレモンティーだよ」

「ありがとうございます」

「それで」

「試練は」

「いま話すね。ここでの試練は、希望や祈りなどを魔力転換して、ひとつのアイテムをつくろうよ」

「わたしのクラフトと似てますね」

「そうだね」

「でも、願いなどを魔力にすることで、強大なアイテムをつくることもできる」

「はい」

「ここでは、あなたとわたしで四つ、つくって、壊れなければ教会に飾らせてもらうよ」

「もしかして、飾りはみんな魔力をこめてあるんですか?」

「そうだね。あと、行きで部屋がたくさんあったでしょ」

「はい」

「それぞれ封印魔法使いたちの倉庫なんだけど、レイラのは服の荷物が多くてね。二部屋だよ」

「じゃ、他の部屋には」

「そう。第十三層まで、すべての倉庫がここにあるよ。魔法で少し拡張してあるけどね」

「そうなんですね」

「じゃ、アイテムを選んで、あと願いを決めようか」



 ヒキャンティアが立ちあがり、

 壁ぎわにある飾り棚から、いくつかのアイテムを取り出し持ってきた。

 温かいレモンティーを飲んでいると、目の前の机に、それを並べはじめる。



 みていると


 腕輪、ネックレス、宝石

 指輪、小型ナイフ、ヘアクリップ

 腕時計などなど。


「これ、どこから集めてくるの?」

「ヒトの世界によったときや、挑戦者たちと交換したり、あとは緑羽鳥かな」

「そうなのね」

「どれを選ぶかな」

「うーん。ネックレスと指輪にしようかな」

「はい」


 ヒキャンティアは、小型ナイフを二つ選ぶ。


「じゃ、レモンティーを飲みおわったら、やってみようか」

「はい」



 わたしは、温かいレモンティーを飲みほし、食器をキッチンに片付ける。


「洗いものはいいから」

「はい」


 再び席につく。


「わたしがこの小型ナイフに魔力をこめていくから、同じように、リリアもやってみるんだね」

「クラフトに近いからできるかな」

「魔力の使いかたは似てるけど、やってみて、できなければ、教えるよ」


 リリアは、目の前にあるネックレスを手にとり、願いを考える。


「わたしは」


 ネックレスが光だし、リリアから魔力放出されているのがわかる。


 願い、願い、願い


 ヒキャンティアも同じように魔力放出しているのだろう。

 小型ナイフが光だし、少しずつ飾りや模様が浮き出ている。


 けれど、リリアのネックレスは、途中で光を失い魔力が拡散して、空気中にちらばってしまう。


 ポフっとネックレスから光がなくなる。


「ふぅ。だめみたい」


 ヒキャンティアは、集中して、小型ナイフのひとつが魔力のかたまりのようになり、模様が定着した。

 光は収まるが、成功だろう。


「ひとつできたね」

「なにを願ったの?」

「まだ秘密」


 ヒキャンティアは立ちあがると、飾り棚にあるノートをわたしてくれる。


「希望、願い、祈りのこめかた」

「そう」


 ページをめくっていくと、よりイメージを具体的にもち、魔力放出を集中して、アイテムの形も想像するようだ。


「これ、できたらどうするの?」

「できた作品なら、使っても壊れないはずだよ。使用して安全なら、クリアだね」

「わかった。もう一度」


 リリアは、再びネックレスに願いと魔力をこめていく。

 繰り返しくりかえして、イメージを具体的に、そして集中していく。



 すると


 目の前の空間が変化し、気づく頃には、ひとつの景色が浮かんでいた。



「リンヤ」


 リリアの眼の前では

 リンヤがいなくなろうとしていて

 リリアがそれを留めて、そして……



「リリア、どうしたの」


 ハッと気づくと、リリアはネックレスをにぎったまま、立ちあがっていた。


「え。ううん。なんでも」


 え、いまのは


「なにか、具体的に視えたんだね」


 わたしが黙っていると


「預言者ノートを進化させたんだね。きっと、未来視に近いスキルになってきたのかも」

「そっか。未来」

「ネックレスに魔力が付加されたよ。ひとつはできた。もうひとつだね」


 リリアは次に指輪をにぎりしめて、同じように集中した。



 再び目の前の空間が歪んでいく。


 今度は、リンヤはいなくなっている

 わたしだけだ

 ここには、わたしだけ


 わたしっきり



「リリア、指輪!」


 指輪が光に包まれて、模様が浮かんでいく。


「え」

「成功だね」


 今度は、ヒキャンティアが付加したナイフに、同じように願いをのせていく。

 合計で四種類の魔法付加アイテムができた。


「よし。使ってみようか」


 ヒキャンティアは、キッチンから野菜をだすと、ナイフで刻んでいく。


「そのまま使うんですか」

「切れ味を確かめただけ」

「はぁ」

「でも、ほら」


 ナイフは模様の入ったまま、壊れもしない。

 ヒキャンティアは、きっちりと使ったナイフを洗う。

 指輪もネックレスも大丈夫らしい。

 魔力のこめてあった、部屋の扉がひらく。


「試練は終了。スキルを選んで」

「はい」


 リリアはスキルを選んだ。


「いま第七だけど、先も続けるの?」

「はい。わたしはリンヤがいる層まで」

「わかった。第十三層には気をつけて」

「はい」



 扉のひらけた空間に陣が描きだされ、次の扉に続く道ができている。


「あ、そうだ」

「はい」

「これ、あげる」

「え、いいの?」


 ヒキャンティアの手には、ネックレスがある。


「指輪とナイフは、飾らせてもらうから、これはいいよ」

「ありがとうございます。あの」

「うん」

「リンヤは、ここで何を願ったの?」

「それは、リンヤの付加したアイテムを使用すれば、わかるかもだけど、まだ飾ってあるよ」

「いいえ。大丈夫。さっきの預言者レポートが気になっただけ」


 すると、ヒキャンティアはひとつの詩を教えてくれた。


「それ、リンヤが教えてくれたんだ」

「わかった」

「じゃ、リリア」

「うん。じゃぁ」


 席をたち、ひらいた扉をくぐると、できた陣に吸い込まれるように、リリアはいなくなる。




「リンヤ、きみは十三層で、なにを得ようとしているのかな」


 ヒキャンティアは、考えごとを口にだしていた。


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