四月後半部活練習風景
放課後、演劇部の部活メンバーが集まりだす。
三年生が声をかける。
「発声と筋トレ基礎練習が終わったら、集まってください」
二年、三年生は秋の大会に向けて、一年生は、その前の新入生だけでおこなう、部活一年披露会での脚本選びや練習を少しずつはじめなければいけない。
りりあは、少しずつ、昨年の想い出をたどる。
りょうくん、あかねさんとゆいさんは、部活の練習には少し慣れてきたようだ。
特に、あかねさんは、将来役者になりたいらしく、熱心になっている。
しかし、りょうくんとあかねさんは、少し仲が悪いらしい。
ゆいさんの話しでは、りょうくんが基礎ができていないとか、あかねさんがアドリブばかりするとか、そういうので言いあらそいになるようだ。
「二人とも、ケンカしてないで」
「うん。ケンカじゃないから。ただの言い合い」
「そう。りょうくんが、まだ演技下手なんだもん」
「あかねだって、そんなにできてないだろう」
「りょうくん、音響もしっかりやれてないんじゃん」
なかなか、にぎやかな後輩一年たちだ。
音響設備は、この体育館では、あまりそろっていないため、音響効果は、ポータブルのCDデッキで調整し、おおきいところのホールでは、しっかりとした音響室で、効果のセットをする。
すみのコンセントがあるふきんで、争っていたため、りりあは仲裁してみる。
「ちょっと、二人とも。一年生は、やることあるでしょ。それに、まだ演技とか、基礎とかの途中なんだから、半年くらいは、仕方ないよ」
「えーー、先輩。やることはしっかりしますけど、りょうくんどうにかしてください」
「ふぅ。じゃ、りょうくんは、最後少し残って、練習でもしてみる?」
こうは言うが、りりあも記憶をだいぶ失っているため、正直照明のほうが気がラクだ。
でも、人数が減っているため、みゆさん以外は、役もついてしまうらしい。
少し離れている、えみさんに声をかける。
「えみさん、残って大丈夫そう」
「うん。わたしは平気」
りょうくんがきいてくる。
「え、りりあ先輩と、えみ先輩残りますか。それなら」
「ちょっと、りょうくん。一年同士の打ち合わせはどうするの」
「ここで、時間もらって、少しやればいいじゃん」
ゆいさんは心配そうに、三年生の先輩をうかがう。
「え、いいよ。一年生、じゃ、照明室で、相談してよ」
「みゆーー」
「はーい」
「照明室、一年生使うって」
「わかった。でもわたしどうしよう。二年生のエチュードとか」
「そうだね。参加してみれば。照明ばかりじゃなくて」
「うん」
この話しをきいて、一年生たち三人は、照明室まで移動する。
一年生たちの劇は、夏休みか、時間空いた秋のどこかでするのだが、あまり時間はないため、焦ってしまうのだろう。
みゆが、照明室から降りてくると
「一年生たち大丈夫かな。ケンカとか」
「ケンカとかするほうが、言いたいこと言えていいかも」
りりあは、少し自分は意見できていないかもと、反省する。
「そう。りーあは、照明のほうがいい?」
「そのほうが、気はラクかな。でも、演技自体、嫌いなわけじゃないんだよ」
「そうなんだ」
黒さんが、こちらにくる。
「ごめんなさい。そろそろ、練習はじめるみたい」
「あ、うん」
二年生、三年生が集まり、輪になる。
「一年生の役は、置いておいて、とりあえず、次は秋の大会にむけての脚本選びと、あと体力つくりです」
「はい」
「二年生は、体力つくりのほかに、文化祭も積極的に参加で、お願いします」
みゆさんと、えみさんが意見を話す。
「文化祭、演劇とクラスのほうと、忙しいかも」
「わたしも照明で、呼ばれるかも」
「そういうひとは、事前申請で、報せてください」
「はい」
だんだんと、話しが脚本選びや今後の練習の仕方になってくる。
おくれてやってきた、担当の先生もじっと聞いている。
「それでは、今日の練習は、前回大会で使った台本読みをして、次回には、次の大会に使いたい脚本を少し探してみましょう」
部長の話しが終わる。
「照明室に、いってくるね」
えみさんと黒さんが、台本を取りにいく。
戻ってくると
「一年生たち、がんばって話してるよ」
「でも、脚本が決まらない、みたい」
「そうだよね」
めぐやんが答える。
「そうだよ。わたしたちのときも、脚本決めで、けっこう時間使ったよ」
「そっかぁ」
取ってきた台本を、いるメンバーに配り終えると、さっそくそれを使っての読み練習がはじまった。
いまの三年生は、みたことのある劇の台本なのだろう。
上手にセリフをいい、手振りもつけたりしている。
読みあわせを終えると、部長と担当の教員が、それぞれで感想を言った。
「じゃ、あとは一年生も集めて、連絡確認して、解散ね」
「はーい」
「わかりました」
えみさんが、照明室に声をかけると、一年生たちが降りてきた。
連絡を伝えて、他のメンバーは解散することになる。
りりあとえみさん、りょうくんは残り、それぞれ他のメンバーが着替えたり、片付けたりしていなくなるなか、話しあっていた。
「じゃ、りょうくんは、音響もしながら、役も目指すの?」
「迷ってはいますが、一年生は人数少ないから、一年生公演では、役も入りますし、そのまま続けるかなぁ」
「そっかぁ」
「りりあ先輩は、演技より照明ですか?」
「わたしは、照明やりたいけど、人数とかで入るから、結局役かなぁ」
「そうですか」
「あかねさんとは、しっかり話せてる?」
「話しっていうか、なんか馬鹿にされてるんですよ」
えみさんが話す。
「そんなことないよ」
「うん」
「たぶん、一年生の人数少ないから、頑張りたいだけだと思う」
「そうですかね」
「りょうくんは、運動は?」
「それなり、かなぁ」
「じゃ、まずは体力つけて、発声基礎しっかりしながら、徐々にだよ」
「はい」
りょうくんは、少し納得してくれたようだ。
「あ、でもナイショだよ」
「はい」
「いまの三年生と、もうひとつ上の先輩、仲悪くて、そのとき大変だったよ」
「えーー」
「だから、あかねさんとゆいさんと、しっかり話してね」
「はい」
少しだけ練習をすることにした。
「発声をしたあと、エチュードでも一回しよっか」
「はい」
りょうくんは、発声はまだだしきれていないところもあるが、演技には真剣そうだ。
少しずつ時間をかければ。
「りりあ、もう少し、距離つめよっか」
「はい」
りりあにも、えみさんからの注意をうける。
ひと通り演技をしたあと、三人で講評して、解散となった。
りりあは、帰り道、少しだけえみさんと二人になり、話してみた。
「いつもありがとう。えみさん」
「え、なに」
「副部長だし、わたし迷惑かけたし」
「照明のヘルプもしてるんだし、充分だよ」
「演技なかなかうまくならなくて、ごめんなさい」
「どうしたの、急に」
「うん」
「あ、でも、もっとひととの距離のとりかたとか、音響とのタイミングはあわせたほうがいいよ」
「厳しいなぁ。うん」
「あ、そうだ」
「うん」
「えみや、めぐやん、かめとかに、もっと話しかけていいよ」
「え」
「なんか、りりあ最近、ひとりになりすぎ。たしかに、くみさんとか仲いいみたいだけど、演劇のメンバーとも話そうよ」
「うん。わかった」
「じゃね」
「うん」
なかなかに、えみさんはするどいな。
わたしは、預言者レポートをつかうことが、怖くなっていた。
わたしが、魔法を使用するたびに、
誰かかケガをしているのでは、と思うようになってきたからだ。
くみさんも、転生に関わらなければ、魔法に接しなければよかったのかもしれない。
「でも、あのときはたしかに、くみさんは、危険だった」
使用しなければ、もう、くみさんはここにいなかったかも。
妖精として長く生きても、転生魔法使いとなっても、わたしの責務と、預言、運命と、どう向き合うのか。
「はぁ」
寮に戻ると、また緑羽鳥がいた。
今回持ってきたのは、水鉄砲にバケツ、
水筒に、魔導石のペンダントだ。
「魔導石、けっこう貴重。ありがとう」
そして、リンヤの言葉を思い返してみる。
「転生魔法使いの……」




