りりあ進級、二年生始め
あの日、カラオケのあった日。
ななちとくみさんと、カラオケのあと、桜を観にいった。
近くの公園の桜は、もう八分で満開に近づいていた。
夜に、ライトで照らされた桜を観た想い出は、きっと宝ものだ。
カラオケで、くみさんが言ったことを思い出す。
「魔法使いなんでしょ」
「え。急に、どうしたの?」
「たぶん、預言と転生」
「えー、どうしたくみさん。魔法とか、珍しいこと言うね」
「ななち、わたし真剣なんだ」
「マジ?」
「そう、マジ」
「ちょっと待ってよ、くみさん。魔法って、あの火だしたり物壊したり、空飛んだりでしょ」
「そうだよ、ななち」
「なんで、それがでてくるのさ」
「わたし、魔法が使えるようになったんだよ。いまは、まだ不安だから、使わない。でも、分かるんだ。りーあもだよ」
「えーー! いや、うーん。待って」
「ななち、ごめん。うるさい」
「ねえ、くみさん、どうしてそう想うの」
「ふふん。わたしも使えるからよ」
「うーん」
「じゃ。これはどう、りーあ」
見せてくれたのは、妖精ノートに似たものだった。
あれには、驚いたな。
妖精種にならないと、渡されない妖精クイーンとつながるノート、くみさんが持ってるなんて。
朝、学園の教室の机に向かって、そうあのときのことを振り返っていると、ななちが、となりに歩いてきて、なぜかくみさんもとなりにいる。
手をつなぎながら。
「ふふっ、わたしつきあってるんだ」
「えー、あー、うんそうなんだー、えーーーー!!」
教室に響く声で、おもわず叫び、注目をあびてしまう。
恥ずかしくて、うつむく。
「う、ゲホ、え、うん」
むせてしまう。
「りーあ、大丈夫」
妖精333年過ごして、それでもこの二人には驚く。
少し声を静かにして、平静さを装う。
「え、うん。大丈夫だよ。えーそうなんだ。え、うん」
「演劇部さん、ねえ、ちっとも大丈夫そうじゃないよ」
動揺が顔にでてるようだ。
「わ、わかってるわよ。もう。ちょっと、ていうか、だいぶびっくりしただけ。へー、うん。そうなんだ」
「そう。見せびらかしにきたの。ね、ななち」
そう、ななちに、話すくみさん。
「うん。まあね」
ななちは、顔が赤い。
ななちの恥ずかしそうな顔をみて、少し落ちついてきた。
「あ、チャイムなるね。またあとで」
くみさんが走って隣のクラスにいこうとする。
ななちにウインクしてから、走りだす。
ななちが、今度は、むせている。
「もう。いいから、いきなよ」
「はーい。じゃね、ななち」
すっかり二人の世界ができている。
クラスメイトらも、すっかり驚き、ざわめいている。
先生がきたため、静かになるクラス。
でも、休み時間には、ななちは質問ぜめだろう。
ホームルームの時間になって、ルーレ師匠の言葉を想いだす。
「恋は、妖精にとっても大事だぞ、リリア。愛よりも重くなる」
「なぜですか」
「それは恋は、走りだせば加速して、嬉しいも楽しいも増えていく。愛は、減速してしまうと、虚しくなり、飛散してしまう」
新学期はじめは、部活はなしだ。
短縮授業が一通りおわると、そのまま帰り支度をする。
くみさんが呼ぶ声がして振り向くと、ななちを呼んだようで、ななちは廊下に歩いていく。
「べ、べつに、寂しくないんだからね」
声が聴こえたのか、くみさんが
「ほらー、さみしがってないで、りーあもくるのー!」
「べ、べつに寂しくないからぁ」
「そうなんだぁ。ふーん、そう」
やりづらいな。
そう想っていると
「なんかごめん」
「なんで、ななちが謝るの?」
「うん、ごめん」
「もう」
くみさんが廊下で、ななちを小突いている。
仲がよいこと。
「陸上も、今日はなし?」
「そうだよ」
「くみさんは」
「わたしのほうもだよ」
「そっか」
そのまま、三人で帰ることにする。
帰り道、相変わらずななちとくみさんがじゃれているため、言ってみる。
「ふー。熱いなぁ」
「りーあも混ざる?」
「いいです」
「えー!」
くみさんは、性格変わっただろうか。
なんか、前よりも積極的だし、落ち込みもなさそうだ。
くみさんが、元気そうなのは、素直に嬉しい。
寮の近くまで、きてくれて、そこで別れる。
寮の入口で、管理人に挨拶してから、中に入ろうとすると、近くに緑羽鳥がきていた。
なにか運んできてくれたらしい。
みると、新魔導書だった。
でも、わたしはまだ新しいのは頼んでないんだけどな。
「ククルルック クルットト?」
「ううん、なんでもないよ。ありがとう」
キレイに飛びさっていく緑羽鳥。
でも、この新魔導書、少し濡れているし、なにか誰かが読んだあとのような。




