リンヤ、スキル運命
コールドタイム期間に入ってから、どれくらいだろう。
ある朝、リリアは夢をみていた。
ときどき、ヒトの住む街のなかで暮らしている、妖精宛にも、荷物がくる。
その妖精に荷物を届けるときに、ヒトの世界の様子を知ることができる。
そこでは、制服をきた高校生という所属のヒトが随分、行き来をしていて、街のなかを探検したり、他のヒトたちを観察して、ハシャいでいたりする。
妖精たちの間でも、ときおりそういった、イケメンやハンサム、カッコいいに憧れを持つが、リリアは、あまり関心はなかった。
けれど、ヒトの世界にふれると、あまりにもたくさんのヒトが目を輝かせ、とくに、高校生は、縦横無尽に世界をかけ回っているように観えた。
そのうち、リリアも高校生の制服をきて、他愛もない話しをして、イケメンを追いかけてみたい、気がしてきた。
その夢は、自分が学園に通っていて、制服をきて、あるひとりの男子に憧れる、そんな夢だ。
リンヤに、その夢の話しをすると
「それは、ヒトのいう恋だね」
と言われた。
「え、わたし恋してないよ。」
「世界に、恋してるんだよ」
リンヤは、詩妖精だなぁ。
「そうだ、いま使ってみようか」
金色のコインで、騎士が、剣を構えている絵柄のものをリンヤが弾いて空中にコインが舞う。
くるくる回りながら、コインが頂点にくると、分裂して二つになる。
リリアの手元に、コインが降りてきてキャッチし、リリアの手のひらにそれをのせてみると、絵柄が、かがやきだして、文字が浮かんで、消えた。
もう一つは、リンヤがとる。
妖精文字で、別れ道、と描かれていた。
「運命の導く者だよ。
君は、いつでも、この妖精の瞬間に帰って来られることを、忘れないで」
「そしてもし、戻りたくなる時がきたら、このコインを割るように、その場で祈るんだ」
「そっか。わかった。ありがとうリンヤ!」
リリアは、朝の準備をして、いつものように、ビルをでる。
でるときには、もう時は動きだしている。
そういえば、運命の導く者と、コールドタイム、どちらのほうがより効力があるのだろう。
リンヤの魔法は、きっと強力だ。
それは、わたしの持つことになる転生魔法の威力と、どれくらい差があるのだろう。
けれど、転生魔法は永続魔法だ。
新魔導書に描かれていた。
転生するまでの期間、ずっと続いていく魔法で、アンチ魔法も、封印も、クイーンでさえ、キャンセルできない魔法となるらしい。
運命の導く者は、時魔法に分類されるのだろうと思うが、その辺り、師匠にもきいておこうか。
郵便室につき、あとはいつもの手順で、荷物を仕分けし、午前便で載せるものも、転送する荷物にわけた。
師匠あての郵便があった。
午後作業の転送魔法で、送ることにする。
今度の居場所は、丘の付近で、たしかさまざまに花が咲くと有名なところだ。
そういえば、荷物がわたしの分もある。
おそらく、配達注文した魔導アイテムの小物類だろう。
リンヤに、転送で受け取ってもらおう。
今日は、タカッチルの出番だ。
遠くからでも、タカッチルの鳴き声が聴こえてきている。
ちょうど、玄関に荷物をまとめ終えて、一息つくと、タカッチルが、空から降りてくるところだった。
「今日は朝食は?」
「大丈夫、木ノ実食べてきた」
「そっかぁ。じゃ、お昼用にお弁当を持っていこう」
「楽しみー!」
「ふふ、じゃぁ、今日の分の運びもお願いします」
「わかった」
タカッチルに載り、今日の分の荷物をタカッチルが、足のリングでひっかける。
そのまま空中に上がり、届け先まで移動する。
ひとつめの場所は灯台のある港倉庫に着く。
タカッチルは、回転しながら荷物を降ろし、わたしも背中からおりる。
倉庫からでてきた、年齢の高い妖精に、作業時、利用するのだろう、小さめな工作機械をわたす。
手元の端末で、支払いをする。
二つめの移動先は、工場地帯の事務所だ。
年齢の若そうな小さな妖精に、時計やアクセサリ、金属加工されたアイテムを渡す。
手元の端末で、支払いすると、壊れもの以外は転送でいいよ、と言ってもらった。
その場で、転送契約と位置情報がわかる腕輪を渡して、説明を加えた。
三つめの移動では、森のなかにある別荘地に着いた。
年齢は不明だが、何やら格好が不思議な妖精がでてきた。
キャンパスや絵の具、加工器具を渡すと、細かく壊れていないか、確認していたようだ。
端末で支払いをすませると、また別の画材が届くから、またお願いするよ、と話しがあった。
いくつかの運び先を終わった途中で、街なかの公園に降りてもらい、タカッチルと、公園でお弁当を食べた。
あとは、郵便室に戻り、作業の続きをして、転送作業だ。
タカッチルに、戻りも頼んで、背中に載せてもらい、郵便室にたどりつく。
タカッチルには、あとは休んでもらい、作業にかかる。
倉庫で、転送作業の準備をおこない、できたものは、転送するため、並び替えしていく。
師匠のものは、真ん中くらいで順番がきた。
転送契約はしてあるが、腕輪を失くしはいないか、心配だ。
無事送り終える。
たしか中身は、新魔導書一冊だ。
この前、図書館で借りたものの、新品がクイーンの秘書から、ルーレ師匠あて郵便だった。
終わりの作業で、リンヤあてに、わたしの荷物を送る。
どうやら、使いかたを覚えてくれたようで、わたしの契約腕輪に、転送できたようだ。
帰ったら、お礼をしよう。
ほとんどの荷物転送を終えると、夕方になっていた。
途中では、いくつか後日郵便の受け取りもすませていた。
タカッチルに、お礼のアイテムとご飯をあげると、この場で食べてから、タカッチルは、飛び去っていく。
郵便室をしめて、ビルに帰る。
途中に、買いものを少しした。
ビルに帰りつき、扉をあけると、リンヤがでかける準備をしていた。
「荷物受け取ったよ」
「ありがとう」
「転送契約便利だね。どこまで届くのかな」
「契約上は、妖精界と魔法エリアが届く範囲なら、かなり遠くまで転送されるよ」
「わかった。今度、詩の資料でも、注文しようかな」
こうして、リンヤは、夕方からの詩うたいにでかけていく。
リリアは、自分あて荷物から、魔導アイテムの加工用の小物をとりだす。
あとは夜中まで、リンヤを待ちながら、加工アイテムを作成しよう。
そういえば、と、持っている連絡用のデバイスから、師匠を呼び出してみるが、変わらずにでてくれない。
ルーレ師匠は、基本的にデバイスや手紙連絡など、気が向くときしか、連絡がつかない。
仕方ない。
今度、またでかけてみて、リンヤの時魔法について、聴いてみることにする。
そう思いながら、加工アイテムを作成していると、いつの間にか、うたた寝をしてしまうのだった。




