リンヤ、詩流し
リンヤは、夕方から、リリアの交代で、夜の流しにでかける。
今日のリリアは、修行で疲れてきたらしい。
帰ってくると、すぐ
「リンヤの協力が必要になったから」
と言うあたり、師匠に会ってさまざまに、スキル修行をしてきたみたいだ。
「どんな協力かい?」
「預言者レポートにて、未来を視るのを許可してもらって、あと、未来改変にも協力かな」
「たしか、はじめて会ったとき、紹介してた、固有スキルだね」
「そういえば、リンヤの固有スキルはなに?」
「コイン運命の導く者だよ」
「え、なに、どういうの?」
「運命の導く者をその場でつかうと、
そこで、運命の別れ道ができて、先の道で、失敗しても、コインを使ったその別れ道まで、一度戻ってこられるんだ。時魔法の一種で、一日に三回道が選べるよ」
「すごい!」
リンヤの手をリリアが手にとる。
そうして、リリアは預言者レポートをつかった。
パッと視界が切り替わる。
リンヤが、旅先で、詩を披露している。
その側には猫が一匹。
背中に小さな羽をつけた猫は、妖精界では、珍しくない。
その羽をなでるようにしている。
視界が切り替わる。
今日の詩の仕事は、うまくいくのだろう。
リンヤが、不思議そうに、リリアの顔をみたあと、その横顔にキスをした。
驚いたリリアは、思わず後ろに身をひいた。
「な、なに、どうしたの、急に、え!」
「ふふ、預言者で何が視えたんだろうと思ってね。じゃ、いってくる」
「あ、うん、わかった、その、いってらっしゃいね」
リリアは、変な返事をしてしまう。
扉がしまったあとも、しばらくボーとしていると、預言者で視て、そういえば、リンヤは猫好きなんだな、と、改めて思った。
リンヤの今夜の詩流し先は
ビルの一角が、回廊になっていて
上から少しずつくだりながら、建物のなかを進んでいくと、そのなかに街のなかのように、飲み屋さんや屋台、カウンターのある喫茶店が連ねている、不思議な空間だ。
俗称、渦巻き食事棟と呼ばれるビルのなか、ひたすら開けているお店を回っていく、リンヤ。
ひとつめでは、バーカウンターがあり、
ゆったりめのBGMが流れている店内だ。
小さな一段あがるステージがあり、
そこで一曲だけ詩わせてもらった。
終わるとまだらな拍手があり、
魔導アイテムと、少しの食べものと飲料をわけてもらった。
二つめは、居酒屋風の店内で
忙しい店内のためか、ろくに話しをしないうちに、ダメと断られてしまった。
三軒めでは、お姉さん妖精たちが集まる店内で、話しをしてみると、あまり詩わないうちに、魔導アイテムやら、握手をしてもらう。
だいぶ、お酒がまわっているかと思うと、意外とそうでもない。
頭をなでられたり、肩をこづかれたりするが、詩が進まないため、はやめに切り上げる。
出口で、手を振ってくれるが、詩はあまりできなかった。
今度、再び来よう。
四軒、五軒と、お店を回り、
だいぶ下の階までおりてきた。
一階は玄関口なため、その手前のが、このビルの下層のお店だ。
入ってみると、カラオケ店になっていて、入口に少し拡げた空間があった。
けっこうにぎわっているため、試しに詩ってもいいか聞いてみると、少しだけなら、と許可してもらえた。
リンヤは、ここで、新曲を詩ってみた。
迷路にはいりこみ右左
あなたは遠い空のもと
きみに会えたそのときに
決めたひとつの賭けごとは
迷路にはいりいくつもの
景色すぎてもわすれない
あのとき過ごした想い出は
この瞬間にも大切な
わたしにとって導くもの
扉の前で立ち止まり
入るときとは逆向きな
それでも想いはひとつのほうに
きみに会えたあのときを
いまもわすれないこの想い
きっとこの先わかれても
いつもあふれる日常の
あの日あのときをいまもまだ
集まっていた妖精たちに、拍手と歓声をもらえて、カラオケ店からは、花とアイテムを複数もらえた。
ビルをでると、だいぶおそい時間帯だが、その路地に一匹の猫妖精が、鳴いていた。
背中の羽はまだ小さい。
リンヤは、迷わずに、もらったアイテムのなかを探して、回復水と少しの小魚パックをあげてみた。
ニャーと、その猫妖精はまた鳴いた。
少しの間、眺めてなでてみたが、身なりはキレイなため、もしかしたら、このビルでの飼い猫妖精かもしれない。
試しに、
「きみは、大事にされているの?」
きくと、
「ニャ」
と返事をしたため、大丈夫だろう。
残りをあげて、持っていたデバイスで、写真を撮ってから、その場を去る。
今日は、手持ちのショッピングバックがたくさんだ。
魔導アイテムのなかには、珍しいものもあったから、リリアも喜ぶかもしれない。
渦巻き食事棟は、また詩流しにきてみよう、と思いながら、リリアの待つビルに帰っていった。




