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檜山志堂の黙示録  作者: 山犬
プロローグ 
9/11

第9話 やはり志堂は殴られる

男子生徒の黙示録


桜川 緑の一件から数日後のこと。

志堂と円華は5Fの廊下で話していた。


「スゴいじゃん檜山ぁ!!

 花瓶置かれなくなったね!!」


「それ、スゲーことなのか?」


志堂の机に置かれていた花瓶は

あの日以降一度も置かれていない。

何もない机の上を見て、一番喜んだのは

他でもない目の前の円華である。

どんだけ気にしいなんだコイツは。

逆に気にしない主義の志堂にとって

実際その喜びは分かち合えなかった。


「まぁ徐々に細かい嫌がらせも

 減ってきたしな。

 もう罪悪感とか持たなくて

 いいから。」


「んーん。結局私は

 何も出来なかったから。

 それにしてもどうやって

 解決したんだい?

 いっつもそこははぐらかすじゃんよー!」


不機嫌そうに円華は言った。

志堂は今回の顛末を多くは語らなかった。

それは別に緑に対する罪悪感ではない。

元々志堂が何とも思っていなかったし、

円華に緑の感情を包み隠さず話すことは

少々気持ちが悪かったからだ。


「いいんだろう別に。

 過ぎたことなんだ。」


「うへーー。隠し事だーー!!

 それに最近早百合も

 妙に嬉しそうにしてて

 なーんか隠してるんだよね。

 これがハブというやつかぁ。」


嬉しそうねぇ。

その話を聞いた瞬間、志堂は思わず苦い顔をした。


『ーー檜山くんは暫く私に

 絶対服従だから。』


緑の1件があった日の昼休み

ボディーブローを5発ほど

ぶちかまされた後、

早百合は志堂にそう言ったのだ。


あの時の怖いくらいの満面の笑み。

きっと一般生徒ならば、女神と言って

心を籠絡されるだろうが、

志堂にとって別の意味で

忘れられないものとなった。

あの暴力女は本当にろくでもないヤツだ。


「そう言うな。

 あのバカに付いていけるのは

 竹千代ぐらいなもんだ。」


「え?

 そ、そうかなぁ。

 まぁ私ぐらいだね!

 あの娘を御せるのは!!」


「ついでだから一個聞いてもいいか?」


「ん?」


志堂はあの日以降、

疑問にひっかかっていたことがある。

それは早百合と円華の関係性だ。


「お前は狭間のことどう思ってるんだ?」


「何その質問!

 それは男子同士で好きな女の子のことを

 聞く時の質問じゃないかーー!!

 聞く相手間違えてるよ檜山!

 もしかして檜山、早百合のこと……。」


「あーーもううっさい。

 お前が想像してることと

 全然違うから。

 だから早く答えろ。」


恋心と履き違える円華をなだめる志堂。

あーコイツに質問するんじゃなかった。

志堂は心底後悔した。


「まぁマジレスすると鬼ダチだよ!

 あの娘は皆からなんか

 持ち上げられてんじゃん。

 でも実際全然そんなことないの。

 スゴい真面目なバカだし、めっちゃガサツだし。

 その上好物イカの塩辛とか

 スルメイカとかだよ。

 めっちゃオッサンなの!!」


「あーーなるほど。」


志堂はなんとなく理解した。

早百合が円華を大事にする理由。

それは円華は早百合を平等に見ているからだ。


「ちょっと塩辛は

 ギャップ萌えしないよねー。

 その時私言ってやったもん。

 オッサンかって。

 そしたらあの娘笑いながら泣くの。

 本当に不思議な娘なんだよ〜。」


崇拝。信仰。たった16、17歳の

普通の女子高校生にとってそれは

ただの重りにしかならないのだろう。

他人から期待しかされず、特別だからと崇められ

男子生徒からは好色の目で眺められ。


いつからそんな人生を送ってきたのか

志堂には分からなかったが

そんな甘くて温い生活は

気色が悪くてきっと耐えられないだろう。


きっとそんな人生において、円華こそが

初めて平等に向き合える友達だったのだろう。

人によっては報われて、早百合にとっては

救われないこの生活において

円華は唯一の救いなのかもしれない。


「期待されるってのは

 大変なもんだな。」


「まぁね。

 人は見たいようにしか見ないから。

 そう言う檜山は

 早百合のことどう見てるんだい?

 お姉さんにそこんとこ

 教えてみなよ〜。

 ご主人様? 頼れる女神?

 それともきゃわいいマイハニー?」


「理不尽暴力女。」


「わーめっちゃリアル。」


「あの一撃喰らって尚

 女神だなんて言える程

 俺は盲目じゃない。」


早百合のハイキックは見事なものだ。

見た目、スピード、そして威力。

どれをとっても一級品といって

差し支えないだろう。

そんな一撃をマトモに喰らえば

百年の恋も一瞬で冷める。

最も恋などしていないのだが。


「でもね、早百合は檜山のこと

 嫌いじゃないと思うんだ。

 むしろ気に入ってると思うよ。

 あれだけ暴力を振るう早百合なんて

 私見たことないもん。」


「そんな気軽に暴力を

 振るわないでほしいんだけどな。」


「それってつまり、

 早百合にとって檜山は

 特別ってことなんだよ。」


「特別ね……。」


特別。スペシャル。

色々な言葉を志堂は模索をする。

そして一つの結論に辿り着いた。


「なるほど。

 俺は特売のたまごだな。」


「ーーうん?」


「特別。つまり特売だ。

 普段は1パック120円のたまごが

 特別価格にてお一人様98円になるだろ。

 つまり俺は狭間にとってお手頃に

 ぶっ飛ばせる人間というなのか。

 狭間絶対に許さねぇ。」


「えええぇぇぇ?」


謎の特売たまご理論は

円華を大いに困惑させたが、

志堂は全く気にしなかった。


ゴゴゴゴゴゴゴ。

そうか。自分は大量消費社会の

生産物、スクランブルエッグで

一度に数個使用されるたまごのような

気軽な男なのか。


自問自答の答えに怒りを覚える。

今ココに居るのは、特売を眺める

心優しき主婦のような男ではない。

復讐のたまご、檜山 志堂だ。


そんな所にふらりとやって来た

人物がいる。


「檜山くん。

 よーやく見つけた。」


「お、志堂〜!

 今狭間とお前のこと探してーー。」


早百合と楼が志堂の元へ駆け寄ってきた。

刹那。志堂は目を光らせて動き出す。

狭間よ。お前は俺を怒らせた。

ここで会ったが百年目とばかりに

気性の荒いサラブレッドの如く、突進。


「はーーーーざーーーーまぁああああ!!」


「え、ちょ、檜山くん?」


「おいおいどーした志堂ぅ〜?」


「ま、待つ待つ、待て待たれ檜山ぁ〜!!」


驚く早百合や困惑する楼に

志堂を制止する力はない。

しかし志堂は思った。

勢いがままに突っ込んでしまったが、

特に復讐については

ノープランだったことを。

そのため志堂は自分の力で

急制動をかける。


「はぁ、はぁ。は、狭間……。」


「ど、どうしたの檜山くん?

 急に全力疾走なんかして?」


全力疾走と急ブレーキによる疲労に

息が切れる志堂を心配そうに早百合は見つめた。

取り敢えず話をしなければ。

志堂がそう思い

口を開いた次の瞬間だった。


「ちょ、檜山!

 早まっちゃダメぇぇぇ!!!」


そしてその志堂を全速力で

追いかけていた円華。

よもや円華も目の前の志堂が急に

立ち止まるとは思わなかっただろう。


「でぇい!!」


まず背中に勢い良く突撃する円華。

次に背後からの運動エネルギーによって

前に軽く飛ばせる志堂。


「……檜山くん?」


「し、志堂ぅ。

 中々の大胆さだぜ。」


そして前方方向、

早百合の胸についた

豊かな弛みに志堂は顔面から

突っ込んでしまったのだった。


鼻に入ってくる仄かな香りを

最後に志堂は死を覚悟する。


「スマン。事故だ。」


「ふーー。死んでしまえぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!」


この学校には女神が居るといわれている。

男子は恋の病にかかると言われ、

女子はその姿に尊敬やあこがれを抱くという。

志堂はそんな学校の伝説、まやかしだと叫ぶのだった。


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