異世界はハードモードと共に
ドガァーーーン!
轟音と共に城内が激しく揺れ、天井から細かい瓦礫が落ちる。
その中を右往左往するメイドだの兵士だのの中を俺達は駆け抜けて居た。
ドーーーーン!!
更なる轟音、そして俺達から少し離れた場所に大きい瓦礫が落ちた・・・そこに居た人を巻き込んで。
この城はもう持たないって事を嫌でも思い知らされる。あぁ、どうしてこうなった!?
「ちっくしょうめーーーーー!!!」
「・・・マスター、そこ左です」
俺は走る。何故か俺の事を「マスター」と呼ぶ幼女を脇に抱えて。
「貴様等のせいで!!」
「やべっ!」
通路を左へ曲がるとすぐ城内に居た兵士が俺に剣で斬りかかって来た!ふざけんな!何で俺等の所為なんだよ!?
パァン!パン!
破裂音が2回。それが通路に木霊すると同時に、斬りかかろうとした兵士が後方へ軽く吹き飛びながら血を撒き散らす。
「大丈夫か!?」
その声の主が両手で持つのは拳銃、いかにもなミリタリー装備をしたその人は一目で軍人だと判る。
「あ・・・あぁ。助かった」
目の前で倒れた兵士の体から床に血が広がって行く・・・鼻には鉄の様な匂い・・・何なんだよ!畜生!!
しかし時は待ってくれない。いまだに轟音が響き床が震える。
「ホラ!行くぞ!!」
「判ったよ!!」
軍人さんに急かされ再び走り出す。
今は混乱してる位が丁度良いのかもしれない・・・正気に戻ったら絶対吐くぞ?コレ。
「城内に魔物が侵入したぞ!!!」
そんな叫びと共に、遠くから金属のぶつかる音がそこかしこから響き始める。
ヤバイヤバイ!どんどん状況が悪くなる!!
「マスターそこ右です」
余裕か!?この幼女危機感が無いんか!?・・・まぁ自称『アンドロイド』らしいから大丈夫らしい・・・大丈夫なのか!?
「自称では有りませんマスター」
「心を読むな!」
そうこうしながら移動をしていると、広間へ出た。
「あの祭壇の下に通路が在るようですマスター」
広間の奥にポツンと在る祭壇、それが隠し通路の入り口らしい・・・が、問題が発生する。
「グフフフフ・・・又獲物が来やがったぜ」
俺達の目の前には魔物と言われた存在・・・緑の皮膚を持つゴブリンとかそんな感じのまぁ人じゃない生物が居た。
「チッ!無駄弾を使いたかねぇが・・・」
拳銃を構える軍人さん。と、その脇から一気に魔物へ飛び込む影が有った。
「全く、物の怪が居るとは。ここは本当に日本では無い様だな」
そして一閃、刀が鞘へと収まる。
「・・・なんだぁテメェ!?何がしたかったんだ?気でも狂ったかぁ!?グヘヘ・・・」
ドチャリ・・・
その笑いは途中で途切れた。袈裟切り宜しく、ずるりと上半身が斜めに地面へずり落ちたからだ。
「ふむ、物の怪と言えど、某の刀でも斬れるか」
「・・・Oh、サムライ・・・」
軍人さんが言う様にその人は着流しを着用し、腰には刀と脇差を従えていた。
「・・・って、呆けてる場合じゃねぇ!さっさと逃げねーと!!」
俺の叫びに全員が頷くと一斉に祭壇へ向かう。祭壇を動かすと地下へ続く通路が現れた。
そこを一気に駆け抜ける俺達。怒号や轟音が徐々に小さくなって行く・・・
ゴリッ
出口を塞いでいた石を退かすと、薄暗いながらも光りが漏れた。
「・・・うへぇ、例に漏れず墓地かよ・・・」
頭を出すとそこは墓地。良くあるパターンだ。穴から俺が這い出ると、その後を追って軍人さんとサムライさんが出て来る。
空は既に暗く、星が輝く。
「・・・星の座標誤差を確認。やはり此処は地球では有りません」
幼女が言う。やっぱり異世界なのか。碌な説明も無く逃げてきたからなぁ。
誰と無く後ろを振り返ると夜なのに酷く明るかった。オレンジ色の明るさ・・・火が燃えている。
国が一つ滅びようとしている光りだ・・・命を燃やしている様なその明かりを見ながら佇む。
「・・・これからどうすっかね?」
ぽつりと呟く俺。
「さぁな。検討も付かん」
軍人さんが言う。
「某にも判らん」
サムライさんも続く。
「マスターにお任せします」
「俺何時お前のマスターになったよ!?」
幼女の言葉に突っ込む俺。
「お忘れですか?あの時・・・」
3時間前。
俺は何時もの様に会社へ向かっていた。まぁ会社と言っても引越し業者だ。
スーツを着るでもなく、Tシャツにジーパンと言うラフな格好で出勤出来るのは良い所だろう。
途中大きなガラスで何気なく自身を見る。最低限こざっぱりしていれば外見に文句を言われる事は無いので、髪は少し伸びていた。そろそろ整髪に行こう。
仕事が仕事なので体力や筋力はまぁまぁ有る方だと思う。まぁ本格的に鍛えてる人には敵わないだろうが。
出勤は徒歩。節約である。何気に公園の中を通ると近道が出来るので、散歩がてらに通るのが日課だった。
この日も何時もの如く公園の中を歩いていた・・・のだが、ふと何かが気に成り道を少し外れたんだ。
・・・それが過ちだと気が付かずに。直に公園に在る池が見えて来た。
(そういや来た事無かったなぁ)
そんな事を考えながら池を望んでいると・・・池の中央付近が光り出した訳だ。
目の錯覚か!?何て思ったんだが・・・どうやら錯覚なんかじゃないらしく、その光りは徐々に大きくなってい行く。
「お・・・オイオイオイオイ何だ!?」
そうこうしていると、その光りが加速度を増し更に広がり・・・俺を包んだ。
・・・・・・・気が付くと俺は石造りの広間に立っていたんだ。辺りを見回すと、俺の様に状況が判らなそうにしている人達が・・・大量に居た。
ふと、隣を見る。・・・幼女が此方を見上げていた。
「あ!あん時か!?」
「そうですマスター」
・・・話を戻そう。
「お名前を」
「ん?」
幼女に名前を尋ねられた。
「佐藤英太」
「・・・佐藤英太。『マスター』として登録しました」
「は?」
「ではマスター、現在私達が置かれた状況を説明願います」
「・・・いや、俺も知らん。ってか何だよ!?マスターって!?」
「先程登録いたしましたが?」
「イヤイヤそうじゃなくて!?」
そんな事をしていると、俺達の後方から派手な音が聞こえ視線を向ける。大きな扉が開いて行く音だった。
徐々に開く扉。その奥に立っていたのは・・・見るから王様の格好をした人物と、御付の人が数名。
中世の鎧を装着し、槍を持った兵士みたいなのが約20人位。ローブを着た、いかにも『魔法使い』みたいなのを連れていた。
「『・・・やりました国王様!我々でも成功いたしました』『うむ!これで我が国も安泰だ!早速聖都へ連絡を!』」
「何ブツブツ言ってんだ?」
「彼等の声を拾っています。『して、勇者殿は何処に?』『これだけ大量に召喚をしたのです。絶対に数人は居るかと』」
「・・・何でんな事出来るんだよ?」
「私、プロトタイプとは言え高性能の『アンドロイド』ですので。マスターも遠慮せずにご命令を」
「・・・・あ~」
「何ですか?その残念な物を見る様な目は?」
そんな会話を幼女としていると、突然幼女が「ピクリ」とし明後日の方を向いた。
「どした?」
「・・・破裂音並びに爆発音を確認。炎上音を確認」
「んな!?」
幼女の言葉が終わるや否や別の兵士が部屋に飛び込んで大声で叫ぶ!
「敵襲!!!!!魔王軍の集団が襲来しました!!!!!」
「何だとぉ!!!!!!??」
先程まで余裕ぶっていた王様と思しき人物が狼狽ながら大声で叫んだ。デカイ声出るじゃん。
「ククククク!馬鹿め!我等魔王軍に敵対するとは良い度胸だ!!!!」
その声は石造りの部屋の中ですらはっきり聞こえる程の声だった。
「・・・解析完了。これは聴覚に直接振動を送っている様です」
「無駄に高性能!」
幼女のスペックに驚いている俺とは裏腹に王様が周囲に怒鳴り散らし始める。
「馬鹿な!!「召喚の儀」は内密に進めていた筈だ!内通者がおるのか!!!」
「王様!今は内通者を見つける事が重要では有りません!」
「クッ!動ける者は対応に向かえ!」
ズ~~~~ン!ドーーーーーン!!ズズーーーーン!!!
だが魔王軍の侵攻は早い様で、爆発音やその振動はどんどん大きくなって来る。
「・・・大丈夫・・・なのか?」
「どうでしょう?」
なんて俺と幼女が暢気に会話をしていると、状況を一変させるセリフが響き渡る。
「愚かな人間共よ!!!命が惜しくば勇者共を我等の前に引きずり出せ!!!」
!?その言葉により辺りは一瞬で凍り付いた。・・・「勇者共」って俺達の事・・・か?
俺の灰色の脳が余計な事へフル回転をし始める。
(これって異世界転移だろ?普通ラノベ展開ならここから俺TUEEEEが始まって色々有って最後に魔王とかと和解したりチーレム創ったり・・・)
・・・現実は無常です。先程の魔王軍の言葉により一気に阿鼻叫喚の状態へ移行しました。
召喚されて行き成り兵士共に切り付けられ、押さえつけられ始める周囲の人々。
・・・ふざけんな!!!!お前等の都合で無理矢理連れてこられた上に行き成り命を差し出せってか!?
冗談じゃない!何て思っていたら、王様の方へ何かが放られた。
「あ、それ俺だわ」
「アレやったの軍人さんだったのか!?」
「ソレ」は放物線を描き、兵士達の足元へコロリと転がった。して数秒。
パァーーーーーーン!!!
「「「ぎゃああああーーー!!」」」
「ソレ」が炸裂し、周囲の兵士がうめき声を挙げながら崩れ落ちる。無論近距離に居た兵士は吹き飛びピクリとも動かない。
「手榴弾ですね」
「めっちゃ冷静だな!?」
だが状況は動き始めた。時を同じくして魔王軍が再侵攻を始めたのだ。
再び始まる爆音と地響き。そして先程の破裂騒動、もはやまともに統制が取れる状態ではない。
召喚に巻き込まれた人々もそれぞれに行動を始める。命乞いをする人、お人好しにも介抱を始める人・・・
「クソッ!」
俺はと言うと、幼女を脇に抱え扉へ向かって走り出していた。
「オイ!」
「何でしょうか?マスター」
「此処から逃げ出せる・・・隠し通路とか判んね~か!?」
「音響サーチを実行してみます」
「何でも良い!」
「・・・・サーチ完了。地下に通路のようなものを発見しました」
「良い仕事だ!ナビしてくれ!」
「イエス、マスター」
・・・ってな訳で今に至る訳だ。良く考えたら、こっちに来て3時間位しか経って無いと言う事実に驚きを隠せないな。
「・・・なんつう濃い経験をしてんだか・・・俺」
急に力が抜け、その場にへたり込んだ。ガクガクと足の震えが今になって来やがったよ。
「フゥ!中々ヘヴィだったな」
軍人さんも座る。
「あぁ、そうだ。あの時は本当に助かったよ。有難う」
「いや、良いさ。あの時お前さんを助けたお蔭で、こうして逃げ遂せられたからな」
そう言ってニカッっと笑う。中々に良い男っぷりだ。
「あ、俺佐藤 英太。24歳」
「キース・マシューだ。32歳」
「じゃぁキースさんかな?」
「止めてくれ。キースで良い」
「OK。で、キースって軍人さんだよな?」
「ああ。一応ネイビーシールズに在籍してベトコンとやり合ってた・・・ついさっきまでは、な」
「色々マジか!?スゲェ!マジもんの特殊部隊員初めて見た!しかもベトナム戦争真っ只中とかもうね・・・」
もう一度キースの姿を見る。身長は190台だろう。筋肉の付き方も軍人っぽくガッチガチなのが服の上からでも解る。
金髪にブルーな瞳はまんまアメリカン。装備は当時のままらしかったが、拳銃以外の武器とかは無くなってたそうだ。
それを聞いた俺は自分の持ち物を探る。
「・・・スマホ・・・無くなってる」
地味にショックだ・・・俺のパズ○ラ、グ○ブル、モ○スト・・・。嗚呼、課金しなきゃ良かった。
「ってかエータ、お前さんジャパニーズか?」
「あぁ、うん。そうだ。俺日本人だよ。キースが居た頃から50年位後の」
「へぇ。色々変わったんだな」
「そりゃね、一気に変わって行ったよ」
「ほう、英太殿は日本人なのか」
と、喰い付いて来たサムライさん。
「んだね。・・・って」
「おっと失礼、某、一之丞と申す。好きに呼んで貰って構わんよ」
「イチノジ、ジョウ・・・イチで良いかい?」
とはキース談。確かに日本名は呼び難いかもしれんね。
「構わんよ。キース殿」
「オイオイ、「殿」は無しで」
「おぉ、すまんなキース「殿」」
「・・・・・・」
「キース、諦めろ。こりゃ癖だろうな」
今度はイチの方を見る俺。先程見たように着流しに刀と脇差。身長は俺より少し低め、大体170cm前後って所か。髷は結ってなく、肩まで伸びた髪を紐で束ねるのみだった。
「某は徳川が天下を統一した後、各地を放浪してたのだが・・・ふと森へ迷い込んだ矢先に・・・だったな」
「って事は、イチさんは俺より400年位前の人か」
「ふむ、英太殿を見るに日本も相当様変わりをしたようだ」
「そりゃ400年だからなぁ」
「某には到底思いが至らぬなぁ」
そう言って空を見上げ、遠い目をした。
「で、だ。後はエータの連れたその子供なんだが・・・」
「子供では有りません」
全員の視線が幼女へと集中する。
幼女の身長は俺の胴辺り(俺が175cm位在るから大体120位か?)銀髪を腰まで伸ばし、目は紫。服は・・・幾何学的な模様があるぴっちりぎみのボディースーツだった。
いかにも未来的な感じなのだが・・・
「私はマスターが存在した時代から、約千年後の未来で製造されたと思われます」
「一気にSFっぽくなった!?」
「マスター、SFとは語弊が在ります。そもそもSFとは『サイエンス・フィクション』の略称な訳です。私の存在はフィクションなどでは有りません」
「「「お・・・おう」」」
そう返すのがやっとな男3人を他所に、幼女は言葉を続ける。
「私の時代は宇宙開拓が主流となりました。そんな人々のサポートをする為のアンドロイド・・・のプロトタイプとして私が生まれたのです」
「って事は名前は?」
「有りません。なのでマスターが決めて下さい」
「えぇ・・・俺そんなにネーミングセンス無いぞ?」
う~ん・・・どうすっかな。シンプルなのが良いだろうから・・・プロトタイプ・・・プロト・・・
「じゃぁ零で良いか?」
プロトタイプだから零式・・・でレイ。はい、安直ですよ。
「了解しました。これ以降、私の固有名詞を「レイ」に固定します。今後ともレイの事を宜しくお願いしますマスター」
「・・・まぁ居た方が助かるしな。宜しくなレイ」
「はい」
「そういやレイ」
「何でしょうかマスター」
「俺達、普通に言葉通じてるよな?レイにゃどういう風に聞こえてるんだ?」
俺のふとした疑問。アンドロイドには俺達の言葉がどう聞こえてるのかが気に成った。
「ああ!そうだな確かに!俺は日本語なんて触れた事も無かったぞ!?なのに何で普通に会話出来てんだ?」
それに乗っかって来るキース。確かに俺も英語での会話なんざ敷居が高すぎるし、イチさんに居たっては海外との交流すらほぼ無い時代だった筈だ。
「・・・どうやら自動翻訳の様なものが有るようです。言語切り替え機能であらゆる言語に切り替えてみましたが、全て理解出来ました」
「この世界の言葉もか?」
「イエス。先程の王や兵士の言葉も解析済みです」
「めっちゃ優秀だった!」
流石未来・・・レイの高スペックに目を見張る俺達。ここら辺は良く有る異世界モノと変わらない様だ。
その後暫く何を話す訳でもなく休息を取った。そして遠方の火の光りが徐々に弱くなって行く頃、全員が腰を上げる。
「取り合えず、此処から出来るだけ遠くに離れる方が良いだろうな」
キースの言葉に全員が頷く。何時の間にか俺達には繋がりみたいなものが生まれていた。一応全員「同郷」だしな。
かくして俺たち4人?の異世界ライフが始まった。