砂時計
「…こんにちはー…」
なんと声を掛けて入っていい類の建物か分からず、とりあえず不審者にならないように、ちゃんと挨拶をした。
屋外の炎天下にいた反動かもしれないけれど、室内はひんやりしていた。
「…あのー、…すみません、」
一歩踏み出すと外観と同じく板張りの床がわずかにキィと軋む。
引き戸を完全に閉めると、陽光が遮られて、照明の少ない室内はかなり薄暗かった。
誰か人がいるかどうか薄暗い中、目を凝らすして周囲を見渡すと、部屋の奥に置いてある木製の作業台のようなものの隣に、圧倒的に異質な存在感を放つもの。
とても大きな砂時計。
たぶんタンスとかそういう大きさ。
たぶん私よりも背が高い。
透明度の高い艶やかなガラスが、中心がくびれた瓢箪のような形をしている。
その形状は、おそらく寸分も違わぬ左右対称で、曲線の形一つとっても緻密に正解を計算されたような、優美な姿をしていた。
中の白い砂は、全て下に溜まっていた。
何年も、そのガラスの中で、一粒もその姿を、動かさなかったような、そんな静謐さ纏っていた。
上下に丈夫そうな分厚い木の板が付いていて、四片に金属の柱が付いて、さらにガラスを囲う同じく金属製のだ円の環もついていて、環は稼働できる作りなのか、少しだけ揺れていた。
とても変な空間。
ここが神社の類でない事はもうなんとなく察していた。
でも不思議と怖いとか、怪しいとか、そういう空気は一切なくて、ここは、とても静かだった。
その静寂の中で、対照的に私の心臓の鼓動が身体中に反響して、うるさいくらいだった。
なんでだろう、これを見ていると、ドキドキして、苦しいくらい。
普段の私は結構常識的だし、トラブル体質なこともあって、訳のわからないものに勝手に触ったりなんて絶対しない。
でも抗えない何か、強い何かが私の心に迫り上がってくる。
絶対に私は、あれに、触れなければいけない。
一歩、また一歩と、足を本能が動かして大きな砂時計に近づく。
もうあと少し手を伸ばせば触れられる距離まできた。
震える腕を上げて、あとガラスに触れるまで紙一枚分くらいの一瞬
カタリと、音がして、奥の扉からおじいさんが私を見ていた。
とても驚いた眼をしていて
その瞳は年齢にそぐわないほど澄んでいて、私はその人と見つめあったまま、気がつけば砂時計に触れていた。
瞬間何が起きたのか、わからなかった。
時が止まったように静寂そのものだった大きな砂時計を囲む輪状の金属が震えて振動している?
ガコンと音がして、大きく空間が揺れた
揺れたというよりひっくり返された。
身体が大きく投げ出されるような浮遊感。
おじいさんが必死に手を伸ばしてくれる姿が最後に見えて、私の意識は闇に沈んだ。




