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久谷一粒

砂時計が好きで、

砂時計をテーマに書きたくて思いついた作品です。

展開上、起伏はありますが、主人公がくよくよしないので、あまり重くならずに読めると思います。


本文は書き終えているため、1日2回のペースで更新する予定です。

少し長くなりますがお付き合い頂ければ嬉しいです。

よろしくお願いします。

白昼夢を見た。


サラサラと落ちる白い砂越しに。


灰色の髪の青年の後ろ姿が見える。


私はそちらに手を伸ばすけれど、どうしても砂に阻まれて触れることができない。


早く


早く


近くに行きたいのに


私はその人の背中がひどく寂しそうに見えた。




キキィー!ギャギルルルルルルル


力任せのブレーキが奏でた、金属同士が擦れ合うけたたましい不協和音が、平穏な住宅街に鳴り響く。


昼間の往来の少ない時間帯とはいえ、まばらに歩いていた通行人はその異常事態に一瞬息を呑んで静止する。



(今の何?時間が止まってた?)



最も驚くべきはずの場所に位置していた私は、白昼夢から覚めた直後のせいか、いささか場違いで、呑気ともとれる、そんな感想を抱いていた。


なぜか。


答えはシンプルで、慣れているから。



先ほど私の鼻先スレスレを通過した自動車の運転席のドアが開き、慌てた様子の若い男の人が車外にでてくる。


「大丈夫ですか?!すみません!ちゃんと見てたはずなのに!」


男の人は顔色悪く、私の安否を目視で確認しながら早口で状況説明する。


「どこも怪我は無いです。よくあることですよ。私は大丈夫なので、落ち着いてから運転してください。」


「え?…そうなんですか?あの、一応連絡先を。」


スーツのポケットをゴソゴソして名刺入れを取り出して、一枚私に差し出してくれる。


「本当に1ミリも当たってないんですけど。もらっておいた方が形式上良いんですかね。じゃあもらいますね。」


淡々と受け答えする私に、戸惑ったままの男性に会釈をして歩いてその場を去る。


私は小さい頃からトラブルというトラブルに見舞われまくった。


プールでは故障した排水溝に吸い込まれそうになり、遠足バスが謎の落石にあったり、それこそ車には両手で数える以上に轢かれかけ、自転車は止めておく度にブレーキが壊された。


あまりにトラブルに遭いすぎるので、公共交通機関と、遠足バスは同乗者を巻き込みたくなくて極力使用しなくなった。

歩ける範囲は徒歩か、お父さんかおじいちゃんに家族に車を出してもらって細心の注意を払った安全運転で。


(私自身はそこまでしてって、感じだったけど、おじいちゃんとお父さんがノリノリだったし。)


それでもこんなに命の危機に何度も遭うわりには、必ずなんだかんだとギリギリ回避しているから今も五体満足で生きていられてるわけで。



私、久谷《くたに》 一粒《いちる》の16年は幸運なのか不運なのかよく分からない人生だった。



ただ今日は多すぎる。

私はため息を吐きつつ、3枚目の名刺を学生鞄の外ポケットに入れる。

実は今日轢かれそうになったのは、行きも合わせて、さっきの車で3台目だったりする。



(やっぱりおじいちゃんの心配した通りになった。)


昨晩深夜に大きな雷が落ちた。

なんとうちの庭に。


幸い火災などにはならなかったけれど、朝窓から見えた御神木は、ところどころ黒く焼け焦げて、頭から根元にかけて引き裂かれるように見るも無惨な姿になっていた。



この御神木は、私が産まれてから何ヶ月の時におじいちゃんが、当時から何度も死にそうになっていた私を心配して私の守護木にした。


なんでもそこそこに長いうちの家系図の1番初めのご先祖様よりも前からここに生えていたとかなんとか。


"守護木にした"と言っても、それはおじいちゃんの中で勝手に決定しただけで。

話の通じる訳でもない植物に、どのように頼んだのか分からないけれど、おじいちゃん曰く、木に真剣にお願いしたとのこと。


(謎すぎるけど、まぁおじいちゃんの言うことだから家族全員問答無用で、なるほど!となったとか)


何の因果があったのか定かではないけれど、毎日死の危険に瀕していた赤ちゃんだった私の周囲は、おじいちゃんが願ったその日を境に、大きな危険はぐんと減ったらしい。


なので、うちの家族は御神木の効果を本気で信じている。


今朝、御神木の無惨な姿を確認したお母さんは、絶対に家に居るように言ったけど、普通に平日だし、学校は定期テスト当日だったから休むはずもなく。


(別に積極的に行きたいわけじゃないけど、なんか悔しいし。)


どうせ家に居たところでトラブルは起きる時は色んな形で起きる。


私は気をつけるからと、何度も約束して、せめて交通機関を避けて、徒歩で通学することにした。


電車で15分、徒歩では30分かかる高校だけど、これでも1番家から近いという理由で進学を決めた。

歩いて行く日は少し大変だけど、通学に使っている通りは、こ綺麗な家と庭が多くて季節ごとに咲いている花も代わり見応えがある。

道も明るい色の石畳みがお洒落で、気候がいい時であれば、歩くだけでヨーロッパ映画の中の世界に入り込んだみたいで気に入っている。


気候がいい時であれば。


(あっつ〜〜。)


まだ5月のはずなのに、太陽がジリジリと強烈な紫外線で地上を攻めてくる。

なんとかテストを無事終えての帰路は疲労感も増している。


まだ夏服に変えていなかったため、生地の厚い制服のジャンバースカートが足にまとわりついて熱がこもる。

いつもは素敵な住宅街の道も、こうも暑いと、コンビニやスーパーの避暑スポットが無いことが残念でならない。


(無理。ほんと無理すぎる。)


次に車が突っ込んできたら、いつもの鍛え抜かれた反射神経で避けられる気がしない。


(どこか、少しでも涼しい場所を。)


日陰でも、と、周囲を見渡すと、見覚えのない、木造の小さな建物があった。


表札は見当たらないし、作りも住宅にしては小さすぎる。

薄茶色の木の外壁に、左右にある窓には格子のような規則正しい細工が嵌め込まれている。

中央の尖った三角の屋根に、扉の前の砂利と飛び石。


比較的おしゃれで現代的な住宅街で、明らかに異質で、そこの空間だけまるごと時代から取り残されたみたいだった。


少し飛び出た作りの屋根の軒先に、燈籠のような物が吊るしてあって、去年の夏にお祭りで行った神社を思い出した。


あの時は屋台のガス漏れ騒ぎがあって、結局何もせずに蜻蛉返りした。


(食べたかったなぁ広島焼き。)


両脇にも建物があって、格子窓の隙間からも中の様子は見えない。

どう見ても民家じゃないし、お稲荷さんみたいな分社的なものだろうか。



暑すぎるし、入ってみようかな。

もしお店じゃなかったら、謝ればいい。

そもそもそれなら扉も開かないだろうし。


暑さで頭がショートしてしまったのか、普段の私の思考回路じゃ絶対に至らない大胆な思いつき。ドキドキする鼓動の刺激も後押しして、理性は膨らんだ好奇心に完敗する。



窓と同じように、緻密な格子模様が施された引き戸の窪みに指を掛けて、横に動くかどうか力をかけてみる。

カタカタと、木と木のぶつかる軽い音が連続して、玄関の引き戸は、その古めかしい様相から想像してたよりずっと滑らかに滑るように開いた。

扉が開いた振動に共鳴するように、カランとガラスの揺れる音がして、目で追いかけると、先ほども見た釣り燈籠がゆらゆらと揺れていた。



よく見たら、燈籠じゃなくて、砂時計だった。


時を刻む砂が、ガラスの下に溜まったまま、揺れる光を反射していた。




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