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世界樹の葉が全て枯れてしまっても、私は毎日元気です。~死にたがりの魔女ステラと、魔女を殺しに来た少年フェル~  作者: 香澄翔


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43.もしかしたら家族って

 もうすぐにでもフェルくんは家の扉を叩くはずだ。ちゃんと迎え入れないと。


 なんだか急に胸の中で心臓がうるさく音を奏でていた。


 変なところはないかしら。

 やっぱりちょっと気にかかる。


 とんとんと扉を叩く音が聞こえた。


 胸の音がどんどん大きくなる。


 なんだかよくわからないけど、緊張していた。


「はーい。いまあけるね」


 返事をして、でも扉に手をかけられない。


 なんとなく深呼吸して、胸の前で手を合わせる。

 落ち着いて。落ち着こう。


 大きく息をはきだして、決意を固めて扉を開く。


 そこには旅装束をしたフェルくんの姿が見えた。


 なんだか胸につかえていた何かがとれたような気がした。


「フェルくん、どうして戻ってきたの? お母さんに何かあったの?」


 なるべく普通を装って話しかける。


 以前の病気は確かに治っているはずだけど、他の何かが起きたのかもしれない。


 そうだとしたら私に何とかできるかなぁ。


 ちょっと頭を悩ましてみる。


 でもフェルくんはすぐに首を振った。


「ううん。それは大丈夫。お母さんはすごく元気になって、また前みたいに料理も仕事の手伝いもできるようになったよ。これも全部ステラのおかげだ」


 フェルくんの言葉に、ほっとして息を吐き出す。


 どうやらお母さんに何かがあったわけではないようだ。


 でもだとしたら余計に危険を冒してまで、この家に戻ってきた理由は何なのだろう。


「じゃあどうして?」


 私の問いかけに、フェルくんが少しだけ視線を落として私から顔をそらす。


 やや揺れる声で、でもはっきりと私に告げていた。


「もう少し、ステラと一緒にいたいと思ったから」


 やや緊張した面持ちで、手持ちぶさたに手を動かしている。


 私と一緒にいたい。どうしてだろう。

 いろいろ頭を巡らせて、すぐに一つの答えにたどり着いていた。


「そっか。美味しいごはんが食べたくなったんだね」


 目の前でぽんと柏手を打つ。


 私と一緒にいればいつだって美味しいごはんが食べられる。

 それはもう何より大切なことだろう。それなら私にも理由がわかる。


 だけどフェルくんは、すぐに顔をあげて慌てた様子で私へと声を荒げていた。


「違うっ。そうじゃないよっ。お母さんを助けてくれたステラに、まだ恩返しできていないからそれで」


 フェルくんは必死で何か訴えてきていたけれど、別れるときもちゃんとお礼のお礼はいらないって伝えたんだけどなぁ。


 そうしたら今度は私がそのお礼をして、フェルくんがお礼をして、私がお礼をして、フェルくんがお礼をしてって、ぐるぐるぐるぐる回ってしまう。


「お礼は良いって言ったのに。気にしなくていいんだよ。まぁ、でもせっかくきてくれたんだから、理由はなんでもいいよ。入って入って」


 フェルくんを部屋の中へと招き入れようと、扉の向こうから小さく手をふってみる。

 フェルくんは安心した様子で笑顔を浮かべていた。


「じゃあフェルくんがきてくれたことだし、今日のごはんは何にしようかな。お昼は何か美味しいものを作らなくっちゃね」


 私はなんだか楽しくなってきて、もうすでに今日のお昼のメニューを考えはじめている。


 パスタがいいかな。それともシチューがいいかな。またパイを作るのもいいかもしれない。

 いろいろと私の中で候補がたくさん浮かび上がってくる。


 一人で自分の脳内で盛り上がっていたら、足下からルナの声が聞こえてきていた。


「まったく。キミは何があっても変わらないね」


 ルナはフェルくんの前でも、気にせず話しかけてくる。


 そうか。もうルナも普通の猫のふりをしなくてもいいんだ。


 フェルくんもルナが話したことに、驚いたりもしていない。魔女の使い魔であることは、もうとっくに気が付いていたのだろう。そもそも私が気を失っていたときに、何かしら話をしていてもおかしくないし、私を運ぶのに力を貸したりしたのだろう。


「でもステラがステラであることが、僕は何よりも嬉しいよ」


 ルナに向けてフェルくんは話しかける。

 その表情がどこか少しだけほころんで見えたのは、私の気のせいではないと思う。


 私も嬉しくなって、顔がどこか緩んでいたかもしれない。


 そして私の中で、フェルくんに作るお昼のメニューも決まっていた。


「そうだ。フェルくんが来てくれたことだし、今日は少し贅沢して美味しいパイを焼きましょう。さぁ、おうちに入ってフェルくん」


 もういちどフェルくんを招き入れる。


 フェルくんは素直に扉をくぐって、私の家へと戻ってきていた。


 その瞬間、ふっと胸の中が温かくなる。


 もしかしたら家族とはこういうものなのかもしれない、と少しだけ思えた。


 人と一緒に過ごしたことがない私だけれど。

 それなら家族になるのも悪くない。


「私も一緒にいられて嬉しいよ」


 フェルくんが言ってくれた言葉に、私はやっと素直に応えられていた。

 すぐにフェルくんも応じてくれる。


「うん。僕もだよ」


 それからフェルくんは息を飲み込んで、小さな声で告げた。


「離さないよ、絶対」


 フェルくんの言葉に、私は少しだけ首をかしげる。

 今はほうきに乗っているわけでもないのに。


 でもフェルくんはそれ以上には何も言わなかった。

 なら私もこれ以上には何も言わない。


 とにかくもう私が魔女であることを隠す必要はないんだ。

 二人の間にはもう隠し事はいらない。


 だから、ゆっくり知ればいい。


 世界樹の枯れ葉が今日もまた落ちていた。


 でも私は私のまま、フェルくんを招き入れる。


 フェルくんとルナと私。三人でリビングへと向かおう。


 玄関の扉から手を離す。


 パタンと扉が閉まる音が響いた。



                                  了


最後まで読んでくださってありがとうございました!

ステラとフェルの物語はいったんここで終わりになります。


良かったら、評価をいれていってくださると大変嬉しいです。

またよければ感想もお待ちしています。

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