第9話 一年後
魔王城に来て、すでに一年が過ぎようとしていた。
魔王が使う剣はすでに装飾(プラス補正)がどっさりついた魔王の剣になっていた。
私は剣術だけなら魔王と打ち合える程の、スピードと力がついたのだ。
ただ、現状は剣術のみなので……魔法も使える魔王にはまだまだ勝てないのだけど……。
最初の頃は帰れと言い続けた魔王も、すでに私が居ることや毎日の訓練があたり前のようになってる。
そして、ある日魔王が言ったのだ。
「そろそろ勇者が来るかもな……」
私はどきりとした。
勇者は各国にも居るし、自国にも今は二・三人該当者が居る。
だから勇者イコール兄アルバートだとは限らない。
ここ魔王城は勇者が挑戦できるダンジョンのようなものだ。
魔王を倒せば、莫大な経験値とレアドロップと魔王討伐の称号が手に入る。
だから、気が向けば挑戦しに来るが……勇者は魔物の溢れそうなダンジョンや街の近くに魔物がでれば、緊急性の高いそちらを優先する。
魔王城は特にほっておいても何の実害もないからだ。
「ところでスケさんは何で魔女に呪いを掛けられたの?」
「魔女に綺麗だとほめたら、呪いを掛けられたらしい。」
魔王が苦笑しながら通訳してくれた。
「それはしょうがないね……」
私は魔女に同情した。
あんなキラキラした美形王子に綺麗だと言われたら、嫌みにしか聞こえずにキレるしかないだろう。
「何故だ?理解できないと言ってる」
「自分より綺麗な人に綺麗だと誉められたら、キレるのはしょうがない」
スケさんの影が濃くなった気がする……。
魔王があわてた。
「自分が悪かったなら謝りに行きたい?! いやいや。今さら謝ってもさらにキレられるだろう?! 待て待て待てって!! おい!」
そして、魔王と私で説得しきれず……。
なぜか三人で隣の国まで魔女に謝りに行くことになったのだ。
「いやいや! 魔王が魔王城離れるとか駄目じゃない?! 何でスケさんについていこうとしてるの?!」
「もう生肉とか食べたくない……」
実は調理してるのはスケさんらしい。
スケさんに餌付けされてる魔王……。
「魔王の配下ってもっと色々居ても良いんじゃないの?」
「スカーレットも魔王城配下になるか?今の実力なら配下にしてもいい」
魔王城に永久就職……ちょっとひかれた……。
だがしかし……。
「私人間だけど?! どんだけ人材不足してるのよ?!」
「配下はたくさん居るけど、ちょっと脳筋で知能が足りないだけだ……例え弱くてももうちょっと知能枠が欲しい」
うぁ。酷い! 私は弱い知能枠だと言ってる?!
「配下になんかならない!」
私が叫ぶと、魔王はがっかりしたようだ。
もしかして魔王は私を配下にしようと思って育ててた?!
訓練をしてもらえなくなるのは困るので、『とりあえず今は』と、つけ加えておいた。
知能枠じゃなければ、魔王城に永久就職も悪くない。
少なくともどうでもういい貴族に嫁ぐよりは……優しくてイケメンで強い魔王の方が良いに決まっている。
「でも勇者が来た時に魔王が魔王城に居ないとか前代未聞じゃないの? 城からでてもいいの?!」
「城に人が入った時点で、魔王とその配下は決まった位置に戻されるから問題ない」
つまり、お風呂に入ってようがご飯の途中だろうが就寝時だろうが、その時が来たら標準装備で玉座にすわらさられる強制力が働くらしい。
魔王って……思ったよりも不憫だった。
だから、外をうろうろして配下をスカウトして来たりすることもあるらしい……。
スケさんも、魔王が声を掛けたらしい……。
『リッチ』は普通建物やダンジョンに居る魔物なのに外に居たから、魔王城の配下にならないかと声を掛けたらついてきたらしい……。
「そうやって気軽に魔王城が強化されるとか、年々攻略が難しくなるはずだ」
私はしみじみと言った。
だか、魔王は渋い顔でさらに続けた。
「むしろ今は手薄な状態だ。配下はリポップするが、最近役目を降りたいと野に帰っていく配下が何人か居てスケサンを今失なう訳にはいかない。中ボスの居ない魔王城は情けない……」
スケさんを手放したくないのは餌付け以外にも切実だった……。
ちなみに、私は外で寝てると魔物に襲われるからと、散歩中の魔王に保護されたらしい……魔王優しすぎか?!
そして今の状況である……。