95話 国蔵省の夢のあと
全編瑞樹視点です。
仕様上あまりにも普段の瑞樹と口調が違いすぎるので、明確に瑞樹が話していることを示すために鍵括弧は『』を使っています。
「大分、すっきりしてしまったな……」
『だな』
同意しながらがらんとしてしまった部屋を見る。ほんと半分もデスクが残ってないわねぇ。まぁ、十分に多いけれど。
でも、彼の頭の中にある往年の国蔵の本部としての姿としてみれば……、超すっきりしたと言わざるを得ないのでしょうね。父さま、母さまの方針にがっつりと従う気しかないアタシからすれば嬉しいことだけど、生粋の国蔵官僚の若手のエースだった彼。現歳入省の青石 俊也からすれば、悲報と言わざるを得ないでしょう。
さすがのアタシも、若手のエースと目されていた彼が落ち込んでいるのを自業自得と笑うようなことはしない。し、出来ない。
何せ彼が属しているのは国蔵って組織だもの。組織はすぐにはできない。
現在の組織を作ったのは少なくとも30年は前のできごとの積み重ね。そのころ、彼は生まれていないでしょうし、国蔵官僚として何かできた期間はあまりにも短い。
もし、これで彼が「国蔵にあらずんば官僚にあらず」だののどこぞの平家かな? ってのを言ってのけるくらい人間性が終わっているなら「ぷぎゃー」と言うのもやぶさかではない。でも、そこまでじゃないものねぇ。ま、高学歴にありがちな鼻持ちならない態度は絶無というわけじゃないのだけど。
『だとしても、俺らは残った。それを喜ぼうや』
んなこと言ってるけど、アタシ、この惨状を作った張本人の一派なのよねー。ちょっと笑える。なんて空虚な言葉なんだろ。
でも、アタシにとって自分じゃない自分になって、どこかに入り込むなんて日常茶飯事。それも、同時多発的に。だから、そんな相手にとって不快にしかならないものは頭の奥底に追いやって、相手が欲しいだろう反応を表に出せる。
親し気に肩を組んでぱんぱんと肩を叩いてやれば……きりっとした顔になったわね。さすが青石。
「すまない。赤目。俺らがここでくじけていちゃいけないな」
『あぁ、攻勢をうまくしのぎ切ったお前がそうだとやれるものもやれねぇ』
「それは俺だけの功績じゃねぇよ。お前も随分手伝ってくれたし、何より、情報をかき集めてくれたじゃねぇか」
『主力はお前だよ。青石』
アタシの言葉にふっと笑ってテキパキと整理し始める青石。いや、ほんとに。冗談抜きで青石は優秀なのよね。
情報を集められたっつても……ねぇ。国蔵解体戦争の交戦戦力一覧は以下の通り。
攻勢の大本! 父さまと母さま達の異世界帰還組!
攻勢の主力! ちょくちょく息(洗脳的な意味で)のかかってるのが混じってる政治家組!
実働部隊! ちょくちょく息のかかったのがいるどころか、アタシが混じってる他省庁の官僚!
防衛部隊! アタシが混じってる国蔵官僚!
とかいう攻守両方に実質身内みたいなものどころかアタシが混じってるとかいう超自作自演。そりゃ、情報を集められるわよ。下手したら攻撃しようとしてる実働小隊のトップがアタシ。
情報を抜けないほうがおかしいわよ。そんな中でやりすぎを防げるように信頼だけをある程度、稼いでおきますかーって流した情報で的確に手を打てる青石は本当に優秀。
青石が居なければ本気でアタシがこれ以上の解体を防ぐために動かなきゃいけなかったくらいに。
「にしても、最近、景気がいいのに今、動くかね」
『だからこそ。だろうよ』
「わかってる。愚痴だよ。収入が増えて国蔵の力はますます強くなる。そうなる前に叩いておこうって腹だろ?後はこれをきっかけに省庁再編をするってところかね」
『だろうな』
「あ、やっぱそう思うか?これ見る限り、間違いねぇよなー」
なんて言ってぽいっと雑誌を投げた。そこの表紙にはデカデカと「国蔵解体!」とそれはまぁ嬉しそうに書いてある。
『嫌われたもんだな』
「俺らが言うべきじゃねぇが、そらな。資源湧きっていう奇跡があったとはいえ、停滞しまくっていた失われた30年がついに終わった。その間、ちょくちょく消費増税なんてかまして景気に冷や水ぶっかけまくってたんだ。嫌われて当然だろうよ」
『だな』
自覚があって何より。まぁ、国蔵内の人事評価方式を絶対に変えさせようって圧力を感じてればそうもなるわよね。国蔵内で出世したければ、増税させて評価点あげないと! なーんて馬鹿でしかない。実態を見て動きなさいよ。
で、何で青石は他省庁の解体まで気づいたのかしら。んーー。あ。なるほど。分かった。なるほど。この目線はアタシには……というか、父さま達にもあんまりなさそう。
「あぁ。何で確信してたのかわかった」
「気づいたか」
皮肉気な笑みを浮かべる青石。その気持ちが痛いほどわかる。気づいた理由が「国蔵が嫌われているから」なんて、なんて皮肉。
『これを見れば国蔵が嫌われているのはわかる。そして、国蔵は省で、働いているのは官僚だ』
「そうとも。官僚だ。国を動かしているのに碌に不景気対策も出来ねぇ。だのに、天下りをはじめ、一般人よりもいい生活をしている上級国民様だ」
嫌われる要素しかないわよね。公務員は何故か嫌われる傾向にあるけれど……、上級国民だなんだで、省に関係なく官僚はヘイトを稼いでる。そこを潰せればまた今みたいに世論が湧く。政治家にとっては支持率を上げる超大チャンス。動かないとみる理由はないわよね。
「政治家が動くなら、権限取り戻せるように動くぞ」
『あぁ』
多少、取り戻せるように動いてあげないとね。…まぁ、やりすぎるようなら歳出省と食い合わせて妨害しましょうか。どうせ一年やそこらで縦割り体質は変わらないでしょうし……。それをきっかけにもっと縦割り体質を改善できるようにはしたいわね。
「だが、悔しいな。俺らは政治家達のせいでてんやわんや。政治家が成果を全部持ってくのはいつものことだが、なんもなしか」
『その代わり、こっちの失態は基本、あっち持ちだ』
ほんっとーにやばい件は表に引きずり出されて吊るされるけど。てか、吊るされてしかるべきだけど。国蔵が強力に推し進めた消費税関係は全部、当時の政権が吹っ飛ぶことで基本的に責任を取った。
「知ってる。だが、愚痴らせてくれよ」
『さよか。だが、今の総理はそこで満足しねぇだろうよ』
というか、満足させてやらない。そこで止まってもらっちゃ困るもの。でも、ちゃんと説得出来る理由はある。
「しないか」
『あぁ、しねぇさ。来年の省庁再編までやり切れば、政権の支持率はまず上がる』
かつてあったみたいなパフォーマンスじゃなくて、本気で官僚の不正を暴きながらの効率化。特に国蔵を解体したのがかなり大きいでしょう。国蔵族なんて国蔵出身の政治家を指す言葉まであるくらいなんだから。
『その時に総理は立憲政友会内部の膿を、それどころか政界の膿を洗い流す勢いでやるだろうな』
「与党も野党も潔白じゃねぇもんな」
『あぁ』
今は2018年。政治の表舞台に立っている政党は離散集合を繰り返しまくっているとはいえ、大本は30年以上前からある。そんな彼らが与野党関係なく潔白だなんてあり得るわけないでしょう?
膿を出すための証拠は既にたんまりある。父さま達なら魔法で処分も出来るけれど……。そんなことはしない。何人かは裏取引で首輪つけて誤魔化すことはするでしょうけど、基本は白日の下にさらして(比喩的な意味で)吊るす。
かつて父さまと母さまが死んだあと、統治者をやっていたアタシの私情が入りまくってるきがするけれど……。国を運営するのに、というか組織の運営には多少、やりたくないけど、不正は呑み込まなくちゃいけない。
水清ければ魚棲まず。全くの不正なしなんて出来ない。でも、やりすぎは別。外国勢力からお金貰ってるとかは勿論、大量に横領してるとかも全部まとめて吊るしちゃえばいいのよ。物理的に。
魔法で洗脳して終わりだなんて、そんな簡単に済ませてやるものですか。
「どうした?なんか拳をぎゅっと握っていたが」
『あぁ、すまない。もし、そうなったらそうなったで、政治家共に多少、煮え湯を飲ませてやらねぇとな!なんて思っただけだ』
「俺らも飲まされたものな」
復讐はモチベとしては終わってるけど、正気に戻るまでかなり強い力ではあるのよねー。焚きつけといてなんだけど、ぶっ壊れないかしら。
「とはいえ、だ。マスメディアはどうする?基本的にアンチ政権側の彼らだ。絶対に総理の脚を引っ張るぞ」
『さぁな。だが、どうあがいたってマスメディアが隠せない特大のネタをひっぱってくるのかもしれん』
なお、その予定の模様。見る人から見れば国家反逆罪クラスのネタがちらほらと。どうやったってダメージは与党より野党の方が大きくなる……ようにするんでしょうね。父さま達。まだ与党の方が話せるもの。
ついでにどこかの一社はしばかれてるし。
「最悪、神頼みすりゃあどうにかなるかね」
『どうした?青石らしくもない。唐突に神頼みなんて』
神頼みなんてばからしい。という意味ではないけれど。だって、名目上、防衛障壁は神様の力ってことになってるし、資源湧いてきた! なんて意味わからない現象も神様のおかげ。そんな中でんなこと言えないわよ。
「そうか?存外、ありなんじゃないかと思えるが…」
『どうした。青石。心労が祟ったか?神様がわざわざそんな個人制裁に力を貸してくれるわけないだろ?』
「そうか?」
本当に心の底からそう思っているという青石の目。…どこからその確信が湧いてきたんだか。
「俺は赤目が神様頼みしたなんて思ってねぇってのは先に断っとく。だが、ちょくちょく神様が動いているとしか思えん」
『んな陰陽寮とかが動くような神学的事象は発生してたか?』
陰陽寮は一般人の目に入らないように妖怪を討伐したり、超常現象をなんとかしたり……といった普通ではありえない事象の対処が仕事。フィクションで言う某財団的立ち位置。
そこが動く動かないは、陰陽寮事案に限っては半民間人の官僚にも伝えられてる。でも、そこが動くような、かつ、青石がそこまで確信を持てるような事象は起きていないは……、
『あぁ、常華高校のやつか』
「そうとも。で、間違いなくそれがきっかけだと睨んでるね」
父さまと母さま達が今も通っている高校。そこで唐突にクラス全員が消失するなんてわけのわからない案件が陰陽寮案件にならないはずもなく。というか、無事に神様案件になった。
父さまと母さまを召喚した魔法は、行使者は人間でも、召喚陣を作ったのは腐っても異世界の主神二柱。残痕を隠すとかそういうのしてるはずもなし、バレるに決まってるわよねー。
『まぁ、違いねぇだろうなぁ……。神隠しにあって帰ってきたんだ。何もなしというはずもなし』
「というか現に被害者が帰って来てから物事が動きすぎなんだよ。世間は景気いいね!で押し流してるけど資源なんざ、唐突に、湧くかよっ!」
突然の台パン。んー。80点かしら。ちょっと机に対する優しさが足りないわ。
ま、資源が湧けば誰も苦労しな……しないのかしら。まぁいいわ。
「というわけで俺は彼らが神様と関りがあるか、神様が成り代わったと睨んでるわけだ」
『じゃなけりゃ、報告書で|不可侵《Untouchable》にならんわな』
そうなるように父さま達がしたのだけど。延々と干渉され続けるのは煩わしいもの。
「そ。わざわざ言うまでもねぇだろうが、赤目。神のやることに手は出すなよ。神のまにまにってやつだ」
『俺らがそんな態度でいいのかね』
「俺らの管轄じゃない」
すんごいかっこいい顔でんなこと言い放たないでよ。草生えるわ。
そして、さらに笑えるのが別に国蔵の解体に抵抗したのは、彼の今の言葉と矛盾しないこと。そこはかとなく神の関与がにおわされてはいるけど、実働部隊はあくまで人間。人間のやることだし、抵抗する! それだけのこと。
「ただまぁ、一つだけ思うんだが」
『なんだ?』
「ここまでがっつりとオカルトが絡んでくるとは」
『うちの国でそれ言う?』
「それは……そうだな。うん。言うだけ無駄だったわ」
日本は意識されないけれど、宗教との関りが深い国。と言っても、クリスマスを祝って除夜の鐘聞いて初詣する! なんて宗教的観念のことではない。
政教分離できてないやん! ってたまに批判される、裏にどう考えても超強力な宗教団体がいる政党があるというわけでもない。
天皇陛下のお話。陛下が神道を信じておられるのか、仏教を信じておられるのか、他の何かを信じておられるのか、それとも何も信じておられないのか。それはわからない。けれども、確かに陛下はたびたび宮中行事として神官として行事をなさっている。
国家元首が神道に基づく行為をされている。うちの国はそんな国。そこはアメリカをはじめとする西洋列強とは明確に違うと言っていいところでしょう。そんな国で……ねぇ。「オカルトが絡んでくるとは」なんて言えんでしょうに。
そも、日本って国の宗教観自体が自然崇拝で八百万の神々。雑な言い方をすればそこらに神様がいらっしゃるような国で、オカルトを完全に切り離せるわけがないでしょうに。
「ま、愚痴だよ。愚痴。じゃなきゃ俺らは生き残ってねぇよ」
『そうか?有能な奴はやべぇオカルト案件だと悟って真にやばいところでは口をつぐんだ。それは認めよう。だが、つぐんでいないのも生きているが?』
「なんもなかった奴はいる。が、限られてんじゃねぇか」
『それはそう』
ちょーっとあれだけど別ベクトルで有能な人とかは、頭いーじいーじして言動割と変わったし、何人かはやべーだけだから忽然と消したし。
「まぁ、その辺はなるようにしかならんか。彼らの善性を信じよう」
『そして、俺らは何があってもいいようになるようにしよう。官僚の名に懸けて』
「あぁ。官僚の名に懸けて」
さーて、ちゃっちゃと終わらせて稼働できるようにしましょうか。
お読みいただきありがとうございます。
誤字脱字その他もろもろ、もし何かございましたらお知らせいただけますと嬉しいです。




