96話 夏の宿題
今日は8/20日。普通の高校ならまだまだもうちょっと夏休み! というところだけれども、哀れ僕らは自称進生。明日からちょっと早めに講習という扱いではあるけど、授業開始。
予備校で夏期講習を取っている人はそっちに参加してもいいけれど、基本的になんもない人は参加必須。というわけで悲しいことに僕らの夏休みはこれで終わり。
でも、夏休み終盤間際といえど、一部では風物詩にもなる夏休みの宿題のドタバタはない。何せ、僕らは受験生。夏休みの宿題なんてない。「んなもんやってるくらいなら、自分で行きたい大学目指して計画立てて頑張れ!」なんてスタンス。
でもまぁ、下級生には夏休みの宿題はあるわけで。
「君らも夏休みは最終日なんだけど、宿題の進みはどうなの?」
「…ん。問題なし」
「同じくー!」
「問題ねぇな」
「私もです」
「終わってる!」
「終わってるよ」
「終わってるわよ」
愛理ちゃん達、習先輩と清水先輩のお子さんたちは当然のように終了済み。じゃあ、小鳥は、
「終わっていますよー」
「ですよねー」
小鳥の性格的に愛理ちゃん達が宿題終わっているのに終わってないなんてないよね。だって、「え。お姉ちゃん。終わってないの……。ざっこ」なんて言われたくないだろうし。
「…ざっこなんて、誰も言わない」
「知ってる」
口に出してないことを突っ込まれた定期。さて、この世界がコメディ小説ならこの子らの誰かは宿題終わってなくてどったんばったん大騒ぎ☆が始まるんだろうけれど、終わってるんだよね。
百引先輩や有宮先輩なら終わってないかもだけど……。
「二人ならは大丈夫ですよ」
「あの子らは「さっさとやること全部終わらせて後は休みを満喫するぜー!」って子らだし」
「読書感想文やら自由研究やらのめんどくさい課題まで早々に終わらせるんですから、すごいですよねぇ」
思ったよりもスピーディに片づけられてるんですね。まぁ、その言い方的に夏休みの宿題の目的は半分くらいしか果たせていないんでしょうけれど。
夏休みの宿題……というか長期休みの宿題の目的はそれまでの復習と、休み中に「ひゃっはー!」って遊びまくって勉強から離れてポンコツ化するのを防ぐこと。後者の役割どこ……?
「ポンコツ化の防止はどっかの浜で死んだ」
「悲しいですね」
「めちゃ棒読みな上にまた心読まれた件」
ポンコツ化なんて、僕の心読んでないと出ないワードじゃないですかーやだー。
「まぁ、それはそれとして、小鳥や愛理ちゃん達の夏期の宿題に対するスタンスってどうなの?」
通常の宿題なら文句を言いつつも次までに終わらせるのはわかりきってるし、その辺に興味出て来た。
「…といっても、わたしらも晶先輩とほぼ変わらないよ?宿題はさっさと終わらせる」
「ねー。勿論、それで遊べるひゃっはー!はさすがにしないけどー」
しないんだ。真面目か。…真面目だったわ。習先輩たちの役に立ちたい。そんな子らだし。ちょくちょく休憩を取るために全休を取ることはあるかもだけど、フルでひゃっはーなんてするわけないじゃん。
「じゃあ、小鳥は?」
「わたしですか?わたしもまぁ、去年までは早々に終わらせていましたよ。めんどくさい読書感想文とか以外は。めんどくさいのは後からじわじわです」
「去年まで?」
今年は違ったってことだよね。何故に。
「そりゃあ、愛理達がいますから!姉として、負ける、わけには、行かんのです!」
小鳥の鼻息が荒い。そんなことだろうと思った。別に愛理ちゃん達、宿題のやる速度ごときでうんにゃら言ってこないと思うけど。学年も違うから量や難度が違うだろうし。
「知ってます。ですが、そこは姉のプライドです」
「…姉になったのはつい最近だけど」
「うるさいですね。この子」
小鳥が愛理ちゃんのやわらかそうな頬っぺたをもにゅっと掴んで、むにむに。愛理ちゃんなら速攻で振りほどけるだろうに、まぁいいかとでも思ってるのか、甘んじてむにむにされてる。
「…気にしなくてもわたし達がそんなので見限るわけないのに」
「戯れにー煽りはするかもだけどねー!」
「煽るんかい!」
こんどは華蓮ちゃんのほっぺをむにむに。あ、瑠奈ちゃんが華蓮ちゃんの後ろに並びだした。遊んでると思ったのかな?
「というわけで、今年は早々に全て終わらせたんですよ。まぁ、わからないところがあれば、聞いてね!と言っていたのに、何も聞かれなかったのがアレですが」
「まぁ、習先輩たちいるからね」
この子らの先輩達へのなつき度からして混んでようがどっちかに行くでしょ。そして、お二人とも優秀だからきっつきつに後ろが詰まるなんてこともないだろうし。
「そーいうのでもないんですよ。なーんということでしょう。わたしは習兄たちにちょくちょく聞いたのに、この子らは誰も聞かないではないですか」
「どういうテンションなの。それ」
「こういうのです。あ、瑠奈もやってほしいのね」
華蓮ちゃんへのむにむにをやめたと思ったら、そのまま瑠奈ちゃんへ。疑問は持たないのね…。
「質問なしのからくりって、相談しながらやったんじゃない?」
「…ん。」
「あ。そうなのね。わたしも友達とやれば……と思ったけど、宿題やるゴールデンタイムの朝方と夜は時間が合わないんだよね」
「むしろ進まない可能性もある」
友達といるのは楽しいからねぇ。お話ばっかりして進まないなんてざらにありそう。まぁ、僕の場合は鋼の精神でここまで! って決めた簡単な宿題はやり切るから、友達がゲームしてようが待ってー! って言って終わらせるんだけど。なお、その場合の一緒に宿題 or 遊ぶ意味は考えないものとする。
「ま、宿題の進度なんて得意不得意あるし、気にしなくていいよ」
「ですです。ちゃんとやっていれば誰もうだうだ言いませんよ」
「それはそうなんだけど。プライドがー」
「その辺はがんばれ」
ですね。結局、自分がどこまで許容できるか? にかかってくる部分ですし。そんな心の問題。
「あ。愛理ちゃん達、まだ1年生なのにもうがっつり勉強してるよね?何で?将来の夢とか固まってる感じ?あ。菊桜に行きたいってのはなんとなく察してるから、もうちょっと未来の話で」
「…カイさんは菊桜行きたいの先、固まってるの?」
純粋な目で投げつけられる質問。うぅ。めっちゃ興味あるみたいな目をしてくれてるけど、申し訳なさしかない。
「何もないんだよねー。聞いといてなんだけど。さすがに医学薬学は偏差値が足りない。理学か工学かの選択は工学ってのまではなんとなく決めてる。基礎よりは応用のが楽しそうかなって」
激浅理由だけど。そして、その先、学科はねぇ……。決まらないんだよねぇ。化学が割と出来るから化学か。電気系が楽しそうだから電気か。それか、これから先、ますます発展していきそうだけどブラックとよく聞く情報か。
「…なるほど。わたしは決めてる。医学に行きながら法律勉強する」
「両方とも文理の最高峰なんだけど?」
目指しているところがやばすぎる。でも、言ってる本人の目は超真剣。
「…知ってる。でも、医者は二人もわたしも魔法が使えない時に、二人の怪我を誤魔化すのに使える。法律の知識は何をするにもあって困らない」
「何する……いやごめん。やっぱなし」
なんか黒いことをグレーにしたり、なんか絡まれたときに殴り返す用だよね。知ってる。
口に出してないのに頷かれたし。知ってた。知ってたけど、うん。って感じ。
「医学に行く理由は?」
「…資格取るための研修は医学じゃないと出来ない。…さすがに資格なしで人の命は預かりたくない。…法律の方は、最悪、マウント取れればいい」
から、別に弁護士資格とかは必須要件ではないと。なるほどね。…どちゃくそしっかりしてるじゃん。唯一の懸念は、
「菊桜と東桜って研究者養成するところじゃないの?お医者さんになれる?」
「…ん。アドミッションポリシーを見る限り、東はそう。…でも、菊は研究者じゃないほうも養成する気がある」
あ。そうなのね。既に調べてるとか偉すぎない? やば…。僕、そんなのしたことないや。一応、三年になって菊桜に見学に行きはしたけどさ。
「把握した。なら、華蓮ちゃんは?」
「ボク?ボクはちゃんとは決めてないけどー。医学かなー?ほら、ボクってハイエルフだし、じゅみょー長いでしょー?おとーさんやおかーさんの子供のめんどーをみるのー!」
「愛理ちゃんみたいに法律はやらないの?」
「んー。ちろちろとべんきょーはしても、がっつりやる気はないかなー」
あ、勉強はするのね。真面目か。
「これでもー、おとーさん達が死んじゃってからのー、異世界の国家うんえーでお助けを頼まれてるしー、やるつもりだしねー」
「なるほど。なら、しといたほうがいいよね」
法律家になるつもりはなくとも、国家を運営するなら法律はあるほうがいい。誰もが縛られる法ってのは、欠かせないもんね。…特に民主主義全盛の今を生きる僕らにとって。
「俺も医学かなぁ?レイコに何かあったときに、父ちゃんらの魔法が無くても助けられるようにしたい」
「私もです。まぁ、やりようによっては私の魔法で治療できるような気はするのですけれど」
牙狼と礼子ちゃんの相思相愛組は互いの治療のために医学と。医学率高いね?
「瑠奈ちゃんは?」
「んー。医学―!」
あ。これ、みんなが医学って言ってるから医学って言ってるやつだ。
「あの、何するか知ってる?」
「お医者さんでしょー!ドラマとかで見てるー!命の重さとかは、まだちゃんと理解できてないかもだけどもー、だいじょーぶ!だと思う!」
満面の笑みで言い放つ瑠奈ちゃん。流されてる感は少し否めないけど……、まぁ、なんとかなるか。習先輩達がおられるし。
「最悪、私は魔人で寿命が長いのでー、10年くらい遊んでも問題ない、はず!です」
「あぁ、ファンタジーでよくある高寿命種族理論ね…」
もし、お医者さんが合わないなーと思っても、人間の体のことはわかる。魔人と人間がどれだけ違うかはわからないけど、完全に無駄にはならないよね。
……。あれ。この流れだったら幸樹と瑞樹ちゃんなんだけど。そう思って、二人の方を見ると、幸樹も瑞樹ちゃんも苦笑いしている。
「僕の方は悩み中。僕もアイリ姉さんと同じような感覚はあるから、お医者さんかなーとは思ってる。でも、せっかく、姉弟なんだし被せるのもなーって思ってる。勿論、アイリ姉さんは気にしないでって言ってるから、僕の気持ち次第ではあるんですけどね」
「なるほど」
上が多すぎるとそういうところでも迷うのね。それに、習先輩達はしないだろうけど、周囲の人が姉弟ということで、互いに勝手に比較するかもだし。
「瑞樹ちゃんは?」
「アタシはアタシで何にでもなれるから…。正直、父さまと母さまの娘としてどういうキャリアが一番いいか?ってお話になるのよね。お医者さんになって姉、弟、妹全員医学部も面白いとも思うし、何か別の分野で研究者になって名前を遺すのも面白いとも思うのよね。…安定性を考えると正直、前者だと思うんだけど、どう思う?」
こてっと首をかしげる瑞樹ちゃん。それはそう思うけれども、それ、自動的に幸樹の進路も決まるんだけども。
「あ。確かに。それはよくないわね」
「いや、ミズキもその発想してるなら、心は決まるよ。お医者さんだね」
「なら、アタシもね」
これまでに将来のことお話してなかったんかーい。目の前でぬるっと決まった。全員医学部。インパクトはある。
でも、行こうとしてる子らはある程度の目的意識がある。……賢すぎて他に行くところがない! とかじゃないし、僕が口を挟むことではないかな。同じ年に菊桜医学部受験者がえーと、7人か。医学部医学科の定員は100人くらい。全員受かれば身内率7%か。
みんな、賢すぎてほぼ確定で受かるだろうから、ライバルにはならないだろうけど……確実はないし、頑張れ!
「…小鳥姉はどうなの?」
「うぇっ」
すんごい声。小鳥。こっちに来ると思ってなかったのね…。
「んー。特に何も考えてないんだよね」
「でも、理系ってのは選んでるよね?」
「まぁね。でもさ。それって習兄。習兄が居なくなったからってのがあるんだよ?頑張ってタイムマシンでもこしらえられれば、また会えるんじゃ?って」
!? 一瞬、清水先輩がすんごい目で小鳥を見ていたような。…気のせいか。目的が壮大! って驚いてただけだよね。きっと。
今は清水先輩も習先輩も眩しいものを見るような目で小鳥を見ている。
「でも、今は無事に帰って来てくれたから……、目的がないんだよねぇ。少なくともこの世界では、タイムマシンは並行世界量産マシーンにしかならないってのは習兄に聞いてるし」
だったね。この世界は時間軸上の最先端。こっから先はこれから紡がれていくもの。そして、この世界における過去への干渉は新たな分岐を生み出すだけ。過去改変に成功したら? というIFルートの世界がこの世界から派生するだけで、絶対に変わらないという。
「まぁ、まだあるしもうちょっと悩むよ。とはいえ、タイムマシン関係でちょっとかじったから機械か、電気系な気はしないでもない」
勉強してるんなら、それを活かせるほうがいいかもね。別に全然違うところに行って、何か別のもっと向いてそうなものを見つけるのも良し。
「あ、日もそろそろ傾いてきていますし、帰りますね」
「え。今の流れなら俺らの進路を聞く流れでは?」
確かに! それに、用事もないはずだし……あれ? そうだっけ? まぁ、いいや。今までどうされるか聞いてなかったし、興味があります!
「では、どうされるのです?何となく流れ的に読める気はしますけれども」
「じゃあ、どこだと思う?」
お二人がわくわくした目でこちらを見ておられる。でも、文転のするとか聞いていない時点で、一つしかないような。
「医学部医学科ですよね。動機はほぼ愛理ちゃんと同じで」
「「正解!」」
ですよねー。他の理系知識も役に立つでしょうけど、医学が一番、つぶしが効きそうですもの。そして、お二人はヒーラーにもなれる。なら、異世界でよくある体を理解しているほうが効率が云々もありそうですし。
「前も聞いたかもだけど、異世界で国家運営すんのに、経営とかの知識は要らねぇのか?」
「その辺は自力で勉強するさ。ガロウ」
「もっとも、自力と言っても講座を使いますが」
この辺まで愛理ちゃんチック。お二人に愛理ちゃんが似たんですかね。
『ピロピロピロ』
! え。えーと……あ゛。
「ごめんなさい!今日、僕の財産関係を管理してくれてる人が来てくれるんでした!」
誰だ予定ないとかいったやつ。僕だ。言ってないわ。覚えてなだけだわ。駄目じゃん。
「帰りますね!」
「送ろうか?」
「おうちですよね?」
「はい!」
「じゃあ、ばいばーい!」
「またー!」
声を返した途端、視点が切り替わって玄関先。早い。あ。固まってる場合じゃない。歓迎しないと。
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