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22話 外宮参道

「そこまで驚かなくてもよくない?」

「ですよね……」


 ま、まぁ、そうなのでしょうが、知らなかったので……。外宮(げくう)にお参りしてから内宮(ないくう)に行くことになってるなんて。



 ……あれ? てことは、内宮……伊勢神宮から行くのは良くないんじゃあ……。



「内宮も外宮も伊勢神宮だから、その言い方は正しくないかな。内宮ってだけ言うか、皇大神宮(こうたいじんぐう)って言うべきだと思う」


 確かに。これは失礼しました。



「尤も、伊勢神宮も正式名称は単に『神宮』、なのですけど。他の神宮さんと区別つかないので伊勢にある神宮。ということで伊勢神宮と呼ばれているだけで……」


 それも知らなかった……。



「後、さっきの質問の答えだけど、」

「片方だけお参りするのは片参りといって、あまりよくないことだそうですよ?あ、後、一般的に複数の神社にお参りするときは格の高い順に行くそうですが、ここだと逆なので注意ですね」


 結構いろんな決まり? があるんですね……。



「だね。まぁ、知らないなら知らないで仕方ないんじゃない?知らないことは出来ないんだから」

「ただ、神様が許してくださるかどうかは人間が決めることじゃないので、別ですがね……」


 それをいっちゃあおしまいでしょうに。



「声を聴ける人は聴けるんだろうけど、普通は聴けないからね……」


 ですね。先輩達はどうなのです?



「異世界のなら面識あるよ」


 やっぱな……あるんですか……。



「ありますね。神様というよりは、良くも悪くも普通の親という印象が強いですね。子供と一緒に居たいけれど、子供は世界を破壊する」

「一度、破綻しかかって覚悟を決めたはいいけど、決めきれなくて、ぐずぐずとそれが続いて……」


 どうなったんです?



「2度目の破綻が起きかかった」

「ですから、半分くらい部外者たる私達が横から全力でぶん殴って、強引に覚悟を決めさせました」


 お二人の顔に冗談を言っている様子はない。……異世界で何してるんですかねぇ。



「そりゃ、勇者だよ。転生じゃなくて転移なら」

「勇者というのは王道でしょう?」


 クスリと微笑まれるお二人。召喚されたことに悪い印象はあんまり持ってないっぽい。



「というわけではないんだけどね」

「やらかしてくれやがった神様、今、寝込んでますし、無理やり覚悟決めさせましたしで、」

「あんま追及できないんだよねぇ……」


 心情的に。ですね。わかります。寝込んでる人は殴れない。……ぶん殴ったせいで寝込んでるんじゃないですよね?



「「違うよ(います)」」


 揃って否定された。信用していないわけではないけれど、お子さんたちの方を見てみる。



「…ほんと」

「だねー」

「言葉でぶん殴ったってだけだな」


 解答ありがと、愛理(アイリ)ちゃん、華蓮(カレン)ちゃん。牙狼(ガロウ)は補足ありがと。



「心読めるとはいえ、お礼は言った方がよいのでは……」


 礼子(レイコ)ちゃん。それはそうだけど恥ずかしい。確定で読めてる皆さんならいいかなと言う気がしてる。



「言い訳か。ありがと」


 言うとやっぱりこそばがゆい。と、ところで、何で寝込んでるの?



「色々あった!」

「ルナ姉さまの言うとおりね」

「だね」


 聞く気が死んだ。



「習(にい)。何の話してたっけ」

「え?確か……」

「伊勢神宮をお参りする順番のはずですね」


 めっちゃ脱線させましたね。ごめんなさい。



「ま、まぁ、神社は神様のお家です。他人を家に招いた時、されたらいやなことをしない。他人の家に行ったとき、しないような意味不明なことをしない」

「それを守っておけば逆鱗には触れないんじゃない?」


 なんかいい感じに〆てくださった。(知らないけど)って言葉が、後ろに続いた気がするけど!



「ま、そろそろ行こうか。こんな大人数でいつまでも隅っこにいたら変だろうし」

「ですね。行きましょうか。ルナちゃん。私か習君、どっちかの手を取っておいてくださいね」

「ん!わかった」


 弾けるような笑顔を見せると、瑠奈(ルナ)ちゃんはわざわざお二人の間に行って、両方の手を取って歩き出す。大好きなんだね……。



 でも、何で瑠奈ちゃんだけなんだろ?



「ルナだけ、ほんとに若干だけど、何するかわからんとこがあるから」


 なるほど。なんd



「ほんとはアタシら末っ子はおろか、父さまたちより長く生きてるんだけどね……」

「色々あったんだよ」


 瑞樹(ミズキ)ちゃんの言葉で、一瞬、聞こうかと思ったけど、幸樹(コウキ)の雰囲気で萎えた。



 色々ありすぎでしょ、皆さん。いや、色々なきゃ、こうはならないですか。



「ですね。カイさん。ところで習兄。何で行くの?バス?徒歩?」

「徒歩。5分くらいで行けるから」


 結構近い。……あれ? そういえば、何で駅なんだろ? そのまま直で神社に行ってもいいのでは。



「いきなり家に飛び込む不作法はしたくない」

「ですね。家で例えるなら窓ガラスぶち破って入る……とまではいかないかもですが、暴挙でしょう」


 確かに。でも、それなら正門? 前でいいのでは。



「せっかくだから、参拝した感が欲しくない?」


 茶目っ気たっぷりに言う習先輩。理由が思ったより俗。清水先輩も頷いておられるから、同じ気持ちなのだろう。



「…お父さんたちはだいたいこんな感じ」


 愛理ちゃんの方を見ると、ご機嫌な瑠奈ちゃん以外、揃って首を縦に振った。おぉう……。



「で、ですが、見ないと分からないこともありますから。JRと近鉄(近畿日本鉄道)の伊勢市駅はちょい離れてますけど、コンコース?で繋がってるとか、近鉄伊勢市駅の次の駅、宇治山田駅も割と近いとか……」


 恥ずかしいからって、言い訳的なものを重ねなくていいのですよ?



「そうだよ、四季義姉(ねえ)。前者はそもそも地図で見れるし、後者は外に出てるけど、建物邪魔で見えないよ」


 小鳥の一撃。清水さんは固まった!



「…外宮参道通っていくっていう体験は来ないと出来ない」

「「(です)ね!」」



 愛理ちゃんの助け舟に全力で乗るお二人の図。そこそこお付き合いさせていただいているけれど、これもきっとこのご家族らしい(・・・)んだろう。



 ……でも、こんなに仲がいいことを考えると、前に体育のときに言われた、「お二人はダメだったらお子さんたちや知り合いでも切り捨てて、二人で生きる」的な言葉の意味が分からない。何で相手を納得させられるんだろう?



「あぁ、それ、多分、言葉足りてないわよ」

「僕もそう思うな。超限定的な状況の話だね」


 瑞樹ちゃんと幸樹が釣れた。



「釣れたって……いや、まぁ確かに。釣られたようなものよね」

「それでももう少し言い方ないです?構わないですけど……」


 ごめん。でも、二人は気を悪くしたわけではないみたい。僕の横を並走してくれてる。



 習先輩達が先頭。次に牙狼と礼子ちゃん。愛理ちゃんと華蓮ちゃんと小鳥。最後が僕ら。順番的に、あまりお二人に聞かせたくないんだろうか。



「別に?たぶん自覚してるわよ」

「とはいえ、ちょい恥ずかしいだろうから、離れてる。それだけ」


 そっか。それだけなのか。



「で、軽く説明すると、そんな状況はまずないわよ。もし仮に、アタシらが足手まといになるなら、時間稼いで逃がそうとしてくれるわ」


 だよね。それは僕の解釈と一致する。見捨てるイメージがわかない。



「見捨てるのは、本当にどうしようもなくなった時。父さんか母さんが死なないと、一秒ごとにどうでもいい人から一万人ずつ死んでいく……とかなった時だよ」


 どういう状況、それ。てか、何で万?



「だからまずない(・・・・)のよ」

「万なのは地球人口考えたから。一秒一人だと、60億死んでも世界が回ると考えると、60億秒の猶予。日に換算すると1万年くらいの猶予がある」


 お二人が死ぬ方が早い。なるほど。了解。一万人だと一万分の一にすればいいから大体一年か。ちょうどくらいね。



「そうなった時、父さま達はW(ダブル)自殺なんてしないわ」


 あぁ、やっぱりWなんだ。



「そりゃそうよ。あの二人がどっちか残して死ぬモノですか」

「どっちかだけでも生き延びて……!はやめてって互いに言ってるしね」


 だよねー。そんな気はしてた。でも、他の人の命がかかってるのにしないのは意外。するんじゃないかと思ったこともあるんだけど。



「僕らもだけど、知らない人より知ってる人だよ。目の前で死なないなら、他人事で済むもの」


 淡白……とは言えないか。僕だってニュースで戦争とかやってても「ここじゃなくてよかった」くらいにしか思わないからなぁ。



「自分が取れる解決策があるか否かって差はあるわよ?」


 文字通りの命がけは解決策って言わない。あぁ、結局、僕も即座に死ねる人じゃないわけだ。



「で、そんな状況になって、頑張ったけど解決策が見つからない。そうなったときに切り捨てられる……というだけよ」


 なるほど。何でもできそうな魔法が使えるお二人が無理なら、誰でも無理。そう考えると納得できるか。



「魔法がなくても、それは変わらなかったんだけど」


 確かに。なんとなくそんな気がする……って、うん? 何で二人が知ってるんだ? 話を聞いてる限り、ご家族の兄妹の順の決め方は、仲間になった順。となると、二人は一番最後、絶対、既に魔法を使われていたはず……。



「あぁ、前世の影響ね」

「だね。前世で僕らは二人の子供だったのさ。まぁ、前世の僕らの親は今の二人の前前……以下略ってくらいだけど」


 世代の断裂がひどい!?



「色々あったのよ……」

「あったんだ……」


 二人の目が死んだ。瑞樹ちゃんは恥ずかしそうな色が強いけど、幸樹は純粋にだるかったって気持ちが強いって違いはあるけど。



「あ、そうそう。今の二人の互いがものすごい大事!ってのもの前前……の影響がわずかながらにあるかもね」

「死ぬときは一緒だったんだけど、国のために動いたのに、裏切られて死んだから」


 うわぁ。それならますます自分と、相手のために動くよ! ってなるかぁ。



「たぶんなくてもかわりゃしないけどね」

「違いない」


 2人が優しげな眼で前のお二人を見つめる。確かに、変わりそうにないね。



「…ちなみにさっきの仮定でいよいよわたしたちが死ぬってなったら、二人は自分達の手で殺してくれる」


 しんみりしたとこに愛理ちゃんが割り込んできたと思ったら、物騒なことをうっとりした雰囲気で言ってる!?



「そうかしら?」


 瑞樹ちゃんも同類か! まさかの傷となって残りた……いや、まさかじゃないわ。知ってた。って感じだわ。お二人の家族は大なり小なりお二人第一だし……。



 あれ? でも、お子さんたちはそうでも、級友……先輩方は違うのでは? 魔法があってもいよいよって時は、殺しに行くのでは?



「殺し合いなんかしてる暇があったら、解決法を探すわよ」

「叔父さん達も父さん達に死んでほしいわけじゃないし……」


 マジか。マジなのかぁ……。いよいよって時でも、探しに行くのかぁ。



「…わたしら敵に回るのが確定してるし、お父さんもお母さんも、わたしたちも、殺しに来られるなら知り合いでも全力で殺しにいくからね」

「後、単純に魔法の関係で、どうやっても勝てないってのもあるわ」

「だからこそ、さっきの仮定がほぼあり得ない。そう言い切ることが出来るんだけど」


 ……愛理ちゃんのは、聞かなかったことにしよう。そっか、勝てないのかぁ……。



「魔法ないときは?」

「アタシらもないなら人海戦術で負ける」

「ある時は殺しつくして、誰もいなくなる」


 誰も幸せにならない! そ、それはそうと、参道なのにちょくちょく信号があるのは何故?



「伊勢駅って市の名前そのまんまの駅があるように、伊勢市の中心だからに決まってるじゃない」

「駅から参道をまっすぐ整備しても、参道を越える道が一切ないと線路か外宮を大回りして行かないといけなくなる。すっごい面倒」


 それもそうか。でもそれなら高架



「せっかく、神社に来てるのに高架を見たい?」


 見たくないかなぁ……。うん? 待って。そんな感傷的な理由なの?



「知らないわ。でも、こういう宗教施設って、そういう心理的な面を、重視するもんじゃない?」


 そりゃそうだ。信仰心が一切ない人からしたら、「なんでこんな無駄にスペース取ってるの?」にしかならんわけだし。



「じゃあ、地下は?」

「も、わからない。けど、こっちは遺跡とか発掘されるかもしれないから……とか?」


 幸樹の言ってることはありそう。めっちゃ前からあるから、大昔の遺構とか出てくるかもしれない。



垂仁(すいにん)天皇26年……B.C.4年に内宮は出来たようですよ?神話では前代から天照大神をまつる場所を探す旅を倭姫命(やまとひめのみこと)が開始、垂仁天皇が伊勢にやってきて、天照大神が、「伊勢は美しい国だ。だからここに居ようと思う」的なことをおっしゃったのがきっかけだ。とか」


 B.C? 西暦4年? 大体2000年……なっが。



「ただ、垂仁天皇さん自体の実在性がよくわからんらしいです。なんか140歳くらいまで生きたとか書いてますし……。最近は、垂仁天皇は実在されたんじゃね? 説が強いっぽいです。確実にあったと言えそうなのは……」


 よく知ってるなぁ……と思ったら調べてたわ。手に思いっきりスマホ握ってるわ。しかもなんか見慣れた丸いロゴがちょくちょく目に入る。明らかにサーチエンジン使ってるわ。



「…式年遷宮は?」

「あ!ありがと、愛理ちゃん!」

「式年遷宮を初めてしたのが……、内宮で690年ですね。1300年はあるっぽいですね」


 めっちゃ前からあるじゃん。



「あ、式年遷宮は20年に一回、内宮と外宮の建物を建て替えて、新しい方に神様方に移っていただく儀式です。やりだした理由は不明らしいですが、2013年に第62回を行った由緒あるものです」


 なる……うん? 20年に一回なら、1300年あるなら、65回はやってないとおかしくない?



「戦国時代」


 小鳥がするっと言い放つ。……うん、察した。応仁の乱以降、数十年も戦争ばっかやってたら、んなこと出来る余裕ないよね……。それを考えると2013年で62回目ってのは割とすごいのでは。



「と思います……あ!信号が変わっちゃう!急いで!」


 習先輩達が渡り終えてるからか、僕を思いっきり引っ張っていく小鳥やお子さんたち。……信号で別れちゃうくらい、仕方ないんじゃないかなぁ! 言えないけど!



 急いで渡ると、習先輩と清水先輩がこっちを見て待ってくれてる。お二人の間の瑠奈ちゃんは相変わらずご機嫌。ちっちゃい子がやるみたいに二人の手を前後して遊んでる。



 ……身長が高すぎるから、単に前後に往復運動するのが限界だけど。そでも、楽しいらしい。



 そんな三人の奥に見える森。ここが伊勢神宮……の外宮なのですね。



「そ。もう敷地には入ってるけど、先に見える、火除橋(ひよけはし)を渡って、向こうに見える鳥居をくぐれば、完全な神域だ」


 習先輩がそう言ったからか、もとからそういう土地だからかはわからないけれど、鳥居を見た瞬間、身が引き締まるような気がした。

お読みいただきありがとうございます。

誤字や脱字、他何かありましたらお知らせいただけますと幸いです。

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