21話 ゴールデンウィーク
今日は5/2。今日からゴールデンウィーク。いちいち買い物に行かなくてもいいように、食材を良い感じに買い込んで、勉強三昧せねば。
体調はすこぶる良好。昨日、ドン引きするぐらい寝坊しちゃったせいか、礼子ちゃんの魔法のなんやらを教えてもらえて、知的好奇心が満たされたからだと思う。
テレビつけてー、予約炊飯しといたご飯よそってー、フライパンの上に油しいてー、火をつけてー、卵とソーセージ乗せてー、
『本日のニュースです。本日深夜、警察が追っているような気がしなくもない謎の集団』
ん? 耳がおかしく……なってないね。字幕に思いっきり「気がしなくもない」って書いてた。何でそんなあいまい……。
「から「今週中に近畿地方から悪い奴は出て行くように。自首するなら近隣の交番か、ネットに所在を書き込むように。さもなくば吊るす」との通告と言うべきか、犯行声明と言うべきか、よくわからないものが届きました』
……察した。明らかに先輩達のお子さんたちが絡んでる。言い方が微妙なのは、警察側や報道側に手が回っているから……なのかもしれない。
いや、かもしれないじゃなさそうだな。犯罪集団って言えばいいのに謎のって言ってるもん。とか言ってたら無事に焼けた。めんどくさいからケチャップぶちまけていただきます。
「…血でもぶちまけた?」
「ケチャップだよ!?」
うん? 何で僕の家なのに他の人の声が……。
首をギギギッと回すと、ニコニコしたアイリちゃんがいる。何で?
「…お父さんとお母さんが「おそらくカイはゴールデンウィーク中、引きこもって勉強だ!とかぬかすだろうから、一緒に適度に遊んで勉強しないか誘ってみよう!」って言ってたから」
言ってたから来たと? いや確かに先輩方が予想された通りのことしようとしてたけどさ。まだ僕を誘うこと確定じゃなくない? 「誘ってみよう!」だよ? まだ提案段階。だのに誘いに来ちゃっていいの?
「…確かに。でも、ほぼ確定でしょ。……あ」
? どうしたの?
「…ご飯が出来てしまいそうな予感がする。手伝いに行かないと……。…返答は後で聞くね」
!?
……危なかった。危うくズッコケるところだった。びっくりするくらい真面目な顔で言うことだったのかなぁ。もう聞けないけど。ズッコケてるうちに引っ込んでしまった。
何しに来たんだ……って連絡しにきてくれたのか。とりあえず、食べよっか。
ニュースでは謎の組織の犠牲者っぽい人が『日本天然資源開発管理公社』とかいう習先輩達がでっち上げた会社の社員になってるんじゃない? って説がある……という導入から会社の噂を取り上げてる。
曰く、国策企業っぽく見えるけど実は国策じゃないとか、いろんな省庁が首を突っ込みたがるけど「うるさい。潰す……というか、再編しよっか?」ってなってそれどころじゃなくなる(しかも、再編したらより良い省庁になる)とか、最初の噂と微妙に被るけどちょくちょく従業員に堅気じゃない人が混じってるとか、何故か他国の横やりが入ってこないとか……。
ところどころデマが混じっているけれど、ほぼほぼ当たってるっぽいのがひどい。僕が教えてもらってるのは最初だけだけど、察してるのとか含めるとだいたいあってそう。これはひどい。色々と握りこんで介入されないようにしてるっぽい。
食べ終わったし、お皿でも洗おう。今日の天気は晴れ……というか、ゴールデンウィーク中はずっと晴れ。なんか陰謀を感じる。
気のせいだろうけど。えっと、アイリちゃんが言うには、一緒に勉強して遊ばない? ってこと。う乗らせていただこうか。一人でずっと勉強も味気ない。
『ただいま入ってきた情報によりますと、『日本天然資源開発管理公社』の発行する電子マネー『ヨスガ』が、大手銀行、鉄道会社と提携した模様です。これによって、チャージが銀行ATM、駅の券売機でも行えるようになる見込みです。また、設定にもよりますが、口座からの直接引き落とし、口座残高確認が出来るようになり、さらに交通系ICとしても使えるようになるようです』
ヨスガって既にいろんなお店とかで使えたような……。陰謀を感じる!
「…失敬な。お父さんとお母さんの遠大な策の一環」
策って言ってる時点で陰謀じゃないですかー。やだー。
「…そうともいう。とりあえずこれで、電子マネー戦国時代を終わらせて、ここに集約させる……ってさ」
確かに多いものね。電子マネー。盛大に爆発したところとかあるけど、運用されてるところはされてる。その辺、どうするの?
「…開発費をペイバックして補填。運用費はどうするかしらないけど、優秀な技術者は高給で引き抜きかけて、ノウハウを貰うってさ」
うわぁ……えげつない。
「…最後はマイナンバーとも結びつける。セキュリティはお父さんたちが絡んでる時点で世界最高だから心配ないって」
まぁ、だろうね。心配するだけ無駄。もしぶち抜けるならそこがえぐいってことになる。逆探知して潰そう! ってなるのかな。
「…個人の税金逃れや資金洗浄を防ぐ一助になるらしいよ?最終的には全個人、組織に持ってもらって、国内限定でもタックスヘイブン利用者を0にしたいとか」
聞いたことある! ってだけの単語が多すぎて内容が全然わからん。わかるとこ……あぁ、
「全員に持たせるってどうやって?強制なんかしたら個人の自由の迫害とかで面倒になるよ?」
「…便利さで選ばせるって。契約書に書いてて、憲法も法も守ったうえで情報使うけどいいよね! って」
便利さで選ばせるなら、使わない人も出るんじゃないの? それこそ後ろ暗い人は使わんでしょ。
「…そうなったらそうなったで構わないんだって。お金の主要な流れをここに集約してしまえば、残るのは傍流。そこから怪しいのはパソコンで絞り込めるし、なんなら魔法使えばいいんだって」
やはりそのあたりはちゃんと考えておられるか……。
「ビッグデータ万歳!って豊穣寺叔母さんが」
豊穣寺先輩……? あぁ、数学得意な人だったっけ?
「…ん。シャイツァー……魔法の道具はパソコン。なんでも「世間ではビッグデータを物理的に扱いきれなくて持て余しているようだが、こちらはその心配がない。余すことなく活用して見せよう」……だって」
うん? なんかキャラ違くない? よく知らないけど、偉そうに聞こえるんだけど……。
「…テンションが上がってるだけだと思う」
なるほど……。で、何でナチュラルに人の家に不法侵入してくれてるの、愛理ちゃん。
「…空間切り裂かなきゃワープ出来ないから、許可を得る方法がない」
それもそうか。方法自体に問題があるもんね……。外にワープからのドアノックだと、見られるかもしれないし。
「…ん。それで、どうするの?お金とかはこっちで持つらしいけど」
「お願いする」
一人で勉強するより、先輩方がいるほうが絶対に良い。それに、汚い話だけどお金を持ってくださるならお金が浮く! あぁ、苦笑いされてる。
「…準備はいい?」
「何を準備すればいいのか分からないんだけど?」
着替えとかいる? そもそもまだパジャマなんだけど、着替えた方がよき?
「………まぁ、いいか」
何がいいの!? そんな僕の内心をガン無視して、愛理ちゃんは鎌を振るう。空間が切り裂かれて裂け目が出来ると、僕の腕をむんずっと掴んで、裂け目に飛び込む。
わかってたけど、力強っ!? 一切抵抗できずに空間に飲み込まれ。飛び出た先は先輩方の家。
「…連れてきた」
「ありがと。アイリ」
「お疲れ様です。アイリちゃん」
無表情で、でも誇らしげに胸を張る愛理ちゃんを撫でる先輩方。撫でられてる愛理ちゃんは幸せそうな顔。
ほぼ拉致同然だったんですけど。確かに来るとは言ったけどさ。
「カイのその服はパジャマだよね?ちゃんとした服あるけど、着替える?」
「お願いします」
着替える間もなく連れてこられたのですが……。ひょっとして、どんな服がいるかとか説明するのがめんどくさかったのかな? 適宜必要な服があるかタンスとか確認されるより、もうないこと前提で適した服装を投げるほうが楽……とかで。
「…ん」
正解らしい。撫でられ終わったアイリちゃんがこっちを見て頷いてくれたし。ただ、何故に瑠奈ちゃんと華蓮ちゃんが撫でられてるんだ……? そんなことより、こっち聞いておこう。
「ところで先輩。何で僕を誘ってくれたのです?」
家族旅行でもよかったのでは?
「あぁ、それは……」
「わたしがいるからですよー」
習先輩の背後からひょっこり顔を出す小鳥。なるほど、小鳥がいる以上、完全な家族旅行にはならない。だったら誘っておこうみたいな感じですかね?
「そうです。小鳥ちゃんがいるのは元の予定通りです。お義父さんとお義母さんがゴールデンウィーク中は奥羽旅行するそうで……」
また習先輩のご両親は旅行に行かれてるのですね……。ほんと仲良し。
「あ、奥羽=東北ね。仙台牛タンとか津軽のマグロとか食べて、奥州平泉、松島、白神山地、蔵王とか行くらしい……」
東北一周旅行ですか。それはまたすごい……。
ですが、元から決まっていたなら、僕を誘う理由としては弱いのでは……?
「あー。それは、アレだよ。アレ。一種のお詫び」
「お詫び……ですか?」
「昨日……いえ、一昨日でしたか?のやつです」
一昨日……あ、あぁ。あれですか。夜中に拉致られたやつ。
「です。巻き込んでしまったのでそのお詫びも兼ねて……です」
あー。なるほど。気になさらなくてもよかった……とか僕が言うと思ったから、それを理由にあげられなかったのか。きっと、僕が聞かなきゃ言うつもりはなかったんだろうなぁ。
「ま、まぁ、とりあえず着替えてよ」
「ですね。着替えはそこに置いてありますから。今着ている服はその辺に置いておいてください。タイミングがあった時に洗って、部屋に戻します」
お礼とか言われるのが恥ずかしかったのか、習先輩にグイグイ押されて部屋の中。何故か下着まで置いてある。
「服は自動生成ですから、私達の意思は柄やサイズ選定に一切関与してません」
気にして作ってないよ! ってアピールですか。……心配なさらずとも、僕の下着を作ってくれた!? とかでもじもじしたり興奮したりする質じゃないのですが。
まぁいいか。うわ、この生地、綿かな? ものっそいふわふわ。ふわっふわの癖に通気性も抜群。下着として最高では?
服……もよさげ。僕にセンスはないからアレだけど、色合いや柄は好み。特に青ベースに魚のいい感じの絵があるのがいい。
「そういえば、どこに行くんです?」
「伊勢」
伊勢……、三重県ですか。何故に。
「伊勢神宮がありますから。たまには行っておかないと駄目なのです」
行っておかないと駄目とは……。まさか習先輩達の魔法関係のお話だろうか。となると、気にしない方がよさげ。伊勢海老食べれるかな……。
「残念ながら三重だと伊勢海老は5月~9月30までは禁漁期。新鮮な海老は無理」
「ですね。鳥羽市離島地域以北は9/15までらしいですが、5月なので関係ないですね」
残念……。
「ま、まぁ、アワビは禁漁期じゃないですから、食べれますよ」
やった!
「めっちゃ喜んでる……」
「それだけ嬉しいのでしょうよ、ガロウ」
!? まだ外に出てないのになんでわかるの!? てか、さっきも口に出してないはずなのに会話成立してたような……。こわっ!?
「漏れてるからー」
「…着替えたなら出てきたら?」
なんか怖いこと言われた気がするけど、確かにとっとと出た方がいいか。
エイっとドアを開けてそのままのノリで飛び出る。
「魔法が用意した割には似合ってるね」
「ですね。習君には負けますが」
さらっと清水先輩にディス……いや、これは惚気……?
「気にしない方がいいと思いまーす。ふむふむ、なるほど……。さっすが習兄と四季義姉!他人の服を選ぶセンスはスバラッ!」
あれ? 服の柄に介入しな……あ、意思は介入しない。か。センスは思いっきり影響受けるんですね。
頷かれておるから正解っぽい。にしても、他人の服を選ぶセンスはとな? つまり自分で選ぶと……壊滅する?
「のです。だから昔から習兄は誰も家に居なくて、外出しなきゃ駄目になった時は、制服か、かつてわたしや父母が作ったコーディネートをまんまパクっていくのです。……まんまパクらないと靴や帽子のワンポイントで壊滅させていくのがすごいところですが」
えぇ……。視線を習先輩の方に向けると、清水先輩ともどもツイっと逸らされた。じ、自覚症状あるなら致命傷にはなりませんから……。
「そ、それより、そろそろ行こう!」
「で、ですね!行きますよ!」
お子さん達から飛んで来る温かい目をガン無視しながら空間に穴をあけるお二人。
やっぱりそれで行くのですね。一瞬、電車で行くのかと思いましたが……。
「行くよ!」
「突撃です!」
妙に威勢を上げて穴に消えていくお二人。お子さんたちもそれに追従。
「さ、行きますよ、カイさん!」
小鳥に腕を取られて……って、小鳥も割かし力強い!? 愛理ちゃんとかわかるけど、なんでそんな力強いの!?
「単純にカイさんが非力なだけかと……。わたしも、まさか引っ張ることになろうとは思いもしませんでしたので」
おぉう……。ごめん。小鳥がゴリラではなかったのか、僕が貧弱なだけか……。
「開いてるのもただじゃないので、項垂れてないで行きますよ」
「あ、そうだね。ごめん」
ぴょんと飛び込む。
「全員着いたね」
「ですね」
……あれ? 習先輩達の声だけじゃなく、なんか他の人の声も聞こえ……って、駅の中……?
「だよ」
「えぇ。……というか、球技大会の時もしませんでしたっけ?」
球技大会の時は場所があるってわかってたから調整がまだ楽とかそんな感じでしたよね!? こんな駅の中だと、どこが空いているか? とか分からないじゃないですか!?
「魔法で判断すればいい」
「です。球技大会の時はその魔法が不要だから楽……という程度の意義しかありませんよ」
マジですか。いや、出来てるからマジなんでしょうね。えっぐいなぁ……。ところでここは?
「JRの伊勢市駅ですね」
伊勢市駅……? あれ? 伊勢神宮の最寄り駅って確か、近鉄の『五十鈴川』駅だったような。
「あぁ、そっちは内宮の最寄り駅。こっちは外宮。伊勢神宮は内宮と外宮があって、外宮をお参りしてから内宮に行くことになってるの」
なっなんだってー!?
タックスヘイブン
税制の優遇措置を該当地域外の企業や個人に戦略的に設けているところのこと。
辛辣に言えば「税金逃れをするための場所」
税金逃れだけではなく、資金洗浄の舞台になりやすいため、世界が潰そうと頑張っている。
資金洗浄
お金がどこから来たかわからなくすること。主に
1) そんな大金どこから持ってきたの? 調べるね!
2) え。なんか悪いこと(武器、麻薬密売、売春、脱税etc…)で稼いでる!?
3) 逮捕!
の流れを避けるため行われる
ペーパーカンパニー
書類上だけ存在して、活動していない会社のこと。
会社を分けることにより受けられる優遇措置の悪用や資金洗浄のためのモノと言っても過言ではない。
ビッグデータ
膨大な量のデータのこと。うまく活用できれば新たなビジネスチャンスを生んだり、危険を回避したりできる。
本編中の日本人全員の購買履歴などは典型的な例。しかし、量が膨大すぎてパソコンで取り扱いきれない! といった制約がかかることがあり、その点をどうするかが現在(2020年)の課題。
お読みいただきありがとうございます。
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