山登りも魔物も新キャラももうお腹いっぱいです
お待たせしました!また期間が空いてしまって申し訳ないです!
国家試験に向けての勉強を再開してまた更新頻度が遅くなりそうで…それでも読むよって方はどうかこれからもよろしくお願いします!
◇
「つ…つ…つ……疲れたぁぁぁぁ!!」
「何弱音を吐いてるんですか。まだ半分登っただけですよ、情けないですねー」
「お前歩いてねえだろ!!」
あれから3日が経った。
現在、俺達は神黎山中腹部を徒歩で登っている最中だ。予定ではクンリの飛行陣で頂上を目指すつもりだったんだが、なんと2日目でクンリの魔力が尽きて神黎山を目前にしてダウンしてしまった。
意外と陣の魔力消費は激しかったらしく、2日間継続して使用し続けた事により完全に魔力を持ってかれたとか。
ちなみに魔力と言うのは体内に血液と同じ様に流れる目には見えない魔法を使う為の力で、それが枯渇すると魔法を使用していた者はしばらく動けなくなってしまうらしい。
つまり、クンリはお荷物となったのだ。
「まあまあ、いいではないか。おんぶをする事でクンリの肌を背中で味わえるのだから寧ろ光栄に思うべきだ」
そうだった。ここに着くまで何処にも街が見当たらなかったから、クンリの服を調達出来ずに現在進行形で裸マントのままだったんだ。
見慣れ過ぎて完全に忘れていた。
しかし、そう言われてみればなるほど役得ではある。クンリの豊満な胸が背中で押し潰されて割とダイレクトにその柔らかさを堪能出来る。
「そーですよ。わざわざ御褒美を与えてるんですから文句言わないで下さい」
「…それもそうだな!」
「ひゃわっ!?」
少し調子に乗り始めているクンリに囁かなお仕置きとしておんぶしたまま手を彼女のお尻に持っていき、優しく揉みしだいてやると可愛らしい声で悲鳴を上げた。
「ななな、何するんですか!?馬鹿!変態!セクハラ親父!!」
「セクハラ親父はねえだろ!まだ一応20歳のつもりだぜ!?」
厳密には25歳だが。…未だに信じられないな。
「―――お楽しみのところすまないが…どうやらお客さんのようだ」
お互いに火が点く前にキリエが剣の柄に手を掛けて辺りを見渡す。
そう言われて、俺はようやくすぐ近くに何かの気配が迫っているのを理解した。
足音、臭いからして人間ではなく、獣だろう。
そして、こんなところに出るのは間違いなく魔物だ。道中にも何度か遭遇しているからこその根拠だ。
「俺達の体力も無限じゃないんだけどな」
「そこそこ知力のある魔物だろう。疲れているところを見計らって攻めてきたか…」
「上に登れば登る程、魔物の質が高くなっていますし、ましてやここは中腹…油断はしないで下さいね」
「お前が戦えたらもっと楽なんだけどなー」
「私なんか出る幕ないですよ」
「まあそうなんだけどよー…ほら、備えがあれば憂いなしって言うじゃん?」
「戦力外通告を受けました」
「そこまで言ってないぞ」
「言いました」
「言ってない」
「言いました!」
「言ってない!」
「言いま」
「そこまでだ!喧嘩してる場合ではないぞ―――そろそろ来る!」
キリエの制止の声で口喧嘩は終わり、俺は臨戦態勢に入る。
それと同時に現れたのは、岩を身に纏った狼の群れだった。中には二足歩行のボスらしき存在も伺える。
「«ロックウルフ»…頑丈な岩の鎧が特徴的な狼型の魔物ですね。何より厄介なのは硬い上に、速いとこです」
「そんでアイツが親玉って訳か…」
«ロックウルフマン»。ロックウルフを束ねる二足歩行の狼男的な魔物だ。
知能が高く、個体差で武器を持っている事もあるそうだ。
何故知っているのかと言えば、黒龍に大穴での知識を解放してもらったお陰でまるで元から知っているかの様に色んな情報を手に入れられるからだ。
ただし、地理関係は何言われても分からない。
方向音痴ってそう言うもんだろ?
「ウオオオォォォォォォォォォン!!」
ロックウルフマンの遠吠え。
それに連鎖してロックウルフ達も次々と遠吠えを上げていく。
もう日が沈み掛けてるし、暗くなるまでにこいつらを倒さなくては。
そう思考した矢先、ロックウルフ達が先制攻撃を仕掛けて来た。
「レイ!君はクンリを頼む!ここは私に任せてもらおう!」
「悔しいけどクンリを背負ったままじゃ俺も戦えない!頼んだぜ!」
「2人とも、遠回しにお荷物って言ってます?」
「んー、静かにしとこうなー?」
「む、ムカつきます…」
静かになったクンリを背に、防御及び回避に徹する。
俺は攻撃を受けても大丈夫なんだが、クンリは些か心配だ。怪我されても困るし、無難に受けに回るべきだろう。
飛び掛かってくるロックウルフの引っ掻きや噛みつきを回避しつつ、死角からの攻撃には光の盾でカバーする。
実はこの光、やろうと思えば多種多様な使い方が出来る。例えば鞭にもなるし、今みたいに盾にもなるみたいな。
「いい加減鬱陶しいな!」
「うむ。飽き飽きしてきたぞ」
「何か一気に吹き飛ばせるワザ無いんですか?」
「あるにはあるが…それでは君達を巻き込んでしまう」
「それなら心配すんな。俺がちょっくらひとっ飛びして避けてやるよ」
「決して巻き込まれてはくれるな?」
「誰だと思ってんだよ、俺は勇者様だぜ!」
「それは心強い。…では、行くぞ」
キリエが二振りの剣を鞘から抜き取って構えた瞬間、明らかに彼女の纏う気が変わった。
大気が震え、転がっていた石ころ達が宙へ浮かんでいく。
絶対に出てくる作品を間違えたであろうその光景を唾を飲んで見守る。ロックウルフ達も同様、その姿に怯んでいた。
「―――«四肆血慘»」
時が止まったと錯覚する程の4本の剣を使った神速の剣技。
四方に向けてほぼ同時に放たれた白銀の斬撃がロックウルフ達を無惨に斬り倒していく。
既のところで我に返って空高く跳躍した俺はその様を上空から目にして絶句した。
「マジかよ…」
目を向けられる程まともな死に方をしていないロックウルフの群れに巻き込まれる様に切られ、次々と倒れ行く木々。
そんな岩や大木をも切り裂く斬撃を受けて尚、未だ健在のロックウルフマンに対して、俺は思わずそう呟いていた。
紙一重で避けた、何とか耐えた…なんてものじゃない。ロックウルフマンは、全くの無傷だった。
「…このワザを受けて尚ピンピンしているとは。流石は親玉と言ったところか」
キリエの言葉に対してニヤリと笑った風にも見えるロックウルフマンは鋭く尖った爪を見せびらかす様にし、天に向かって吠えた。
闘争心剥き出しのその姿にキリエは少しだけ気圧されるが、攻撃の手が緩む程ではなかった。
「広範囲のワザで無理なら…単体に対して絶大な威力を誇る剣技、味わってもらおうか?」
「グルルゥァ…!!」
対峙する1人と1体。
先に動いたのは、キリエだった。
「―――――«閃葬」
キリエの剣技が放たれようとした瞬間の出来事だった。
ふと周囲が陰ったかと思えば、突如踏み抜かれた巨大な足によってロックウルフマンが潰されてしまったのだ。
一定の距離を保っていたキリエは助かったが、その大きな足の下から流れる血は明らかなロックウルフマンの死を告げていた。
「何だ!?一体何が…!」
これだけの巨大な何かが接近しておいて、微塵も気付かなかった俺は戸惑いつつもその正体を目視する。
見上げれば、そこにはゾウと呼ばれる生き物によく似た巨大な魔物が立ち尽くしていた。
「でかぁ…」
「«ガネイシア»…!ロックウルフマンとは圧倒的に格違いの魔物です!」
「どれくらい強いんだ?」
「歴戦の猛者クラスが束になっても勝てるかどうか分からないレベルです。こんな魔物まで居るなんて、流石神黎山…最も神に近い場所と呼ばれるだけありますね…」
想像以上に厳つい魔物が出て来て冷や汗が止まらない。
もし俺が勝てなかったら。
もし皆がやられてしまったら。
ありもしないタラレバが俺の不安を駆り立てる。
そんな内情はいざ知らず、ガネイシアは大きな鼻を盛大に持ち上げる。
「ぱおーーーーーーーん!!」
「いや勝てるぞこいつ!!」
不安なんて一瞬で吹き飛び、ガネイシアのクソデカい鳴き声で確信した。
こいつは弱い!勝てる!―――と。
被害が出る前に倒そうと俺が黒桜を手元に出現させ、構えた時だった。
ガネイシアの頭上から黒い影が落ち、轟音を響かせたのは。
「今度は何だ!?」
「―――――やれやれ。到着が遅いと思えば、こんなところで道草食っておったとはの」
一撃で即死したガネイシアの死体の上に立つ人影。
しかし、その人影は明らかに翼と尻尾を持っている様に見える。
逆光で見えないもどかしさにそろそろ腹立ち始めた頃、先に言葉を紡いだのは他でもない人影だった。
「ムム?…ああ、すまぬすまぬ!ちゃんと見えておらんかったのか!」
「よっ」と掛け声を出して飛び降りて来たその人影がいよいよ明らかになる。
2本のアホ毛が目立つ鳶色の長髪をふわっと靡かせ、紫紺の瞳でこちらを見つめる白いブレザーと黒いミニスカートを着た女性。
スタイルなんか肉付きが良く、特に胸には目を見張るものがある。
しかし、何より特徴的なのは側頭部から前方へ向かって生えた黒い角。
紫ががっていてやや小さいと言える控えめな膜状の翼。
翼と同じく紫がかった長く伸びた尻尾。
どれも普通の人にはないものばかりだ。
「人の子はこう言う時、自己紹介を初めにするのじゃったか?」
「え?あぁ、まあ…?」
「では名乗ろう。妾の名は«リリネシア・ランザグ・ウォーピア»!父上…テンペストドラゴンこと«グレイス・ランザグ・ウォーピア»の娘ぞっ!」
ババーン!と擬音が見えそうな勢いで名乗った自称テンペストドラゴンの娘、リリネシア。
また、変なのが登場した瞬間に俺は立ち会ってしまったのだった。
ゴリラのホイル焼き




