幕間13 レムネアと虎徹
レムネアちゃんと虎徹ちゃんのMMDモデルを配布中です。
* レムネア: http://seiga.nicovideo.jp/seiga/im6905919
* 虎徹 : http://seiga.nicovideo.jp/seiga/im6775663
「<雷牙>!」
「遅ェ!」
至近距離から阿呆みたいな速度で瞬時にキーワード発動された無数の雷精霊を俺は右腕の小太刀で一薙ぎして一旦小太刀の内部に吸収しておいて――、そのまま勢いを殺さず振り下ろしからの一動作で、その雷精をお返しとばかりにレムネアの持つ神鉄弓へ向けて叩きつけた。
「ふっふーん、無駄だもんねっ! ボクは雷神の使徒、風属性は効きませーん!」
「アァ、知ってるよ。――属性ダメージが入らないのはな!」
不敵な笑みを浮かべて、レムネアは右手で持つ神鉄弓に俺が叩きつけた小太刀からもう一度放射された、雷精たちの電撃を物ともせずに、全身を帯電させながら吸収してみせるが……。
「ふぁっ? ちょっ、何、この子たち元気良すぎっ、ぁぁんっ!?」
「俺の小太刀は『能力増幅型』だって言っただろうが! 油断しすぎにも程があるぜ!!」
言いながら、俺はレムネアの全身を覆って好き勝手に暴れて行動を阻害してる雷精から距離を取って、下がりざま、もう一度その勢いで後ろ足になった左足を軸にくるりと回転して――。
「<火種>――<炎牙>――<炸裂>!!」
「うっきゃぁぁぁぁ!?」
三種複合呪符から小太刀越しの発動で、俺の振り下ろしの一撃と殆ど同時に一瞬で全身と周囲を炎に包まれたレムネアが驚きの声を上げるが……、痩せても不死身の神器同士だ、それくらいで<状態固定>を貫けないのは解ってる。
だから。
「ったく、お膳立てするのに時間掛けすぎたぜ。――<火炎旋風>!」
炎と風の複合魔術、しかも呪符でキーワード発動だ。
「えっ、ちょっとちょっと、待ってコテ姉、服が燃えちゃうぅぅ?!」
「――別に俺しか居ねえんだからいいだろ? 見慣れてるし」
「そういうことじゃなくてっ、わぁぁぁん、せっかく新しい下着だったのにぃぃぃぃ」
なんかもう戦闘訓練どころじゃなくなったみたいなんで、俺は苦笑して適当に半裸のレムネアを抱き寄せながら全身を舐めるように付着してる炎の魔力を払ってやった。
「うぅぅぅ。38戦38敗」
「動きが速いのと苦手な距離がないのは長所なんだけどな。――射撃モーションがでかくてバレバレなのと、打撃が軽すぎ、動きが直線的なんだよ」
「むぅー。どしたらいい?」
女同士、盗賊ギルド支部地下の闘技訓練場に二人っきりしか居ないもんで、レムネアの方もそこまで恥ずかしがることはなく、両手で愛用の神鉄弓を抱えて口をヘの字に曲げて訊いて来るのが可愛すぎる。
「知るか。旦那に訊けよ?」
「タケミカヅチは基礎ばっかで応用教えてくれないんだもんー。コテツ姉に訊いた方が攻撃バリエーション増えるしー」
「アァ……、言われてみりゃ、タケミカヅチはそうか。アイツの目から見たら、俺らのやってるのは全部『小手先の技』だからな」
レムネアが婚姻済みの夫の欠点を言い募るもんで、俺の武技の師匠でもあるタケミカヅチとの訓練の様子を思い浮かべてみて。
「でもまあ、アイツの教える内容にゃ意味があるんだって、最近俺は解って来たぜ?」
「どんなの?」
「例えば……、そうだな、この小太刀の使い方、だけど」
片腕の俺は軽く右腕一本で握り締めた小太刀を振り下ろしながら……、その速度を変えないまま、斜めの振り下ろしから角度を変えてやや水平に、そこから回転を加えて更に加速、下からの振り上げに軌道を変えて、半裸のレムネアの眼前を薙いでみせる。
「相変わらず速いよね。神力も魔力も使ってないんでしょ?」
「使ってねえっつか、要らねえんだ。余計な力込めるとむしろ遅くなっちまう」
ひゅんっ! と空を斬らせてから、俺は小太刀を腰の後ろの鞘に一動作で納刀して。
「これな。全部、タケミカヅチから教わった振り方を『繋げただけ』なんだわ」
「……つな、げた?」
「アァ。――よーく思い出してみろ? ガキの頃からアイツに教わったこと、全部。弓もだが、体術も含めて」
「全部? うーん、多すぎて……」
「いや、多くねえんだ。至ってシンプルなんだよ。俺も、この小太刀持つまで誤解してたんだが……、体術でやるか。俺らはチビで女で軽いだろ?」
ますます混乱してる、って風に顔を曇らせたレムネアの前で、俺は右側を前にして軽く片腕のみで拳を作って、右半身の構えを取って見せる。
「うん。だから、殴っても蹴っても当てるだけで、それで倒すことは考えてないよ?」
「力を入れない打撃は速いけど軽いから、それも正解なんだが……、打つぞ?」
こくり、と頷くレムネアの腹に、軽く拳の先を瞬速でぱぱぱんっ! と三連撃して見せるけど、神器になったことで状態固定の防御圏が強く働いてるレムネアは、俺の打撃程度じゃどうにかなったりはしない。
「まあ、効かねえよな」
「そりゃね? コテツ姉には劣るって言っても、ボクだって不死身の神器になったんだから!」
「そうだな。じゃあ、こうしたらどうなる?」
言い切るなり、俺は剣道の踏み込みの要領で、後ろ足で思い切り地面を蹴って加速した勢いのまま、右足を上げて、地面に着地すると同時に体当たりみたいな状態で、縮めた腕を伸ばすタイミングをも一致させて、レムネアの腹にもう一度強い打撃を叩き込んだら……。
「わっ?! ちょ、ちょっとびっくりしたかな。でも、それくらいじゃまだまだっ」
「……でも、動いただろ?」
「そりゃ、そうだよ! 勢いあるから、ボクの体重じゃ受け止められな……い……?」
「気づいたか? 俺の体重はぶっちゃけちまえばオマエと同じかそれ以下だ。で、もう一回やるぞ?」
レムネアの返事を待たず、俺はさっきと同じ踏み込みから、今度は中間で回転の加速を加えて、更に勢いを乗せた拳を、レムネアの腹へ……。
ずどん!
「ふにゃっ?!」
「ひょろひょろガリガリのガキが打ったとは思えねえくらい重いだろ?」
「う、うん。でも、これ、タケミカヅチの教えた内容と関係、ある?」
「大アリなんだな、これが。――アイツが教えてんのは昔から、すげえシンプルなんだよ」
さすがに受け止めきれずに数歩後ずさった半裸のレムネアに、俺は上着を脱いで羽織らせながら、適当にその場にあぐらをかいた。
「今のは俺が打てるいちばん重い打撃なんだが……、こんどはそいつをさ、『威力を変えずに、打ち出しモーションを短縮して全体動作を速くする』って方向性に変えてやるんだ」
「んー? なんか、わかったような解らないような」
「タケミカヅチの教えを思い出してみろって。『極限まで無駄を省いた一撃がいちばん強い』つってたろ?」
「あー……、確かに、口癖みたいによく言ってるような」
「今、俺が最後に打ったのが対極の打ち方なんだって。踏み込みも回転も、アイツに言わせりゃ無駄の極地、だ。なんでか、分かるだろ?」
不思議そうに小首を傾げてたレムネアが、ひとつ大きく頷く。
「あ、それは分かる。あんな大きなモーションで打たれたら、当たる前に避けられちゃうもんねっ」
「じゃあ、避けられないようにするためにゃ、あれをどう変えたらいい?」
「んっと……、動きを小さく、速くしたり?」
「そうだ。威力を落とさずに動きを小さくして速度を上げりゃ、避けられねえ。もう一度、今度は手刀でやるからそこで見てな?」
ぽん、と軽くレムネアの頭を撫でて立ち上がった俺は、右手の手刀を竹刀に見立てて、片手面打ちの要領でどんっ、と大きく振り被って、踏み込みと同時に振り下ろす。
「横から見てっと分かるだろ? これは『避けられる動き』な」
「うん、分かるー。振り被ってる間に懐に入られたりでもしたら、振り下ろせなくなっちゃうし」
「じゃ、次が『避けられねえ動き』だが」
後ろに下がってさっきと同じ位置に立った俺は、大きく振り被る予備動作なしに、そのまま手刀を斜め上に突き出すと同時に踏み込んで、その勢いのままに手刀を振り下ろす。
「まあ、分かりやすくするってことで簡単にだが……、解ったろ?」
「……あっ!」
どうやら理解したのか、慌てたようにレムネアは愛用の神鉄弓を片手で振り回し始めて。
「解ったよな?」
「解った! コテツ姉の動きって、予備動作と攻撃動作が合体してた!」
「そうだ。そりゃ、タケミカヅチがいつも言ってる『無駄な動作をなくした』ってことで」
興奮してるみたいに神鉄弓を一見めちゃくちゃに振り回してるそれを軽く手刀で側面を打って軌道を逸らして躱して、俺はその手刀を振り下ろした勢いのままで、軽く回転してレムネアの喉元にとんっ、と当ててやる。
「こうやって攻撃でも回避でもいいんだが、動作の終わりを次の攻撃の開始に繋げてやったら、相手より半手や一手速く自分が攻撃出来る。『無駄な動作をなくして速く撃つ』ってやつだな」
「……んー、解ったぁ! コテツ姉、凄いっ! ボク全然解らなかったぁ!!」
「アァ? 俺じゃなくてタケミカヅチがすげえんだよ。アイツ、ガキの頃からこればっか教えてたのに俺らが全然理解出来なくて、歯痒かったんじゃねえのかな」
タケミカヅチに教わり始めたのが12の頃だから、もう俺は15で……途中で一年寝こけてたけど――、こんだけ時間掛けてやっとステップひとつ上がれた、って、どんだけ出来の悪い生徒だよ、って感じだよな。
「っと、そういやその、タケミカヅチはどこだ? これで正しい理解か訊きたかったんだが」
「っあー、ボクの夫ってことで、ボクがここに居るってことは、当然夫は妻の代わりに、お披露目とかのお仕事に……」
なんか明後日の方向を見つめてすっとぼけるレムネアをじっと見つめておいて。
表舞台は疲れる、ってこぼしてた先日のタケミカヅチの表情を思い浮かべて、俺は苦笑を返すしかなかった。
タケミカヅチが頻繁に表舞台に呼び出されるのって、娘を嫁に取られたハインの意趣返しなんじゃねえのかな、とか考えながら。




