表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら王になれって言われました  作者: 澪姉
第三章 動乱篇
86/116

70話 足止めされちまったぜ

「……いや、まあ、目的はハッキリしてっけど……、言われてみりゃ、確かに急ぐ旅じゃねえし」


「そう言って貰えると助かる。では、皇都で勢力を広げる勇者たちの勢いを削ぐことを優先すること、でいいな?」


 にこにこと相変わらずの腹の中の読めない笑みを絶やさないままで、念押しするように告げるハインの言葉に、俺は軽く頷いてみせた。


「まァ、仕方ねえわな。つーか、オマエもここで足止めされてるとは意外だったぜ」


「自分でも予想外だったがね。国境方面軍との折衝はカスパーンに任せてみたが、調子は芳しくない」


 中庭にぽつんとひとつきりの日傘付きテーブルを挟んで、俺とハインはお互いに、椅子に横座りでなんとなく夜空を見上げてハーブティを啜ってる。


 ……いくらなんでも15年も見続けてりゃもう慣れたとはいえ、相変わらずの二つの大小の月が夜空に見えてる、って光景はここが確かに異世界なんだ、って思わせるには十分すぎるよな。


「……戦争が激化する、ってことか?」


「そうなるだろうな。国境紛争はオレが生まれる何十年も前、帝国創成期から続く異種族間抗争だからな。そして、紛争が激化すれば……」


 軽く頭を振って、ハインは俺から視線を外して横目で大きく満月に輝く月に目を向けて、言葉を続けた。


「この先の、北の国境要塞エメリアスと、南のジェリトの街は帝国軍直轄地だ。軍人以外は通行が制限される」


「なんでまた急に、その、紛争相手、国境の向こうの異種族……、つまり、非人間族な亜人たちが勢いを盛り返したのか、ってのは解らねえのか?」


「そこが頭の痛い問題でね。――同じ異種族、亜人であるエルフのシルフィンとシフォンが密偵希望で、精霊術での樹木や水面を介して国境を無視した次元移動が出来るので、調査をお願いしたのだが……」


「……失敗した、って言ってたな、そういや」


 冷気の魔法陣が付与された、ハイン持参の特製魔法ティーカップに乗せられてたカップを片手に、ふぅっ、と軽く表面に息を吹きかけるハインの様子を横目で見て、少し笑っちまう。


 ――冷たいもんだと解って手に取ってんのに思わず息を吹きかけて冷まそうとする、って俺もよくやっちまうんだけど。


 この世界で生まれた生粋の異世界人なハインだって同じことするんだな、ってな。


「ん? ……今の息はより良い香りを吸い込もうとするための所作で、冷まそうとしたのではないぞ?」


「下手な言い訳、乙。……シルフィンとシフォンが失敗した、って話だったら、それ――、『敵方への潜入が厳しくなった』って意味じゃねえのか?」


「……ご明察だ。それで、オレも困っている」


 少しだけカップの中身のハーブティを口に含んで、かちん、と小さな音を立ててカップをまた冷却皿に戻したハインの、そのカップの様子に注目したら。


 みるみるうちにカップは冷気に包まれて、皿の周囲に霜が降りてくのが観察出来た。


「便利だよな、その皿? 売り出す予定、ねえのか?」


「これか? これはまだ非売品だな」


 この話になる前もずっと、真面目な話が続いてたもんで、いい話題変更の題材が出来た、って感じでハインが話に乗ってきた。


「付与魔法陣の種類をいくつか試作しつつ温熱用と冷却用を作ってみたのだが、それなりに使用者の魔力を吸うものでな。現在は必要魔力量の削減を課題にしているところだ」


「はあん? それ、開発にシンディが関わってたんだろ?」


 目下の俺の目的にも沿う話題だ、って気づいて、俺はそこんとこをつついてみた。


「アイツが居なくなって、いろいろ盗賊ギルド関係の商品開発事業が止まってると見たぜ?」


「……ご明察、だ。『コテツ嬢』は頭の回転も素晴らしくいらっしゃる、我が盗賊ギルドの幹部の座を進呈して差し上げたいくらいだ」


「『盗賊王』に置かれましてはこのような下賤の輩を配下に組み入れようなどと、おこがましいにも程がありますよ。……冗談だって解っててノッてやったのに、なんだよそのギョッとした眼差しは」


 本気でびっくり目になってるハインに苦笑を向けて、俺のティーカップに口付けるけど。……なるほど確かに、『使用者の魔力を吸って冷却するティーカップ』な。


 常時魔力ゼロの俺のカップは、気温と同じで生温かった。


「いや、コテツの口から、その銀鈴のように美しい声色で、貴族の令嬢と同じような(へりくだ)った言葉が出て来ると……、まるでここが皇都皇城の中庭であったかのような誤認識をしてしまう、というか」


「こんな不細工な女の、妙に甲高いばっかの変な声でこんな喋り方してたら違和感全開、っつーんだろ。解ってんよ」


「――コテツとは一度、じっくりとその外見や声色に関して議論というか、現実的な認識を教え込まねばそろそろ不味いのではないか、と思い始めて来たところだ」


 ……なんで今更、俺の容姿をじろじろと注目してんだよ?


 つか、レムネアやシンディ、サーティエやレイメリアたちとかと比較したら踏みつけたくなるくらいの不細工だって自分でも解ってんだから、容姿や声についちゃノーコメントだ、っつーの。


「まァ、そりゃ今はいいわ。目先の話だよ。――オマエ、今はどこに拠点あるんだ?」


「……これはお世辞でも何でもなく、オレはコテツをギルド幹部に据えたいし、その容姿と声は絶世と言って全く過言ではないのだがな。――信じて貰えないのは人徳の差か?」


 ぶつぶつとさっきの話を繰り返すハインに催促するようにわざとテーブルの上をこんこんっ! と音を立てて強く爪先で叩いたら、ハインは失笑して前髪を軽く掻き上げつつ、話を続けた。


「先程言っただろう? 『ここに足止めされている』と。こことは反対側にある外壁付近の高級邸宅を買い上げて、ギルド支部にすべく改修中だ」


「改修内容は外壁を素通りする地下の隠し通路や、秘密の隠し部屋やムギリやシルフィン、シフォン用の精霊術使ったテレポート場所の設置、とかだろ」


 もうこの会話中で何度ハインが口にしたか解らねえ『ご明察』、って単語を言うかと思ったら。


 ハインは軽い笑みを浮かべつつ、優雅にぱきん、と指を鳴らして、テーブルからずっと離れた場所に控えてたアユカとアウレリアたちを呼び寄せた。


「これはコテツの発案の菓子だそうだな? これを、この消費魔力が多すぎて使い勝手の悪い冷却魔法皿と合わせて、この街で製造し売り出そうと思っている」


「アァ、アイスクリームな……。魔法陣冷凍庫も同じように一般人相手にゃ魔力の消費が大きすぎて一般化してねえ、っつか、ほとんど俺ら神族専用みたいになっちまってっからな」


 どうやら出番を待ってたらしいアユカがぱたぱたと尻尾を振り振りしながら、手際よく俺とハイン用に少し大きめの冷却皿に乗せた半円状のミルクアイスを差し出して来るのがマジ可愛い。


 ――ほんとはバニラアイスを作りたかったんだが、バニラエッセンスがまだこの世界じゃ作れてねえんだよな。


 一応、卵白のホイップクリームを凍らせたりしたりしていろいろ試作品作ってみたけど、いちばん味わいが良くて大量生産が効くのがミルクアイスだったんで、アユカが張り切って日夜作り置きしてくれてんだ。


 とかいろいろ考えてたら、どうやらハインの思惑は違った方向だったらしくって。


「――そこだよ。魔力消費が大きすぎて冷却維持が面倒、ということは、雇用の大量増員が見込める。多く魔力を必要とすればするほど、交代人員が多く必要になるからな?」


「……なるほどな。金は幾らでもあるんだから、雇用を増やせば街に落ちる金が増えるんで、街の領主も住人もどっちも喜ぶか」


「そうだ。それに、冷却を維持せねば溶けてなくなる『街の中限定の食物』という部分も大きい」


 言葉を切って、アウレリアたちが三人がかり取っ手を掴んで持って来た、少し大きめのムギリ特注の金属冷凍庫をどすっ、と音を立てて俺とハインの正面に置いて、その扉を観音開きに開いたら。


 中には、色とりどりの果汁アイスが冷凍されてた。


 ……こりゃ、魔力無尽蔵な神器になったレムネアの魔力で遠隔冷蔵されてるやつだな。


 アイツもインダルトと同じで子供味覚全開っつか、甘いものに目がねえからなあ?


「アユカ嬢とコテツがまだ試作中という果汁アイスだな。これらは、街に人を呼び込む主力商品と成り得るし、味の方も既存の氷菓子と比較して、貴族用菓子と遜色ないからな」


「既存の氷菓子って、単に雪や氷に砂糖混ぜただけで、味っつったってそれ砂糖だけの味で食感とかあったもんじゃねえからな。そりゃ、比較にもならねえだろうよ」


「まあ、それはそうなのだが、『既存のものと同様だが、より美味しい』というのが、貴族の胃袋を掴むには最適ということだ。……彼らは非常に保守的で、庶民と同様のレベルのものを食することを嫌う高いプライドを持つからな」


「……ははあ。ミルクアイスを庶民用、果汁アイスを貴族用で分ける、ってか?」


 俺の指摘に、ミルクアイスを蒼銀(ミスリル)製の超熱伝導スプーンでするっ、と溶かしながら優雅に口に運んだハインは、にやり、と笑ってみせた。


「少し違う。庶民用を店頭販売のみ、貴族用をこの冷凍庫、蒼銀(ミスリル)製熱伝導スプーン込みで買い取り専用提供として分ける」


 もう一度ぱきん、と指を鳴らしたら、アウレリアたちが冷蔵庫の中身の果汁アイスを器に移して、俺らの方に運び込んだ。


「これらも元の果汁の味が濃縮された、かなり贅沢な味わいになっているな」


「果汁の方はアイスっつーよりはシャーベットなんで、長時間冷凍庫で放置してると固まっちまう、っつー難点があるから、ほんとは貯蔵向きじゃねえんだよな」


「『魔力を莫大に消費する冷凍庫に保存しなければならず、それでいて、何時間かおきに必ず取り出してかき混ぜなければ美味しさと食感の双方が同時に失われる』という手間の掛かりっぷりが、金の浪費に慣れた貴族向け、ということだよ」


 今度こそはっきりとイタズラっぽい笑みを浮かべたハインの表情で、俺は、コイツが何を目論んでるのかが解った気がして。


「庶民は盗賊ギルドに雇用されて儲けをどんどん出して、その一方で貴族は輸送、冷蔵、保存で金をどんどん浪費するわけだ。……同じ食物一種類で」


「良い方策だろう? 盗賊ギルドの株は上がり、民衆は富み、その一方で帝国は貨幣を浪費して貴族の力が衰える。――貴族の浪費の加速は、そのまま国力の浪費だ」


「……悪い顔してんなー、おっさん」


「……まだ33歳だ、おっさんと呼ばれる年齢ではない」


 瞬時に悪そうな笑顔を消して、きりっ! とか表情を引き締めたその横顔は、確かに精悍そうで格好良くはあったんだけど。


「結婚してもう妊婦な15歳の一人娘居て、なんでおっさんじゃねえとか思い込んでんだよ? レムネアが子供産んだらオマエ、おじいちゃんだぞ?」


 って俺の言葉で、一瞬でなんか落ち込んだ顔になったのがまた、何とも。


「娘が結婚した、それは嬉しい。その相手が、最強武神と言って過言ではない武の神にして雷神タケミカヅチだ、それも嬉しい。――しかし、いくらなんでも、妊娠が発覚してから結婚、という流れはどうにかならなかったのか、とな……」


「ご愁傷様、だ」


「普通、結婚に至る前に、付き合う報告とかなんかそんな感じのイベントがあるものだろう? 相手の男に叩きつける言葉とかいろいろ試案があったのに、『神の妻になる』などは完全に想定外だった」


「玉の輿じゃねえか。おめでとさん、だ」


「玉の輿と言えばそうだろうが、将来的にはあの子が望めば、帝国皇后になる道筋も用意してあげられたというのに……、結婚以前に神器契約で神族に成るなどと、予想外にも程がある」


「ある意味不老不死で時間が止まっただけなんだ、俺と違って解除出来るかもしれねえし、諦めねえこった」




 レムネアは生まれついての神器な俺と違って『途中契約者』だからな?


 シィがシンディから持たされた契約術式で契約した、んだけど。

 ――『契約期間中だけ神器の恩恵が受けられる』って術式に縛られてる状態なら、『契約解除、神器解消』ってやり方もあるはずなんだよな。


 レムネアの場合は、元がすげえ虚弱体質だったのが解消されたりってメリットの方が大きいから、神器契約解除、って選択肢は全くねえみたいだけど。


 ひとつだけ難点って言えば難点なのが、妊婦状態で契約したから、契約期間中は強力な状態維持が効いてるし、それで腹の子がずっと生まれないかもしれない、って懸念があるくらいか。


 でもまあ、産みたくなったら契約解除すりゃいいんだし……、そこら辺を考えるのはレムネアとタケミカヅチの二人の問題だ、俺らが口を挟むことじゃねえ。


 ……そういや、こりゃシィの『お役目』にも関係してるんだったな。もしかして、亜人の勢力増大にも関係してんのか?




 とか俺が考えてる間にも、延々となんか鬱憤が溜まってたのかぶつぶつと呟き続けるハインを横目に、俺はミルクアイスをスプーンで多めに掬って、すぐ脇に控えてたアユカにあーん、してやる。


 アユカが少しだけ人目を気にしてかきょろきょろと周囲を見回して、おずおずと跪いて口を開くのがまた可愛いんだぜちくしょー。


 このまんま小脇に抱えてベッドインしたいとこだ。


 ――いや、くすぐって遊ぶだけだぜ? 成熟しまくってるつっても、中身まだ三歳程度の犬耳美少女相手に最後まで教え込むとかそんな、女同士だっつーのに、エロゲみたいなことはやらねえよ。


「ふう。まあ、確かに、オレが悩んでも仕方のないことか。愚痴に付き合わせて、済まなかったな」


「俺とオマエの仲だ、愚痴くらいは聞いてやんよ。――お互い、『帝国にガチ喧嘩売る』って仲なんだからな」


 言ってるこた物騒なんだが、ハインと俺は世間話みたいに軽く笑いあって、残りのアイスを口に運びながら、その後のこの街での動き方、連絡方法なんかを確認し合って別れた。




 ――足止め食らったってな、確かに痛いが……、逆に言えば、貴族や帝国の力を削ぐことが勇者のダメージに繋がる、って考えりゃ、水面下の戦いに参加した、ってことでもある。


 皇都で孤軍奮闘してるインシェルドやレイメリアの手伝いにもなるんだろうし、ずっと任せっぱなしで悪い気がしてたから、恩返しに動いとくのも悪い話じゃねえよな?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ