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転生したら王になれって言われました  作者: 澪姉
第二章 冒険篇
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44話 俺以外全員悪食だったんだ

「で、まあ、俺が作っといてなんだが……、旨いか?」


「おいしー!!! すごいよ、ここ最近で食べた中でもかなりの甘味!」


「すげえ旨い! いい嫁になれるぜ、お前!?」


 俺の問いかけに、もりもりと喰いまくってるレムネアとインダルトがそんな風に満面の笑みで答えて来たけど。


 ……口の中からちらちらと『アブラムシの一部分』が見えて、自分で調理しといて何だが、俺はかなり引きつった笑みを浮かべてドン引きしちまった。


「少し甘みが強く子供向けの味ですが……、栄養補給食材としては申し分なさそうですな」


「塩や薬味混ぜるよか、『素材そのものの味』の方が喰いやすいかと思ったんだよ」


 ハダトさんの感想にそんな風に答えておいて、他の兵隊さんたちの歩きながらの食事風景も目の端で眺めてみたけど。


 ハダトさんほか、レムネアやインダルトたちより少し年配の大人の兵士さんたちはそこまで暴食してないものの、それでも普通の一人前分くらいは食べてて。


 ――なんっつーか、俺は固形物を食べられない人形の身体で良かった、と、胸を撫で下ろす思いが全開なんだよな。


 ……『アブラムシの油焼き』なんて、元の世界じゃ正直、俺の常識じゃ『ゲテモノ』の扱いだったし。


「神の国では虫は食さないのですかな? っと、元々神酒しかお召しにならないコテツ様にこれは愚問でしたか」


「ああ、『(クニ)』じゃ食ったことなかったな」


 ハダトさんがどこから取り出したんだか、丁寧に――恐らく愛妻仕様の――刺繍入りのハンカチ取り出して口元を拭いながら俺に尋ねてくるんで、俺も曖昧にそんな風に答えておいた。


 ……どうも、『異世界』って概念が人によって理解に違いがあるみたいで、な?


 人間離れした俺と一緒に成長したエルガー。


 タケミカヅチと一緒の家で育って、親子とか年の離れた兄妹みたいに育ったレムネア。


 俺が生まれる百年以上も前に女神のシンディと出会ってるシルフィンにシフォン。


 鍛冶神ヒトツメに弟子入りしたムギリ。


 ……っていうパーティの仲間たちは、まあシンディがときどき空間曲げてるのを実際に見てるのもあるんだけど、『この世界とは別次元の、神々が住む別世界があること』を理解してるんだが。


 ハダトさんほか、兵隊さんたちや町の住民たちの殆どが『大陸のどこかに神族が住んでる国がある』と思い込んでるっぽくってな。


 ――まあ、一口に大陸全土、つってもアメリカとオーストラリアとヨーロッパとアフリカ足したくらいの大きさある単一大陸が存在する世界なんだし、そういう理解でも別に問題ねーか? と思って深く説明してねえんだけども。


「なんだよ、好き嫌いか、コテツ? そんなんだからちびっこいまんまなんだぞ、お前?」


「っ!! 余計なお世話だよ、ほっとけ!」


 急に俺が声を荒げたんでインダルトがびっくりして引いてるけど、ちょうどそれ気にしてるっつか、もしかして兄妹内でいちばん背が低くなるんじゃねーかって危機感抱いてるとこなんだからよ!


「にしても……、虫って普通に食うんだな?」


「コテツは都会の生まれか? 田舎の農民にとっちゃ、昆虫はご馳走だぞ? 苦虫以外は大抵甘いし、食いでがあるからな」


「苦虫って実在するのか……、そっちの方が俺にゃ驚きだが」


 インダルトの答え方からして、どうやらコイツも家は農家みたいだ。


 奥に進みながら、ハダトさんに内部で何泊かするかもな、って話したら、水は魔法で出せるけど食料の確保が問題だ、ってことで、食べられそうなもんを探す過程で。


 兵隊さんたちの中から『焼けた虫って食べられるんじゃないか?』って意見が出て来たんで、とりあえず調理担当の俺が毒性がないのを確認した上で、食べられそうな感じに盛り付けしてみた、んだが。


 地球で同じ盛り付けしたら強面の兄ちゃんでも裸足で逃げ出すだろ、ってレベルで、ごっついムシムシしてる虫料理になっちまってなあ。


「つか、体内に油含んでるのはあんだけよく燃えてたから解ってたことだけど。――糖分ばりばりなのはびっくりだったな」


「ちょっと身が少ないけど、油が焼けた塊がすごく美味しいよ? ほんのり焦げ味がなんか食欲そそるの」


「っ、ああ、『カルメ焼き』だな、そりゃ。簡単に言や、砂糖水を焼いてふくらし粉で固めたもんだ」


 言いながら、どうやら幾つものポーチにそればっか突っ込んで確保したレムネアが手づかみでもりもり食ってる様子に苦笑して、俺は手拭いで顔のあちこちを食べカスで汚したレムネアの顔を拭いてやった。


「虫が体内で生成してる油が、めっちゃくちゃ糖度高いんだよな。だから焼けたら砂糖が焦げた匂いがすげえし、身も砂糖焼きみたいに甘くなるし……、虫の肉の一部が重曹みたいな性質あるんで、混ぜて焼いたらだいたいそうなる」


「それに、虫自身が放つ香りも引火性がかなり高いようでしたな。先程も、炎に直接触れていない虫の群が発火しておりましたし」


「あの混乱の中でよく見てたよな、ハダトさん?」


「そうでなくては、こいつらの世話など出来ませんよ」


 何しろ、少し目を離すと何をしでかすか解りませんから、なんて続けられて、俺は愛想笑いするしかなくて。


 もしかして俺も、学生の頃は先生たちにこんな風に思われてたんじゃねーのか、なんて思うと、愛想笑いしながら背筋に冷や汗をかくレベルだ。


 頭悪くて体力莫迦を地で行ってたからなあ、小中高全部。


 スポーツ特待生でなんとか莫迦な頭でも大学進学出来て、その体力検査の途中で『ただの体力莫迦なんじゃなくて、遺伝子レベルで人外なんじゃねーのか』って疑惑が出て来て、そんで検査と研究で専門施設に行くことになって……。


 ――いや、思い出して楽しい話じゃねーし、やめとこ。今は、探索が先決だ。


 ハダトさんの言う通り、こいつらをきちんと面倒見ねえと。


「まあ、当面の食料が確保出来たというのは良いことでしょう。何日掛かるのかは解りませんが、最終目標は全階層制覇ですし」


「……あれ? 財宝は目的じゃねえの、兵隊さんたちって?」


「給与を得て特別待遇として軍属している身分ですから、兵士の任務中の略奪は固く禁止されております」


「へえ? てっきり、財宝目的で潜るのかと思ってた。……いや、最初に訓練の一環、って聞いてたけどさ。ほんとにそれだけが目的なんだな?」


 意外なことに、ハダトさんの宣言みたいな言葉に、後ろに続いてる新兵さんたちもうんうん、って頷いてて。


 なんつーか、新兵、って単語で一括りにしちまってたけど、職業の誇りっつか、そういうのが既に備わってる感じでど素人、って扱いしてたのは改めねーとな? なんて、それを聞いて俺は思った。


 こりゃ単に「探索が初めて」「普段の任務と違うから戸惑ってる」ってだけなんだろうな? さっきの退避行動だって、きちんと集団行動してたし。


 ――昨日今日入軍していきなり迷宮に突っ込まれた可哀想な軍人志望の元農民、じゃなくて、きちんとそれなりの軍事訓練が終わってる、ただ他の軍人と比較して経験値が低いだけの集団、なんだろうな。


「……上のお達しで突然決まった話ですので、選抜メンバーとの顔合わせもそこそこに合流しましたからな、そのように思われるのも無理はありません」


 そんな感想をハダトさんに伝えたら、そんな答えが返って来て。


「新兵という呼称が紛らわしかったですな? こいつらは実戦の経験値で言えば確かに新兵集団なのですが、殆どが街で警備その他の軍務に就いて数年以上が経過している兵士たちでして……」


「『各隊から一番経験が浅い、戦場に出たことない人たちを選出して組織された隊』って、さっきおじさんたちが言ってた!」


 相変わらずもりもり口いっぱいにカルメ焼きを頬張ってるレムネアが、急に口を挟んで来て。


「ああ、なるほどな? だから『新兵』なのか。実戦経験がないから」


「このところ西の国境付近での紛争が小競り合い程度まで縮小傾向ですし、街周辺の治安もそう悪いものではなく、兵士が『実戦経験を積む機会がない』というのが少々頭痛の種になっておりまして……、その経験補填、という実験的意味合いもあります。しかし」


 ひとつ言葉を切ったハダトさんが、少しだけ声を低めて。


「……どうやって選出されたのか経緯が全く不明なのですが。インダルトだけはどうやら、正真正銘の新人兵士らしく――、奴だけが現在のところ、要監視対象、でして」


「なんとなく気づいてた。言葉遣いとか、貴族職にしてはなんか、ざっくばらんすぎるし」


 アドンやサーティエなんかが傭兵軍人で、ハダトさんやエルガーなんかよりひとつ下の階級になるらしいんだけど、それでも軍人ってことで一応傭兵騎士の貴族階級になってて。


 そんで、そういう場やそういう相手にはそれなりの対応を求められるから、っつーんで、一応最低限の傭兵儀礼や不文律、傭兵ならではの動き方みたいなもんは元々傭兵村だったシャトー村でも教わってたし。


 ……でも。インダルトの物言いや態度ってのは、街でよく見る普通の子供然としてて、そういう教育や戦場の動き方なんてのとは無縁だと思うんだよな。


「……今まで以上に、俺らのそばにしっかり付けて保護した方が良さそうだな、こりゃ」


「面倒事を押し付けてしまうことになってしまい、誠に申し訳なく思います」


 他の新兵たちに見られてっからあからさまに頭は下げらんねえんだろうけど、目配せして来たハダトさんに、俺もそれだけで返して、少し後ろでレムネアにあれこれ世話焼いてるインダルトのことをちらっと見て。




「さーあ、次に出て来る敵はどんなお味なのかなあ? ボク、なんかすっごい楽しみになって来た!」


「……ちょっと待て、オイ、そこの可愛い妹? 目的変わってんぞ?」


 そんな気の抜ける会話を繰り返しながら、俺たちは迷宮第一階層の更に奥へと進んだ。



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