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転生したら王になれって言われました  作者: 澪姉
第二章 冒険篇
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37話 壁ドンされたんだ

とうとうキーワードにツンデレとラブコメを追加してしまったなど。

「だから、僕のことは気にしないでいいんだよ?」


「つっても、なあ? ほんとに気にしないのかよ、オマエ?」


 念を押すように、そんな風に問いかけても、エルガーは苦笑を浮かべるばっかでさ。


「それで姉さんが堂々と街を歩けるようになるんだったら、僕としては嬉しい限りだ、ってさっきから言ってるのに」


「つっても、よぉ? ……そりゃ、『盗賊ギルドマスターと婚約』なんてネタだったら、日頃から陰日向で盗賊ギルドに世話になってる街の住民も納得するのかもしれねえけどよ」


「そうだよ? だから、受けていいんだってば」


「……なんだよ。オマエの愛情って、そんなもんかよ。昨日はあんなに……、だったのに」


 ちぇっ、なんて舌打ちしてから、なんで俺はそんな態度になったのか自分でも解らねえまんま、なんだか無性に不貞腐れて目線を落とした。



 ――初冒険が終わって、もう三ヶ月も経つ。


 持ち帰った財宝は全員で均等に山分けしたけど、……持ち帰り切れないくらいに大量にあったんだよなあ。だから、かなりの量を置いて来ることになってさ。


 でも、俺は財宝に未練はあんましねえんだけど、あのラスボスのヒドラが迷宮に入るたびに再湧きするんだ、って解ってから、相打ち、なんて恥ずかしい仕留め方しちまった最初の失敗を繰り返さないために何度も『水と炎の遺跡』にゃ潜ってんだけど。


 考えてみりゃ、あれだけの強さの魔物と戦うのは初だったのもあるが……、たぶんシンディが後で『設定』をいじくったんだと思うが、水の方も炎の方も、やたらそれぞれの属性精霊が攻撃して来る厄介な遺跡に変わっちまって。


 噂を聞きつけて迂闊に入った財宝狙いの人間が何人も未帰還になっちまう危ない遺跡に変貌しちまったもんだから、カスパーン爺さんがとりあえず迷宮入り口に詰所作って封鎖しちまって。


 そんで、盗賊ギルドマスターのハインの方で入る人間を審査する入場制限をやることになったんだよな。


 そういう、軍属以外の民間人を審査するのに、傭兵を組織内に多数抱えてる盗賊ギルドが適任だ、って話になって。


 つーか、アイツ……、なんか企んでるのは薄々解ってたけど。


「なんでいきなり俺を婚約者扱いするなんて決めやがんだよ……、ネタじゃなかったのかよ」


「ネタっていうか、今まで裏社会で有名だった盗賊ギルドが表の世界に出て来るのに姉さんたち神族の存在を利用する、って政略的な意味はあるんだろうけど」


「そりゃ、俺だって解ってるっつか、ハインだってあんまし隠してなかったけどよォ?」


「だから、こちらにとっても割りのいい部分、っていうか――、姉さんの街での行動の自由を確保する意味じゃ、いい提案だったと思うよ」


 そんな風に俺と会話しながらも、日課の朝練での素振りは止めなくて。


 邸宅の中庭なんで外の日差しが差し込むのがちょいと遅めになるんだけど、それでも――、朝焼けの暗がりの中できらきら光る汗を散らす向こうに見えるコイツの姿が、どうしようもなく艶かしくて、なんか、直視出来ねえ。


「まァ、婚約、ってだけで、俺の結婚相手は……、あー、なんだ、その」


「僕が先約だからね? そこら辺も考慮済だと思うよ、きっと。逆に言えば、社会的に重婚が許されてるって言っても、いつか、それなりの時期にそれを公表して婚約破棄するつもりじゃないかな」


 ふと、何か思いついたように言葉の途中で苦笑を浮かべたエルガーが、一言。


「……お盛んみたいだし」


「アァ。アイツ、レムネアの父親なんだったな……」


 今は心臓が弱っちまって、現役退いて長いんだけど、そのレムネアの母親のレイメリアが、現役の傭兵時代にハインとの間に作った子供がレムネアなんだってな。


「つか、心臓が弱くて運動があんまし出来ねェから、って普段から引き篭もってたレイメリアが現役傭兵時代は『神弓』の異名を取った弓使いだった、って話もびっくりだったけどな」


「だよねえ? 『長時間運動が出来ないから、遠くから一撃で倒す武器に特化した』なんて言ってたけど、……限度ってものがね」


 ほんのちょっと前までレムネアとレイメリアが暮らしてた邸宅内の大部屋の方を眺めて、俺たちはどちらからともなくため息をついて。


「新しい住居で親子水入らずやってんのかね?」


「レイメリアさんが身分を気にして身を引いたから、ハインさんの方は身分を捨てて迎えに来た、……なんて美談になってるけど」


「……ぜってー嘘だ」


「それには同意」


 俺の言葉に強く頷くエルガーが。……だってなあ。アイツ、どう考えたって『遊び人』なんだもんなあ。


「でもまあ、離れて暮らしてたレムネアとレイメリアさんを大事にしたい、っていうのは本当みたいだったし」


「レムネアが生まれたことすら知らせてなかったレイメリアの方も徹底してるっつか……、ハインって、そんなに身分高かったんだな」


「詳しくは言えないらしいけどね」


「まァ、レムネアを泣かせたら俺が潰すからよ」


 何しろ、俺の最愛の妹だからな、なんて続けたら、僕の妹でもあるんだよ? なんて一緒になって続けたエルガーが居て、どうやらこりゃ、俺たち姉弟の誓いみたいなもんらしい。


「盗賊ギルドと言えば。シンディさんの就職は順調なのかな?」


「アァ? アイツあれでも計算の神だからな、事務仕事どんと来い、みたいだぞ……、って、莫迦野郎、脱ぐなら一言言えよ!」


 エルガーの声にふと目を上げたら、汗でびっしょりになってた短衣(チュニック)を脱いで、すげえ逞しく汗に濡れてる上半身を露わにしてたもんだから、俺は凄え勢いでそっぽを向いちまった。


「……今更? 『昨日全部見た』でしょ? それに、子供の頃から一緒にお風呂だって入ってたのに」


「うるせぇっつか、歳を考えろよ、オマエもう、来月で14だろ!」


 エルガーの笑いを含んだ返事が憎らしいっつか、コイツ、ハインにでも教わってんのか、それか本気で遊び人の気があるんじゃねーのかよ?


 なんでそんなに女の扱いに慣れてんだ、っつの!


「でも、思い切ったよねえ、ハインさん? 盗賊ギルドの存在を表沙汰にするのに、迷宮の財宝で街を豊かにするのと、姉さんたち神族の情報で『神に祝福された街』なんて施策を進めるとか、ねえ?」


「……ああ。ありゃシンディと取引した結果、っつか。シンディの方でも迷宮探索に慣れてないど素人が無謀に突っ込んで死にまくるのを観察しても何の得にもならねェ、ってことでな」


 エルガーが俺の出した<水球(ロルン・コロン)>の水を使って朝練の汗を流すのをちらちら見ながら、そんな返事返したけど。


 ……なんでこんな動揺しまくってんのか自分でも全然解らねえけど、男の裸なんて前世で見まくってたはず、っつか自分の身体で飽きるほど見てたはずなのに、なんでかコイツの身体だと思うと直視出来ねェし。


「ああ、そうだったね。『冒険者』を登録制にするんだ、って言ってたよね」


「オゥ、それで魔法加工した『冒険者カード』を発行するんで、それの下準備で魔術式の達人なシンディがずっと盗賊ギルドの仮本部に入ってんだよ」


「最初はカスパーン卿配下の軍人から募るんだって?」


「俺らが置いてきた財宝の残りも魅力的なんだろうし、奥まで行かなくたって、地上じゃ滅多に出くわさない魔物戦を鍛えられるのもあるしな? ……でもなァ」


 エルガーが汗を流して着替える様子からなんでか目が離せないまんま、ふと俺はカスパーン爺さん配下の軍人さんたちが俺と一緒に迷宮探索に同行したときのことを思い出して……、ため息が出ちまった。


「顔に出てるよ、姉さん。――兵隊さんたちに見られないようにね?」


「つってもよぉ? そりゃ、狩りに慣れてるオマエらや、傭兵のアドンや、軍司令官な爺さん並みの技量を求めるのは間違いだ、ってのは解ってんだけどよ」


 あれから迷宮探索に潜るときはエルガーたちは連れてってねェけど、さ。


 正直、ヒドラ手前までならエルガーたちの方が絶対マシだよな、ってレベルで兵隊さんたちが足手まとい過ぎて。


「兵隊さんたちの本来の相手は人間なんだから、精霊や魔物相手に上手く動けなくたって仕方ないでしょ?」


「それが、そうも言ってられねえらしくってな。――北東の話、聞いてっか?」


「北東って、父さんと母さんが調査中の?」


水球(ロルン・コロン)>に突っ込んだ短衣をざぶざぶと掻き回して汗を洗い流しながら、ついでみたいに顔を洗ってるエルガーが、目を瞬かせながらそんな風に聞き返して来て。


「オゥ、そこの話だ。アドンとサーティエはカスパーン爺さんの地域守備隊の先遣隊って役割でそこ周辺の村で頻発してる『発火現象』の調査に出かけてんだが――、どうも、魔力災害っつか、魔物の仕業かもしれねえ、って話になってるらしいぜ」


「――どこ情報? それ」


「盗賊ギルドの密偵情報だってよ。昨日ハインと婚約発表の打ち合わせやったときに、そんな話をオマエに言付かった。そのうちカスパーン爺さんからも知らされるネタだってよ」


「……カスパーン卿が使ってる密偵と根っこが同じなんだろうね。……それは信用出来る話なんだろうなあ」


「俺の前でまで態度隠すんじゃねェよ。心配だろうが」


 いつも通りの平気な振りしたポーカーフェイスでやり過ごそうとしたエルガーに怒ったら、ちょっと驚いた風に俺の方を見返して来て。


 ……ほんとは、『発火現象がモノだけじゃなくて人間にも及んだ』って情報も聞かされたんだが、これだけ動揺してるエルガーにゃ聞かせねェ方が良さそうだ。


「……やっぱり姉さんには敵わないな。どうして、分かるの?」


「俺は人間じゃねェ人形だからな、五感が鋭すぎんだよ。心臓の拍数や発汗量は増加するし、ストレス性ホルモンで匂いが変わるんだよ人間ってのは」


「それはほんとに隠し事出来ないな……、でも。いま、僕の胸が高鳴ってるのは、父さんと母さんには悪いけど。そっちの話じゃないよ?」


「――解ってるっつの。……突っ込むなよ!? いいか、ぜったいだぞ!!」


 そんなこと言ったら、めっちゃ笑いを堪えてるエルガーの顔が間近に迫って来て……、壁ドンっていうのか、これ? 俺のすぐ横の壁に片手ついて、俺に顔を寄せて来て。


「クソが、どんどん強気になりやがって……」


「そりゃ、多少はね? 一応、未来の夫だから。……イヤ?」


「イヤだったらとっくにオマエなんざ肉塊に変わってらァ」


 ぶっきらぼうに答える合間にもにやにや笑いで俺の顔を間近から見つめて来るんで、どんっ、って勢いで両手に持ってたバスタオルをエルガーの胸に突き付けたら。


 受け取りしな、俺の両手の指先を珍しいものでも見るように、エルガーが片手で軽く摘んで。


「――爪、塗ったの?」


「アァ? ちげぇよ! 寝て起きたら塗られてたんだよ!!」


 別に人形の身体だから眠くはならねェんだが、ずっと起きてると脳みそが疲れちまうんで、一応眠るこた出来る、んだけど。


 ……応接間になってる広間のソファで横になってたら、起きたら手と足の指が真っ赤に塗られてて!


「……落とし方が、分からない、……って、オチ、でしょ?」


「しょーがねえだろ、水で洗っても落ちねえんだもんよ! 全力で笑うの堪えてんじゃねーよ、笑うなら笑えっつの!!」


 手を振り払って怒鳴りつけたら、一応は気を使ってんのか、壁ドン姿勢のまんまで顔を背けてくすくす笑い始めてさ。ほんっとに、笑い上戸だよなあ。


「メイドさんたちのいたずらだね、きっと。いつもお世話になってるんだから、まあ、たまにはサービスしなきゃ?」


「……だから、やろうと思えば爪引っ剥して再生も出来るのに、一応そのままにしてんじゃねーかよ」


「ふふっ、痛がりのコテツには無理だよ、そんなの。……さ、そろそろ朝食に行かないと、我が家の小さな調理担当のアユカちゃんが食堂で待ちくたびれてるよ」


 さり気なく名前呼びしやがって。そんで、無防備に鍛えまくってる上腕二頭筋晒しやがって。


 ……かぷっ。


「っつっ! つぅぅ、どうも、慣れないなぁ、これ」


「オマエがいい、つったんだから、ちゃんと我慢しろよ」


 口を半開きで喋ってるんでちゃんと言葉になってるかは怪しいけど。


 盛り上がった筋肉に牙を突き立てられて、蕩けるくらいに甘くて腰が抜けそうになるくらいに旨い血を俺に啜り飲まれてる最中でも、コイツは涼しい顔のまんまで、さ。


「ふふっ、昨晩も可愛かったよ」


「そういうこと外で言ったらぶち殺すからな?」


 きっと、赤面出来てたら俺は今頃ゆでタコみたいに全身真っ赤になってたと思う。


 レムネアが居なくなって一ヶ月、エルガーの14歳の誕生日を来月に控えて、俺がハインとの婚約を受諾する流れの中で。




 まあ、俺と、エルガーは、『事実婚』って関係になって……、その、なんだ、やるこたやってんだよ!


 すげえ痛かったけど、その倍も気持ちよかった、以上っ!



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