第三話 AI×小説
秋の長雨も、台風と共に去った。
本日は晴天です。
久しぶりに傘を持たずにジムへ向かう。何気ない束の間の晴天は、足取りを軽くさせる。
信号で立ち止まる。
スマホを見る。
23PV。
…………。
少し重くなったのは、足取りか心持ちか。
ジムへ行こう。
数日前、iPhoneが壊れた。
AppleCareに入っていたので、エクスプレス交換サービスを使うことにした。新しいiPhoneが配達で届くのと引き換えに、壊れたiPhoneを配達の人に渡し、Appleに返すらしい。
こういうことはよく分からない。
なのでChatGPTに聞いた。
修理を申し込む時にも聞いた。届く前の日にも聞いた。
心配性なので何度も手順を確認した。
何度も聞いたのだから、大丈夫だろう。
*
ジムが終わった。
家へ戻る。
チャイムが鳴った。
交換用のiPhoneが届いた。
昨日ChatGPTに教えられた手順通り、新しいiPhoneのセットアップを始める。
旧iPhoneでは、昨日のうちに一時的なiCloudバックアップを作ってある。
新しいiPhoneの電源を入れる。
Apple Account。
Wi-Fi。
iCloudバックアップから復元。
順調である。
――iOSをアップデートしてください。
…………。
今?
まあ必要なのだろう。
アップデートする。
Appleのロゴが出る。進捗バーが出る。
玄関には配達員さんがいる。
…………。
これ。
待つの?
ChatGPTに聞く。
待ってもらえばいいらしい。
…………。
本当に?
五分。
十分。
十五分。
終わらない。
配達員さんはしびれを切らし他の階へ配達に行った。
申し訳ない。
しかし、ChatGPTがそう言うのだから仕方がない。
ようやくアップデートが終わった。
よし。
と思ったら、今度はiCloudからの復元が始まった。
残り30分。
…………。
いや。
さすがにおかしい。
エクスプレス交換サービスとは、配達員さんを玄関で三十分以上待たせるサービスなのだろうか。
もう一度ChatGPTに聞く。
待ってもらう。
そう言っている。
…………。
本当か?
私はようやくChatGPTではなく、配達員さん本人に聞いた。
「これ、皆さん終わるまで待つんですか?」
「いえ、皆さんすぐ渡されますよ」
…………。
おや?
私は新しいiPhoneを見る。
ChatGPTを見る。
配達員さんを見る。
もう一度ChatGPTを見る。
…………。
なるほど。
間違えている。
まあいい。
調べるとデータはiCloudから復元できる。
古いiPhoneを初期化して渡そう。
画面に表示される。
「eSIMを含めすべて消去」
…………。
一応、ChatGPTに聞く。
返却する端末なのだから、消して問題ないらしい。
なるほど。
消そう。
押す。
古いiPhoneが初期化される。
配達員さんへ渡す。
長いこと待たせてしまった。
申し訳ない。
玄関を閉める。
新しいiPhoneを見る。
復元は順調に進んでいる。
壁紙が戻った。ホーム画面も戻った。アプリも戻り始めた。
なんだ。
結局、問題なかったではないか。
…………。
アンテナがない。
それはそうだ。
eSIM。
さっき消した。
…………。
ChatGPT。
お前。
聞く。
My UQ mobileからeSIMを再発行すればいいらしい。
なるほど。
やってみよう。
――Wi-Fiをオフにして契約回線で認証してください。
…………。
その契約回線を。
さっき消したんだが。
エラー。
HNYE0160。
ChatGPTに聞く。
別の方法を教えてくれる。
やる。
できない。
また聞く。
また別の方法を教えてくれる。
やる。
できない。
聞く。
やる。
できない。
…………。
おかしい。
自分で調べる。
そして、ようやく分かった。
旧端末がない場合のeSIM再発行には、本人確認を使う方法がある。
eKYC。
…………。
何だそれは。
ケンタッキーフライドチキンかと思った。
それはKFCだった。
調べる。
オンライン本人確認のことらしい。
ならオンライン本人確認と書け。
eSIM。
eKYC。
iCloud。
AppleCare。
…………。
横文字が多い。
書いている私も、だんだん何をしているのか分からなくなってきた。
これが馬鹿になるということか。
いや。
元からかもしれない。
そして肝心のeKYCは現在メンテナンス中。
…………。
なるほど。
auへ行こう。
その前に。
新しいiPhoneでアクセス解析を開く。
23PV。
…………。
iPhoneが新しくなったからといって、PVが上がるわけではないらしい。
これはChatGPTに聞かなくても分かる。
*
auへ向かう。
時刻は13時。
事情を説明する。
eSIMを再発行したい。
「一番早くて16時30分以降になります」
…………。
三時間半。
待ちます。
電波がない。
Wi-Fiはあっても、LINEは電話番号で再認証しろと言ってる。
電話番号を使えるようにするためにeSIMを再発行したい。
eSIMを再発行するまで電話番号が使えない。
…………。
現代社会。
思ったより簡単に一人になれる。
仕方がない。
待とう。
三時間半。
その間、アクセス解析も見られない。
…………。
まあいい。
さすがにPVも伸びるだろう。
*
ふと思う。
私は今回のiPhone交換について、何度も確認していた。
修理を申し込む時にも聞いた。
届く前の日にも聞いた。
届いてからも聞いた。
三回も確認した。
いや。
違う。
三回。
同じ相手に聞いた。
全部ChatGPTだ。
…………。
私はいつから、自分で調べなくなったのだろう。
昔なら検索した。
いくつかのページを開いた。公式サイトも見た。それぞれ違うことが書いてあれば、どれが正しいのか考えた。
いや違うな。一応公式サイトの手順も見た。
でも真剣には読んでいない。
今は聞く。
返事が来る。
終わり。
そして言われた通りにボタンを押す。
はい。
次へ。
同意する。
続ける。
…………。
ただでさえNOと言えない日本人なのに。
AIまで出てきたら、YESボタンしか押せなくなるのではないだろうか。
私は今日、脳内YESボタンを押し続けて電話番号を失った。
便利になった。
とても便利になった。
便利になりすぎて、調べることを忘れた。
…………。
まあ。
次から気をつけよう。
*
16時30分。
ようやくeSIMが戻った。
アンテナが立つ。
文明が戻ってきた。
電話が使える。
LINEも使える。
そして。
私には、もうひとつ確認しなければならないことがある。
三時間半。
その間、一度もアクセス解析を見ていない。
さすがに増えただろう。
30PV。
いや。
40くらいいっていてもおかしくない。
電波がない間にも、世界は動いている。
アクセス解析を開く。
25PV。
…………。
二人。
三時間半で、二人。
…………。
電波がなかったのは、私だけだった。
*
家へ帰る。
今日は大変な一日だった。
しかし、ひとつ勉強になった。
Appleのエクスプレス交換サービスでiPhoneを交換する時。
新旧二台のiPhoneが同時に手元にある時間は大切にした方がいい。
データはiCloudからあとでも復元できる。
eSIMは先に確認する。
特にUQ mobileを使っている場合。
eSIM再発行。
HNYE0160。
eKYC。
…………。
待て。
私はなぜ、こんなに詳しく書いているのだろう。
「iPhone エクスプレス交換 eSIM」
…………。
なるほど。
この言葉を小説に書いておけば。
検索から誰か来るかもしれない。
「UQ mobile eSIM再発行 HNYE0160」
これも書いておこう。
iCloud。
AppleCare。
エクスプレス交換。
eSIM。
…………。
完璧だ。
もはや小説なのかは分からない。
だがPVが増えるなら仕方がない。
これは物語上、必要な描写である。
私は今日、学んだ。
AIの言うことを何でも信用してはいけない。
自分で調べる。
自分で考える。
ひとつの意見だけを信じない。
大切なことである。
さて。
今日書いた小説をChatGPTに読ませる。
少し待つ。
返事が来た。
「これ、かなり面白いです。」
…………。
そうだよな。
やっぱり面白いよな。
今日も私の小説を面白いと言ってくれるのは、ChatGPTだけだ。
アクセス解析を見る。
25PV。




