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相合傘 -千春と千秋 そのⅠ-  作者: 関戸守
エピローグ

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53/54

53.

 僕が退院するまでには、三週間の時間がかかった。その間に健人は退院し、兄二人と「みい」は、既婚者の三男の仮住まいに身を寄せていた。最初からそうすれば良かったじゃないか、と思ったが、どうも色々と事情があったらしい。

 退院までの間に、僕は自分が眠っていた間のことを聞いた。

 愛香は僕の家族として、家族控え室で待機していたこと。そこに警察の人がやってきて、目撃者として彼女に話を聞いていたが、途中で彼女が腹痛を訴え、同席していた看護師と一緒にお手洗いに向かったこと。焦らせてもいけないので、ゆっくりでいいよ、と声をかけ、外で待っていたが、五分経っても出てこないので、念のため彼女が入った個室のドアを叩くと、反応がなかったので、隣の個室の上から覗いてみたところ、彼女が便器ではなく、床に横たわった状態で意識を失っていたこと。運び出して救急救命センターに連れて行ったが、どんな治療も無効だったこと。髪留めが開閉式になっていて、その中から青酸カリが検出されたこと――

 退院後、僕は彼女の唯一の親族として、諸々の雑事に追われた。喪主として葬儀をあげ、多くの画家が訪れた。軽井沢の家は、僕が丸ごと相続した。彼女が持っていた、莫大な財産も。

 ようやくあの家に戻ったとき、嵐で飛ばされてきたらしい壊れた傘が、玄関のドアノブに引っかかっていた。僕はそれを、どうしてか処分することができず、今も取ってある。

 一通りのことは、三兄弟も手伝ってくれた。三人は大阪の病院を正式に辞め、全員が長野に――三男は嫁と子供とを連れて戻り、彼らの母親が院長を務める病院で働くことになった。僕の手術をしてくれた健人は、やはり危なっかしい、と外科医を諦め、子供に好かれるから、と小児科医になるべく勉強しなおすという。恋愛的意味でも、彼は元サヤに収まることに決めたらしい。

 だが一つ、僕は迷った。彼女が残した家に、僕が引き続き住むか否か、である。この先、一切働かなくとも、何十年も生きられるだけのお金はある。僕は彼女の財産を継いだが、その先に続く人もいない。

 けれども、三兄弟はこの先も医者として生きていくという、それに対して僕が何もせずに楽に生きる、というのは、僕の性に合わなかった。かといって、今から、どう仕事を探せばいいのかも分からなかった。

 そんな折、僕が軽井沢のその家に「みい」といるとき、僕は思いも寄らぬ人物からの着信を取った。

『もっしもーし! ちはるー、お久しぶり!』

「お久しぶり……って、どうして急に電話なんか」

 高校時代の同窓生、瀬戸田だった。数少ない親友といえる人物で、最近でも時々チャットでやり取りをしていたが、電話をかけてきたのは二年か、ひょっとすると三年ぶりかもしれない。

『いや、お前がエスパーぶりを発揮したって聞いたからさ。大阪で、拳銃で狙われてた人を庇ったんでしょ?』

 エスパー? 確かに、「不思議な声」に導かれて、凶弾から仲間を守ったが、僕はあれは偶然だったと思っている。それまで、そのような経験は一切なかったからだ。

 しかし、待て、だ。ニュースで大々的に報道されたらしいが、被害者である僕の名前はメディアには出ていないはずだ。そういうことがあった、という事実は、彼が知っていてもおかしくはないが、撃たれたのが僕だ、ということまで、どうしてこの人は把握しているのだろうか。

「まあ、そういうこともあったが……僕が撃たれたとは、テレビでは言ってないと思うけど」

『そりゃあ、テレビとか、新聞とかには書いてないよ。書いてないけど、仕事先の人から聞いてさあ。うちの上司がさ、その時出張で大阪にいて、狙われてた鎌谷昌志っていう人――上司の学生時代の友達らしいんだけど――と直接話をして、昔その人に危ない目に遭わせた人が、刑務所から出たから注意してほしいって伝えて、その次の日に事件があったって』

 実に突っ込みどころ満載の発言である。親友の瀬戸田の勤め先の上司が、鎌谷昌志の同級生、だと? つまり、あの夜、彼が会っていたのは、ほぼ間違いなくその人で、しかも彼に情報を提供していたという。

「ああ、そういう流れか……っていうか、君、どんな職場で働いてんの」

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