46.
僕たちは電車で宿のある街に戻った。二日続けて弁当なのも身体に良くない、ということで、適当な定食屋に入り、僕は焼いた鯖の、昌志さんはカツの定食を食べた。彼は魚は苦手だと言っていた。
「みい」をフロントで引き取り、明日、もう一人来るのでどうしようか、と相談すると、三人部屋に変えてくれた。追加料金は僕が愛香の代わりに立て替えておくことにした。
昨日は僕が先に風呂に入ったので、この日は昌志さんに一番風呂を譲った。僕はその間に、「みい」に夕食とミルクを与えた。食後、「みい」が構え、構えと僕に擦り寄って離れなかったので、僕は椅子に座り、彼女が僕の太ももに乗ってくるのに任せた。
「なあ、みいちゃん」
「にゃお?」
「あの日、愛香の部屋で、押し入れの中、気にしてたよね。あれは一体、何だったのかな」
「みゃお……」
二次元の猫なら、人間の言葉を解するのもいるだろうが、あいにくここは三次元。僕から話しかけられているのは分かるらしい、僕と目を合わせてくるが、その問いには答えてはくれない。そうだ、これも疑問だったが、これは僕たちが答えを探すしかないのだろう。
そのうち、彼女は僕の太ももから降り、彼女が占領してしまい、僕も昌志さんも座らないソファーの定位置へと登り、丸くなってしまった。
「あれ、猫ちゃん、もう寝てしまったの」
そこにちょうど、風呂場から昌志さんが出てきた。「みい」の背中をゆっくりと撫でる。彼女は少し身動ぎしたように見えたが、やがてお互い、それもやめてしまった。
「この子は気楽なもんだね、僕たちと違って」
「逆にいい迷惑だと思ってるんじゃないの。人間様に、事前の予告なく、遠く大阪まで連れて来られて、しかもご主人様には会えず、ずっと僕たちか、宿の人と過ごしている……半分ふて腐れているのかもしれない」
「ああ……そうだね、そうかもしれない。――ん?」
部屋に突如、どこかで聞いたことがあるような歌が流れた。丸くなっていた「みい」も、驚いて目をぱっちりと開けた。僕の携帯電話の着信音ではない、昌志さんが充電していたそれを取った。
「おや、珍しいこともあるもんだね。――はい、もしもし、お久しぶり。元気してたかい?」
その言い方から、相手は古い知り合いなのだろうか。彼は僕の方を向いて、電話の向こうの人と話しながら、お風呂の方向を指さした。入っていいということなのだろう、僕がそれにうなずくと、部屋で電話するのは、僕や「みい」に迷惑になると思ったのか、昌志さんはドアを開け、僕に再び視線を送ってから部屋を出た。
――別に、少しぐらい構わないのだが。
まあ、面倒な性格の人であることは把握している、好きにさせておくことにした。
僕がお風呂から出ても、まだ彼は戻ってきていなかった。話が盛り上がって、ロビーにでも降りているのだろうか。
時刻は午後八時半。明日、早ければ愛香が退院する、その場合、退院の手続きは午前中にしなければいけないが、ここから病院まではそう遠くない、早起きになるかもしれないとはいえ、まだ眠るには早い。
たまにはテレビでも見ようかと、リモコンを探していると、僕の携帯電話が、チャットアプリからの通知を知らせた。昌志さんからだった。
『高校時代の友人が、たまたまホテルの近くに住んでいました。ホテルに出入りしている僕を見て電話してきたそうです。ちょっと二人で飲んできます。先に休んでいてください』
それなら仕方あるまい。僕であっても、高校や大学時代の友人から久しぶりの連絡があれば、会いに行って、ちょっと一杯、という気持ちは分かる。彼は部屋着で出て行ったが、よくよく彼のベッドの上を見ると、その部屋着が乱雑に置かれていた、僕が風呂に入っている間に一度部屋に戻ってきて、着替えて出て行ったのだろう。
「みい」は彼の着信音で、すっかり目が覚めてしまったらしい、ソファーから降りて、部屋の中をうろうろとしていたが、また僕に近寄ってきた。僕はテレビを見ようとするのをやめ、彼女の気が済むまで構うことにした。




