37.
詳しいことは省くが、カテーテルによる手術は成功したこと、二週間ほどは病院に留まり、徐々に心臓を慣らしていくこと、それからは自宅のある長野に戻り、地元の病院で通院を続けることになった。
その後、健人には事情を説明し、彼は愛香のところに寄ることなく、僕と昌志を病棟の出口まで見送ってくれた。
「お兄ちゃん、明日も来るよね?」
「君の入院の手続きしないといけないし」
「そうでなくても、お前は退院まで毎日来るだろう」
「よくお分かりで」
最後の斎藤医師の台詞は、半分嫌味だろう。斉藤医師に背を向けたまま、手を上げながら昌志は答えた。
エレベーターに乗り込んでから、彼は腰に片手を当てて、一つ、息をはいた。他に箱の中には誰もいなかった。
「さて、いきなり大阪まで来たはいいけど、家に帰る訳にもいかないからね……どうしようか」
「あなたの弟さんの名前でホテルを押さえています。よろしければ、ご一緒しませんか。そもそも私たちがここに来たの、私の妻がここに搬送されたからですし、最初からしばらく泊まるつもりでいたのですが」
彼の性格が、あまりいい感じのそれではない、とは気付いていた。しかし、せっかく予約したホテルがもったいない、というのもあるが、今夜寝るところに困っている人を、放っておける僕ではなかった。
――そしてもちろん、彼からも色々と事情を聞く必要がある。
彼ら兄弟に、一体何があったのか。愛香のこととは関係ないかもしれないが、僕の勘は、できる限りの情報を集めておいた方がいいと告げていた。
「いいのかい?」
「困っている人は放っておけない性分なもので」
「へえ、僕とは初対面に近いのに、ずいぶんとお人好しだね。いつか足元掬われるよ」
しかし、この男、時折口が汚いことがある健人よりも、一層失礼な物言いだ。健人が僕より年上なので、彼は僕が自分より年下だと知っていて、僕を舐めているところもあるのだろう。だが、世の中にはそのような人間もいると割り切っておく。これでも医者になれるんだから不思議なものだ。
「何とでも。あ、諸事情あって、妻の愛猫を連れてきてるんです、ちょっと離れたペットOKのところになりますが」
「寝るところさえ確保できればどこでもいいよ。もちろん猫ちゃんは好きだけど」
僕は非常に疲れていて、安全運転できる自信がなかったので、運転は彼にお願いした。警察署に寄って、夕食を済ませてくれていた「みい」と彼女のご飯を引き取り、郊外のホテルに向かった。
*
『さすが、やっぱりお前、オレたちのデキる弟じゃん』
『僕があんたらを裏切ったり、見放したりしたことがあるんか?』
『……ないね』




