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相合傘 -千春と千秋 そのⅠ-  作者: 関戸守
第九章

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34.

 太い血管が狭窄――狭くなっているということで、局所麻酔によるカテーテル治療を行うことになった。心臓の血管にカテーテルを入れ、それに付けたバルーンでステントを広げ、それによって血管を広げる手術だった。

 僕は患者の家族代表として説明を受け、同意書にサインをした。最初に渡されたいくつかの書類も書いて渡した。僕は家族専用のエリアで待機しているよう言われたが、車に残してきた猫や、健人の貴重品が心配だったので、駐車場に停めてあった車に戻った。

 「みい」はお腹を空かせていたので、とりあえずいつものチューブ状のおやつを一袋与えた。健人の貴重品は無事だったので、それも回収し、指定された場所に戻った。

 僕は非常に疲れていた。他にそこにいた人も、僕が入ってきてから十数分ほどで看護師に呼び出されて出て行ったので、その場所には僕一人になった。僕は靴を脱ぎ、長椅子に横になった。

――これは、偶然にしては、続きすぎではないか?

 愛香の、理由不明の服毒自殺未遂。彼女は死んだ姉を、恋愛感情という意味で愛していたらしい。健人の、子供の頃の病気の後遺症による、突然の意識消失、そして緊急手術。兄と共にこの病院で医師として働いていたが、何らかの理由で「追放」された。

 まだ、愛香が搬送されたという一報が入ってから、一日も経っていない。それなのに、次々と僕の周りに思いがけない事が起こり、彼らの新事実が判明していく。

 頭の中で、先程愛香の件で病院からもらった封筒の裏に描いた傘を立体化する。そこに新たな関係者、健人の兄――鎌谷昌志を、傘の骨の先に追加する。健人の兄。僕とも知り合い。彼が愛香との繋がりがあるかどうかは分からないが、話がややこしくなるので、できればあってほしくないと願う。

――これもまた、運命なのだろうか?

 僕は、これまでの人生が順調過ぎたのかもしれない。大学まで、浪人や留年を一度もすることなく卒業し、新卒で仕事にもありつけた。

 だが、もし神様がいるのならば、この辺で少し、痛めつけて成長させよう、とでも思ったのかもしれない。けれども、こんなに大きな出来事が、立て続けに起こるのは御免被(こうむ)る。

――あるいは……

 今のところ、僕自身は無事である。何の毒物も身体に入れていないし、どこかに病気やケガがある状態でもない。

――そう、僕自身、は。


*


『責任とってくださいよ! どう考えても、美香が死んでしまったのはあなた方のせいです! 弁護士もそう言っています!』

『じゃあ、仮に原因がオレたちにあったとして、責任をとるとすれば、どうとればいいんですか? 警察に出頭すればいいんですか? それとも医者を辞めれば、あなたの気は済むんですか?』

『違います! そのどちらでもありません。美香は死にました! あなたたちの医療ミスで! その事実は覆りません。それなら、あなたたちも死をもって償うべきではありませんか!? あいにく、ここにいるのはその片方しかいないようですが……』


*


 健人の手術は、一時間ほどで終わった。すっかり寝入ってしまっていた僕は起こされ、ちょうど健人の携帯電話にかかってきた、予約していたホテルからの電話に、急用ができたので少し遅れる、と返事してから、意識のないまま、複数の点滴や機械に繋がれたの彼と共に、集中治療室に入った。個室からは泣き声が聞こえる、ちらりと見ると愛香が起きていて、女性の医師か看護師かに向かって泣いているようだった。

 医師からは、もし実の兄を待てるのであれば、彼が来てから、一緒に手術の結果と、これからの治療の予定について説明しましょうか、と聞かれたので、とりあえずは健人の無事を確認できたのと、愛香の方にも顔を出さなければならなかった僕は、それを承諾した。

 二人も心配だったが、「みい」のことも気がかりだった。今日はこの季節にしては少し寒いほどだ、車内で熱中症になる危険度は低いとはいえ、彼女は昨日の夜から、ずっと車内にいるし、この後ホテルに着くまで、外に出してやれない。僕たちとは違う意味で、ストレスも溜まるだろう。

 ダメ元で警察署の柿沢さんに連絡すると、時間がかかりそうなら、宿泊先に向かうまでの数時間ぐらいなら、警察署で預かってもよい、と言ってくれたので、一度車のところに戻り、自転車でやってきた柿沢さんに、ケージに入ってもらった「みい」と、遅くなるようだったら、と、念のため夜の分のキャットフードも渡した。

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