第4章 違和感の入口
リアライズの会議室は、
業務用の静けさに包まれていた。
壁際にはホワイトボード。
中央のテーブルには、ノートパソコンと資料。
無駄な装飾のない、仕事のための空間。
「では……こちらが、現在のシステム構成です」
涼平がモニターを操作しながら説明する。
「プレゼン資料は、社内サーバーのこのディレクトリで管理しています。
編集権限はプロジェクトメンバーのみ。
閲覧ログも、基本的にはここで確認できます」
凪は、画面を覗き込みながら頷いた。
「なるほど……構成は、かなり整理されてますね」
「そこは、まあ……」
涼平は少し照れたように笑う。
「仕事なんで」
柊は、全体を見渡すように立っていた。
質問を挟むタイミングを測りながら、
必要以上に口を出さない。
「まずは、ログの確認から入ります」
凪が静かに言った。
キーボードを叩く音が、会議室に響く。
凪の指は迷いがない。
閲覧履歴。
編集履歴。
アクセス時間。
「……ふむ」
凪が、わずかに眉を寄せた。
「おかしい、というほどではないですが……
一部、気になる動きがあります」
「どんな?」
柊がすぐに問う。
「この時間帯。
通常の業務時間外に、資料へアクセスしたログが残ってます」
涼平が画面を覗き込む。
「……確かに。
この時間、該当者は社内に残っていないはず……」
「ですよね」
凪は、さらに階層を掘り下げようとした。
だが――
「……あ」
画面に表示された警告文に、凪が小さく息を吐く。
《この操作を行う権限がありません》
「ここから先は、管理者権限が必要ですね」
「つまり?」
涼平が問いかける。
「ログは残ってる。
でも、その“先”が見えない」
凪は、正直に言った。
「社内での単独調査で、涼平さんが行き詰まったの、わかります」
柊は、静かに腕を組んだ。
「……誰かが、意図的に隠している可能性もあるな」
環は、その会話を少し離れた席で聞いていた。
技術的な話は、正直、すべてはわからない。
けれど――
(……なんだか)
会議室の空気が、
ほんの少しだけ、ざらついている気がした。
誰かが、緊張している。
あるいは、何かを気にしている。
環は、無意識のうちに視線を巡らせる。
会議室のガラス越し。
廊下を行き交う社員たち。
その中に――
一瞬だけ、こちらを見る視線があった。
(……あれ?)
目が合った、気がした。
すぐに逸らされたその視線を、
環は、なぜか忘れられずにいた。
胸の奥が、
チクッとする。
怖い、ではない。
嫌、でもない。
ただ――
何かを隠しているような、
そんな感覚。
環は、小さく息を吸った。
「……柊」
「どうした?」
柊はすぐに反応する。
「今、廊下から……
誰かに、見られていたような気がして」
凪も顔を上げる。
「見られてた?」
「はい……一瞬ですけど」
環は、言葉を選びながら続けた。
「睨んでる感じじゃなくて……
不安そう、というか……」
柊は、環の表情を見て、
すぐに理解したように頷いた。
「……わかった」
凪は、すっと画面に戻る。
「環さんがそう感じたなら、
ちょっと気にしたほうがいいですね」
涼平は、3人の様子を見て、
静かに言った。
「……何か、あるのか?」
柊は、涼平を見る。
「まだ、確定じゃない。
でも――」
一瞬、言葉を切ってから続けた。
「この件、想像以上に深いところまで行くかもしれない」
会議室に、静かな緊張が落ちる。
それでも、
3人の表情に迷いはなかった。
違和感は、
確かにここにある。
そしてそれは、
もう見過ごせるものではなかった。




