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EVOLVE〜エヴォルブ〜Season11 ― 戻れる場所 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜Season11 ― 戻れる場所 ―
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第5章 揺れる噂

リアライズのオフィスは、

表向きは、いつもと変わらない日常を保っていた。


電話の音。

コピー機の稼働音。

打ち合わせの声。


だが、その水面下では、

小さなさざ波が、確実に広がり始めていた。


「ねえ……聞いた?」


コピー機の前で、

誰かが小声で(ささや)く。


「今回のプレゼン、他社と“酷似(こくじ)”してたって」

「え、マジ?」

「そんなこと、今までなかったよね?」

「調査、入ってるらしいよ」


その言葉は、

噂として形を持たないまま、

オフィスのあちこちに散っていく。



◇◇◇



涼平(りょうへい)は、自分のデスクに座りながら、

周囲の空気の変化を、はっきりと感じていた。


(……来たか)


直接、何かを言われたわけではない。

だが、視線が違う。


通りすがりに、

一瞬だけ向けられる探るような目。


それでも涼平は、

いつも通りの調子で声をかける。


「お疲れ」 「例の案件、進んでる?」


笑顔も、態度も変えない。

それが、涼平(りょうへい)なりの“踏ん張り方”だった。



◇◇◇



リアライズ近くのカフェで、

アークシステムズの3人と涼平(りょうへい)は、

簡単なランチを取っていた。


「ここ、落ち着きますね」

(なぎ)が言いながら、コーヒーをひと口飲む。


「うん……」

(たまき)は、窓際の席から外を眺めていた。


そのとき。


(……また)


胸の奥が、

ドキッとする。


視線を感じる。


ゆっくりと顔を上げると、

窓際のカウンター席に座る1人の女性と、

一瞬だけ目が合った。


すぐに逸らされる視線。


(……この人)


(たまき)は、はっきりとした違和感を覚えた。


怖くはない。

敵意とも違う。


ただ――

不安と焦りが、(にじ)んだ目。


「……環?」


(たまき)の様子に、

(しゅう)はすぐに気づく。


「どうした?」


「柊、さっきも感じたんですけど……」


(たまき)は小さく言った。


「あの窓際のカウンターの女性…… さっき、一瞬、目が合って」


(なぎ)も、さりげなく視線を送る。


「……あの人?」


(たまき)は頷く。


(にら)んでる感じじゃなくて…… 不安そう、というか……

 何かを隠してるような目でした」


(しゅう)は、すっと視線を戻した。


「……そうか……わかった」



◇◇◇



オフィスへ戻り、

(なぎ)はリアライズの社員データを確認していた。


「……いました」


キーボードを叩く手を止め、

画面を指す。


江上(えがみ)紗唯(さい)

 今回のプロジェクトメンバーの1人です」


「……さっきの女性だな」


(しゅう)が言う。


(たまき)は、画面を見つめながら静かに頷いた。


「やっぱり…… さっきの視線、偶然じゃなかったんですね」


(なぎ)は、少し考え込む。


「現時点では、何も断定できませんけど……

 少なくとも、こちらを意識してるのは確かですね」





そのころ。


別のフロアで、

紗唯(さい)は自分のデスクに座りながら、

スマートフォンを見つめていた。


画面には、

恋人の名前。


――崎山圭太さきやまけいた


紗唯(さい)は、ぎゅっと唇を噛みしめる。


(……大丈夫)

(私の名前は、出てない)

(全部、“あの人”のログを使ったんだから……)


そう、言い聞かせる。


だが――

さっきカフェで目が合った、

あの女性。


穏やかなのに、

なぜか、すべてを見抜かれそうな気がして。


胸の奥が、ざわついたまま、

静まらなかった。


違和感は、

噂となり、

視線となり、

少しずつ形を持ち始めている。


そしてそれは、

まだ誰の口からも、

名前として呼ばれていないだけだった。

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