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39.歌が裁く真実の旅路

夜明け前の冷たい風が吹き抜ける中、セリアとカイルは騎士団本部を後にした。

背後にはもう戻れない日常があり、セリアの胸には不安が渦巻いていた。

(私、本当にこれで良かったのかな……)


カイルは足早に歩きながら、ちらりとセリアを振り返る。

「迷ってるのか?」

「……うん。でも、力の真実を知るためには、これしかないと思うから」

「その意気だ。中途半端な覚悟じゃ、真実なんて掴めない」

セリアは小さく頷き、歩調を合わせる。

(リクがあんなに止めてくれたのに……私、やっぱり弱いのかな)


カイルはふと険しい顔をして足を止めた。

「静かに。誰かがこちらに近づいている」

「えっ?」

草むらがざわめき、一瞬で緊張が走る。


次の瞬間、森の中から数体の魔物が姿を現した。

全身を黒い鱗で覆った狼型の魔物が、牙を剥き出しにして唸っている。

「くそっ、早速かよ……!」

カイルが歌唱槍を構え、低く歌を奏で始める。

「――疾風よ、我が槍と共に、刃を打ち払え!」

鋭い風が槍先から放たれ、魔物を一体吹き飛ばす。


セリアも慌てて歌唱杖を構えたが、手が震えていた。

(私の歌がまた攻撃になったら……異端の力が暴走したら……)

カイルが苛立ったように叫ぶ。

「どうした、セリア! ここで立ち止まるなら、ついてくる資格なんてない!」

「でも、私……力を制御できる自信がないの!」

「自信なんて後からついてくるんだよ! とにかくやれ!」


セリアは深く息を吸い込み、震える声で歌った。

「――優しき風よ、癒しを与え、守りを導け……」

柔らかな光が放たれ、カイルの体に防御の加護がかかる。

「ふん、やればできるじゃないか」

「うん……でも、攻撃の歌は……」

「力を恐れるな。お前が恐れていたら、その力が本当に暴走する」

カイルの言葉に少しだけ勇気をもらい、セリアはもう一度深呼吸をした。



なんとか魔物を退けた二人は、近くの小川で一息つく。

セリアは膝を抱え込み、ため息をついた。

「やっぱり怖いよ……攻撃の歌を使うのが」

カイルは水を飲みながら冷静に答える。

「それが普通だ。俺たちは信仰に縛られてきたからな」

「信仰に……縛られて?」

「信仰という名の枠が、力の使い方を制限している。だが、その力が本当に悪かどうかは誰にも証明できていない」

セリアは考え込んだ。

(私の歌が本当に異端なのか、それとも……)

「もし、攻撃の歌がただの力の一形態だとしたら、どうする?」

「え……?」

「守るための歌だって、本来は力を発揮している。ただ、その力のベクトルが違うだけだ」

「でも、攻撃の歌はアリアの力とは違うって……」

「それはただの解釈に過ぎない。真実を決めるのは、使う者自身だ」

セリアはハッとした。

(確かに……信仰が決めつけているだけで、本当の力の意味を考えたことがなかったかもしれない)



その夜、焚き火を囲みながら、カイルが地図を広げた。

「次の目的地は古代遺跡だ。そこには攻撃の歌が生まれた理由が隠されているかもしれない」

「古代遺跡……そこに行けば、私の歌の正体がわかるの?」

「可能性は高い。俺たち異端者の仲間がその場所を発見したらしい。まだ確証はないが、古代の歌術に関する記録が残っているという話だ」

セリアは少しだけ期待を込めた声で尋ねた。

「それが本当なら……私の歌が異端じゃないって証明できるかもしれない」

「焦るな。真実は一つじゃない。受け入れられるかどうかは、騎士団の連中がどう解釈するかにかかっている」

「そうだよね……」

「だが、まずはお前が自分の歌をどう理解するかだ。それがなければ、どんなに証拠を揃えても無意味だ」

セリアは静かに焚き火を見つめた。

(私の歌が異端でないと信じられるようにならなきゃ……)



その時、カイルが耳を澄ませた。

「……誰かがこっちに向かってきている」

「えっ?」

森の中から人影が現れた。

「待て! あなたたちは異端者カイルと、その連れか?」

現れたのは数名の騎士団員だった。

「追跡されてたか……面倒だな」

セリアは一瞬、仲間たちの姿に安堵しかけたが、すぐに厳しい目で見られていることに気づいた。

「セリア、君は異端者と行動を共にしていると報告が入った。命令違反だ」

「違う! 私はただ……自分の歌を確かめたくて……」

「弁解は聞かない。命令に従って拘束する!」

カイルが槍を構えた。

「面倒だが、ここは突破するぞ、セリア!」

セリアも歌唱杖を握りしめ、覚悟を決めた。

(逃げるわけにはいかない……私の歌が異端でないことを証明するために!)

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