40.歌が裁く追跡の影
森の中、冷たい夜風が吹き抜ける。
セリアとカイルの前に立ちふさがるのは、神詠騎士団の隊員たち。
「セリア、団に戻れ! 異端者と行動を共にするなんて、見過ごせない!」
「違う! 私はただ、自分の歌の真実を知りたくて……」
「異端者の言い分なんて聞けるか!」
剣を構え、徐々に二人を包囲しようとする。
カイルが冷静に槍を構えた。
「こうなったら仕方ない。突破するぞ、セリア」
「で、でも……相手は仲間だった人たちだよ」
「躊躇している暇はない。捕まれば、お前は異端者として処刑されるだけだ」
セリアは震える手で歌唱杖を握りしめた。
(攻撃の歌を使えば、もっと異端者として認識されてしまう……でも、ここで捕まれば、真実を知ることはできない)
隊員たちが一斉に剣を構え、突進してくる。
「行くぞ! 異端者を拘束しろ!」
カイルが鋭い声で歌を放った。
「――疾風よ、障壁となりて防げ!」
風の壁が立ち上がり、突進を食い止める。
しかし、相手は数が多い。次々に突進してきて、風の壁が崩れ始めた。
セリアは迷いながらも、歌唱杖を掲げた。
「――優しき風よ、加護を与え、我を守れ!」
カイルを包む防御の光が強化され、剣の一撃が弾かれる。
「悪くないが、防御だけじゃジリ貧だぞ!」
「でも、攻撃の歌なんて使えない……!」
カイルが苛立ちを隠さずに叫んだ。
「お前のために俺が盾になれってか? そんな甘えが通じる状況じゃない!」
その言葉にセリアはハッとした。
(そうだ……私が自分の力を信じなければ、真実を確かめるどころか、ここで終わってしまう)
覚悟を決め、セリアは震える声で新たな歌を紡いだ。
「――響け、風の刃よ、敵を裂き、退け!」
柔らかな風が鋭さを帯び、敵の足元を切り裂く。
「ぐっ……な、なんだ、この風は!?」
騎士団員たちは足を取られ、体勢を崩す。
その瞬間を見逃さず、カイルが槍を振りかざした。
「よし、突破するぞ!」
セリアはその背中を追うように走り出した。
「待て、逃がすな!」
隊員たちが立ち上がり、追撃を始めるが、カイルが振り返りながら指示を飛ばす。
「セリア、森の奥へ走れ!」
「う、うん!」
二人は暗い森の奥へと駆け込んだ。
足元の枝が折れる音、息が荒れる音、全てがセリアの不安を増幅させる。
「カイル、どうしよう……やっぱり私、仲間を傷つけてしまった……」
カイルが足を止め、少し振り返って冷たい目を向けた。
「自分を守るために戦うのが悪いのか?」
「でも、あの人たちは私の仲間だったのに……」
「なら捕まって、異端として処刑される覚悟があるのか?」
セリアは言葉を詰まらせた。
「それは……怖いよ。でも、仲間を傷つけるのも嫌なんだ」
カイルは嘆息し、少し歩調を緩めた。
「お前が甘いのは分かってる。だが、そんな優しさだけで真実を掴めると思うな」
セリアは唇をかみしめた。
(私、どうしてこんなことになっちゃったんだろう……)
リクやレオンの顔が浮かんできて、胸が締め付けられる。
(あのまま団に残っていたら、異端として追放されてたのかな……)
カイルは少しだけ優しい口調で言った。
「お前が異端者かどうか、俺にも分からない。ただ一つ言えるのは、真実を知りたいという気持ちがあるなら、そのために戦う覚悟を持て」
「戦う覚悟……」
「力を恐れるな。力を制御できなければ、どこへ行っても同じだ」
セリアは深く息を吸い、目を閉じた。
(私は……自分の力を受け入れなきゃ。でなきゃ、仲間を守ることもできない)
「わかった……少しだけ、分かった気がする。私は、力をちゃんと受け止める」
カイルは満足そうにうなずき、歩き出した。
「それでいい。まずは遺跡へ向かうぞ。そこに答えがあるかもしれない」
その夜、焚き火を囲んでセリアは小さな声で歌を口ずさんだ。
「――風よ、私を導いて……」
その歌声は少しずつ力を取り戻し、焚き火の火花が風に揺れている。
カイルは焚き火の向こうからセリアを見つめていた。
「少しずつ、自分を見つめ直すんだ。それができれば、きっと答えが見えてくる」
「うん……ありがとう」
セリアはもう一度、深く息を吸い込み、穏やかに微笑んだ。
(私は、自分の力を受け入れる。そして、その力で守り抜くんだ)




