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24.歌裁く異端の歌

神詠騎士団本部内では、新たに捕まった異端者の話題でざわついていた。

「また異端者か……」

「最近増えてきたよな。何か裏があるんじゃないか?」

「歌の力を解放する? そんな馬鹿なことが……」


セリアはその言葉を耳にしながら、胸がざわつくのを感じた。

(解放……私の歌が異端の力だとしたら……)

先日の黒狼獣との戦いで、前世の記憶が蘇ったあの瞬間。

(音響工学……音波の共鳴……)

あの時の歌が異端者の言う「解放」と関係しているのかどうか、不安が募っていく。



その日の昼、レオン副団長が訓練場に隊員たちを集めた。

「異端者が捕まったことで、隊内に動揺が広がっている。しかし、我々は騎士団としての使命を忘れてはならない」

アイリスが続ける。

「異端者の言う“解放”が何であろうと、私たちは歌の力を信じ、守るために使う。それを忘れないように」

隊員たちは神妙な顔つきでうなずいたが、やはり不安は消えていないようだった。



午後の訓練が始まり、セリアは実戦形式の支援訓練に参加していた。

「――癒しの風よ、力を包み、命を支えよ!」

歌唱杖を振るい、仲間たちに支援を施す。

レオンが剣技を振るい、模擬戦を仕切っている。

「セリア、もう少し支援範囲を広げられるか?」

「はい、試してみます!」


(音波の拡散……響きを均一にすれば……)

セリアは歌声を少しだけ変え、トーンを柔らかく保ちながら歌を紡いだ。

「――安らぎの風よ、穏やかに流れ、全てを包め……」

光の範囲が少し広がり、隊員たちが感心したように声を上げる。

「おお、範囲が広がった!」

「すごい、まるで癒しの波が広がるみたいだ!」

レオンが微笑みながら頷いた。

「よくやった、セリア。歌の響きが全体に行き渡っている」

「ありがとうございます。音を分散させるイメージを持ったら、自然に広がりました」



訓練が終わり、隊員たちが休憩していると、話題は再び異端者の件に戻った。

「しかし、あの異端者が言ってた“解放”って何なんだろうな?」

「歌がもっと強くなるってことか?」

「いや、それって危険じゃないか? 制御できなきゃ暴走だろ」

「でもさ、もし解放が本当に力を引き出す方法なら、活用できるんじゃないか?」

「危ない考え方だな。信仰を否定してまで力を求めるのか?」

意見が分かれ、隊員たちの間で口論が始まる。


リクがその様子を見て、戸惑った表情を浮かべた。

「おい、みんな少し落ち着けよ」

「リク、お前だって知ってるだろ? セリアの歌があの黒狼獣を倒した。でも、あれが異端の力だったらどうするんだ?」

「それは……」

リクも言葉を詰まらせた。確かに、セリアの歌が強力すぎることで一部の隊員が恐れているのは理解できる。

「でも、俺はセリアを信じてる。あいつは暴走しないように必死に頑張ってた。それは俺が一番近くで見てたからわかるんだ」

「信じてるとかじゃなく、問題は力そのものだろ?」

「それでも、解放が危険だって決まったわけじゃないじゃん。少なくともセリアは暴走しなかった」

「でも、その解放の正体がわからないうちは、やっぱり不安だよ」


リクは苦笑しながら肩をすくめた。

「まあ、確かに怖い気持ちもわかる。でも、だからって疑ってばかりじゃ前に進めないだろ? 俺たち仲間だろ?」

その言葉に、一部の隊員たちが黙り込んだ。

「異端とか解放とか、正直俺にはわからない。でも、セリアが守りたいって気持ちは本物だ。それだけは信じてやってくれ」

リクの必死の訴えに、少しずつ場の空気が和らいでいった。



夜、セリアは訓練場の片隅で一人歌の練習をしていた。

(私の力が異端だと言われても、私は……)

「――癒しの風よ、全てを包み、命を守れ……」

だが、心が乱れているせいか、歌の力が不安定になり、光が途切れた。

「ダメだ……集中できない……」


その時、レオンが声をかけてきた。

「一人で悩んでいるのか?」

「副団長……」

「異端者の言葉を気にしているのか?」

セリアは少し俯きながら答えた。

「はい。私の歌が“解放”だとしたら……騎士団にいられないかもしれないって……」

レオンは優しく微笑んだ。

「君が何者であろうと、俺たちの仲間だ。それを忘れるな」

「でも、もし本当に異端の力だったら……」

「異端かどうかは結果であり、本質ではない。君が仲間を守りたいと願って歌う限り、それが正しい歌だ」

その言葉に、セリアの心が少しだけ軽くなった。

「ありがとうございます、副団長。私、もっと自分の歌を信じます」

「そうだ。それが君の強さだ」



夜空を見上げながら、セリアは決意を新たにした。

(私は異端じゃない。歌の力で仲間を守りたい。それが私の信念だ)

ふと感じた微かな風が、まるで背中を押してくれるように優しく吹いた。

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